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11.私の奥さんが可愛すぎるんだが?〜結婚してから初恋を知ったマフィア〜
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アルファのブラッドにはオメガの幼妻がいる。
八歳年下の男と結婚して二年半。
はじめは契約結婚だったのに、紆余曲折あって両想いになったのだ。そしてついに初めての夜を過ごしたブラッドは、一睡もせずとも元気いっぱいだった。
「ブラッド様、テンション上がりすぎです。元とはいえ、よく暗殺者とひと晩中くっついていられますね?」
「ひと晩じゃ足りない……信じられるか?俺を見てふにゃ~って笑ったんだぞ!?」
部下のスピネルに心底呆れた顔を向けられても、ブラッドには響かない。
ブラッドの妻、アクアは元暗殺者だ。幼い頃から暗殺者として育てられてきた彼はそれ以外の仕事を知らない。しかしいまは、ブラッドのことを心から信頼してくれているのがわかる。
かつてアクアは、指示を受けても自分のことを殺さなかった。それ以上の理由が必要だろうか?
そっけない態度と言葉で隠しつつも、スピネルだってアクアのことを大事に思っている。だからこそ二人が結ばれるよう、アクアの背中を押してくれたのだとブラッドは知っていた。
ブラッドは、マルティウスの街を裏で牛耳るマフィアの首領だ。艶のある黒髪をサイドバックにまとめ、彫りの深い顔に濃いグリーンの瞳をもつ。
商店の経営や不動産業の裏で闇商売もやっており、暗殺業もその一環だった。自分のファミリーを関わらせたくないときや、相当厄介な相手のときに使っていたのがアクアのいた暗殺ギルドだ。
ブラッドが首領となった五年ほど前からスピネルをスパイとして暗殺ギルドへ潜り込ませ、内部情報を伝えさせている。
滅多に油断しないという相手の暗殺に選ばれたのが『惑乱のアクア』だった。氷のように冷たい美貌をもち、オメガのフェロモンを自らコントロールできる能力を持つ。フェロモンで相手を油断させ、殺すのだ。しかし本人の乱れた姿を目にしたものはいないという噂。
重要な相手だったため秘密裏に現場を訪れたブラッドが出会ったアクアは、噂通りの美しさと凍てつくような容貌をもっていた。長い金髪に氷のような色の瞳。思っていたよりも若い。
だが……ブラッドはアルファ用の抑制剤を飲んでいるにもかかわらず、わずかに彼のフェロモンを嗅ぎ取ってしまった。フェロモンの相性がいいと薬なんて効かないと聞いたことがある。
そっけなくアクアは去ってしまったが、見たときに怪我をしていたことがどうしても気になってブラッドは彼を探した。
――スラム街の人間でさえも滅多に近寄らないゴーストタウンに、アクアはいた。きっとあんな場所、ブラッドの情報網を駆使しない限り見つけられなかっただろう。
ようやく探し出して目にしたのは、発情期特有の甘い香りのフェロモンを垂れ流し、乱れた身体のまま死にかけているアクアだった。
「ブラッド様、正気ですか!こんな、いつ牙を剥くとも知れない子……」
「子、といえるくらい若いのは分かっているだろう?放っておけないよ」
毒に侵されていた彼を深く考えずに連れ帰り、周囲の反対を押し切って自ら世話をする。オメガと遊んだことは何度もあるし独占欲を感じたこともないが、ヒートに乱れる彼を他の人に見られるのは嫌だった。
見た目が好みだから?――美人なんて探さなくとも寄ってくる。フェロモンの相性が良さそうだから?――相性ってなんだろう。恋をしたことのない自分には分からない……
そして回復し目覚めたアクアに、契約という名の結婚を持ちかけたのだ。
自分でもよくわからない。契約なら相手は誰でもいいはずなのに、彼に対しては恋とは違う……不思議な情が湧いていた。
美しく孤高のオメガ、当時十六歳。後ろ暗い仕事をしているとは思えないほどその瞳は無垢で、純粋だ。それに……ヒートのときのアクアは凄艶だった。
快感に従順で、性的な知識はなにも持っていない。自分の指一本で乱れる彼を目にしてしまったら、もう手放せないと感じてしまったのだ。
やりたい放題だった前首領を手に掛けたとき、クリーンな組織に変えて行くと誓っていなかったら、ブラッドはラットを起こしてアクアを貪り尽くしてしまったに違いない。
オメガなんてこれまで何人も相手にしてきたはずなのに、ここまで心を揺さぶられる相手は初めてだった。
「おはよう!私の奥さん」
「……おはようございます」
自分の屋敷で共に生活を始めて、毎日朝食のあいだだけ顔を合わせる。発情期以外は無感情、無表情がトレードマークだったアクアは、一緒になって一年を過ぎるころからだんだんと変わってきた。
氷が解けていくように、固い蕾が綻んでいくように、彼は人間らしさを見せ始める。小さく笑うようになったときは、笑顔が可愛らしくてもっと見たくなった。
八歳年下の男と結婚して二年半。
はじめは契約結婚だったのに、紆余曲折あって両想いになったのだ。そしてついに初めての夜を過ごしたブラッドは、一睡もせずとも元気いっぱいだった。
「ブラッド様、テンション上がりすぎです。元とはいえ、よく暗殺者とひと晩中くっついていられますね?」
「ひと晩じゃ足りない……信じられるか?俺を見てふにゃ~って笑ったんだぞ!?」
部下のスピネルに心底呆れた顔を向けられても、ブラッドには響かない。
ブラッドの妻、アクアは元暗殺者だ。幼い頃から暗殺者として育てられてきた彼はそれ以外の仕事を知らない。しかしいまは、ブラッドのことを心から信頼してくれているのがわかる。
かつてアクアは、指示を受けても自分のことを殺さなかった。それ以上の理由が必要だろうか?
