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まだ明るいうちにスパ・スポールを出て、オート・バスに乗って向かうのはリアンの家だ。僕は怪我が治り自分ひとりで生活できるようになっても、図々しくリアンの家に居座っていた。
償いたいと言ったリアンは、今のところ僕のわがままに全て頷いている。リアンの休日に合わせて僕もお休みにしてもらって、丸一日やりたいことに付き合ってもらったり。
まぁ、別に僕だって鬼じゃない。
報酬は変えないまま、家事は毎日ちょこちょこやらせてもらうことにした。どうせご飯を作るなら、人のために作ったほうがやりがいもあるし。二日分の溜まった掃除や洗濯物を片付けるより遥かに仕事がラクになった。
ディムルドとブリギッドには『熟年夫婦みたい』とからかわれるほど、僕らの生活は落ち着いていた。
僕にとっては好きな人とひとつ屋根の下にいられるんだから、幸せっちゃ幸せだ。諍いもないし、朝晩一緒に食事をできるのも嬉しい。しかしそれは、薄氷の上に成り立つ平穏ともいえる。
どんなに幸せで楽しくても、これはリアンが償いのために提供してくれている時間だと思うとサッと醒めてしまう。僕たちはまだ、本音でぶつかり合えていなかった。
リアンだって……寝る前とか、僕のことを熱のこもった目で見ていることがあるのだ。気のせいかもしれないけど……彼だって男の子だ。溜まってたり……するときに、僕との発情期のことを思い出したり、してない?しないかな??
まぁ、人のことは全く言えないですが!お風呂上がりのリアンは目の毒すぎる。
「ただいま。遅くなってごめん」
「あ、おかえりなさい!はやくはやく!お腹へっちゃった」
いつも通り仕事で遅くなったリアンを出迎え、一緒に夕飯を食べる。まだまだ寒い日が続いているから、今日はサーモンとほうれん草のホワイトソースドリアだ。
氷の美貌ともいわれる人が、ふぅふぅ冷ましながら食べ進めているのを見ると胸がキュッとなる。猫舌でさえギャップだ。
別に狙ったわけでなく、僕はホワイトソースを使った料理が大好きなのだ。冬はシチューとかグラタンばかり作るし、カレーやオムライスにだって掛けてしまう。そんなことばっかりしてるから太っちゃうんだけど……
しかも療養中、心配したリアンがひたすら美味しそうなものばかり買って来たから、お陰さまで痩せるどころかお肉がついてしまった。筋肉が落ちたせいで体重は変わらないけど……リアンは僕を太らせて、どうしたいんですか?
「メグ。週末に付き合ってほしい場所があるんだが、いいか?」
「いいですけど……どこに?」
「それは……秘密だ」
「ふーん」
リアンから誘われるのは久しぶりだ。素っ気なく返事をしたけど、ちょっとニマニマしてしまった。だって、週末は僕の誕生日だから。
どう考えてもリアンはパーティーを開くぜ!って柄ではないからなぁ。どこかへ連れて行ってくれるんだろうか?なんにせよ、一緒に過ごせるだけで嬉しい。
何気にもう前回の発情期から三か月が経っている。今のところ二度目が始まりそうな気配はない。
まだ発情期の経験は一度だけだし、悪質な発情促進薬を飲まされたせいで、周期は乱れる可能性が高いと医者には言われている。自分の周期もわかっていない段階だけど。一般的な目安の三か月が過ぎたから、もういつ来てもおかしくはないだろう。
今回は抑制剤ももらっているし、前回ほどの不安はない。僕限定でお世話のスペシャリストになりつつあるリアンもいるし。
だけど……さすがになにも話し合わない今の状態のまま発情期の相手をしてもらうつもりはなかった。発情期中は前後不覚になって、余計なことを言ってしまう可能性も高いから困る。
今度こそちゃんと話を聞かせてもらいたいし、僕の気持ちも伝わるまでしっかり伝えたいと思っている。もう一度は振られたみたいなもんだから怖くなんて……ない。
せっかく誘ってくれたんだし、週末にしよう。これはリアンの本音を引き出す戦いだ!
リアンがちらちらと挙動不審にこちらを見ていることにも気づかず、僕は静かに闘志を燃やした。
償いたいと言ったリアンは、今のところ僕のわがままに全て頷いている。リアンの休日に合わせて僕もお休みにしてもらって、丸一日やりたいことに付き合ってもらったり。
まぁ、別に僕だって鬼じゃない。
報酬は変えないまま、家事