そっけない態度と言葉で隠しつつも、スピネルだってアクアのことを大事に思っている。だからこそ二人が結ばれるよう、アクアの背中を押してくれたのだとブラッドは知っていた。
ブラッドは、マルティウスの街を裏で牛耳るマフィアの首領だ。艶のある黒髪をサイドバックにまとめ、彫りの深い顔に濃いグリーンの瞳をもつ。
商店の経営や不動産業の裏で闇商売もやっており、暗殺業もその一環だった。自分のファミリーを関わらせたくないときや、相当厄介な相手のときに使っていたのがアクアのいた暗殺ギルドだ。
ブラッドが首領となった五年ほど前からスピネルをスパイとして暗殺ギルドへ潜り込ませ、内部情報を伝えさせている。
滅多に油断しないという相手の暗殺に選ばれたのが『惑乱のアクア』だった。氷のように冷たい美貌をもち、オメガのフェロモンを自らコントロールできる能力を持つ。フェロモンで相手を油断させ、殺すのだ。しかし本人の乱れた姿を目にしたものはいないという噂。
重要な相手だったため秘密裏に現場を訪れたブラッドが出会ったアクアは、噂通りの美しさと凍てつくような容貌をもっていた。長い金髪に氷のような色の瞳。思っていたよりも若い。
だが……ブラッドはアルファ用の抑制剤を飲んでいるにもかかわらず、わずかに彼のフェロモンを嗅ぎ取ってしまった。フェロモンの相性がいいと薬なんて効かないと聞いたことがある。
そっけなくアクアは去ってしまったが、見たときに怪我をしていたことがどうしても気になってブラッドは彼を探した。
――スラム街の人間でさえも滅多に近寄らないゴーストタウンに、アクアはいた。きっとあんな場所、ブラッドの情報網を駆使しない限り見つけられなかっただろう。
ようやく探し出して目にしたのは、発情期特有の甘い香りのフェロモンを垂れ流し、乱れた身体のまま死にかけているアクアだった。
「ブラッド様、正気ですか!こんな、いつ牙を剥くとも知れない子……」
「子、といえるくらい若いのは分かっているだろう?放っておけないよ」
毒に侵されていた彼を深く考えずに連れ帰り、周囲の反対を押し切って自ら世話をする。オメガと遊んだことは何度もあるし独占欲を感じたこともないが、ヒートに乱れる彼を他の人に見られるのは嫌だった。
見た目が好みだから?――美人なんて探さなくとも寄ってくる。フェロモンの相性が良さそうだから?――相性ってなんだろう。恋をしたことのない自分には分からない……
そして回復し目覚めたアクアに、契約という名の結婚を持ちかけたのだ。
自分でもよくわからない。契約なら相手は誰でもいいはずなのに、彼に対しては恋とは違う……不思議な情が湧いていた。
美しく孤高のオメガ、当時十六歳。後ろ暗い仕事をしているとは思えないほどその瞳は無垢で、純粋だ。それに……ヒートのときのアクアは凄艶だった。
快感に従順で、性的な知識はなにも持っていない。自分の指一本で乱れる彼を目にしてしまったら、もう手放せないと感じてしまったのだ。
やりたい放題だった前首領を手に掛けたとき、クリーンな組織に変えて行くと誓っていなかったら、ブラッドはラットを起こしてアクアを貪り尽くしてしまったに違いない。
オメガなんてこれまで何人も相手にしてきたはずなのに、ここまで心を揺さぶられる相手は初めてだった。
「おはよう!私の奥さん」
「……おはようございます」
自分の屋敷で共に生活を始めて、毎日朝食のあいだだけ顔を合わせる。発情期以外は無感情、無表情がトレードマークだったアクアは、一緒になって一年を過ぎるころからだんだんと変わってきた。
氷が解けていくように、固い蕾が綻んでいくように、彼は人間らしさを見せ始める。小さく笑うようになったときは、笑顔が可愛らしくてもっと見たくなった。
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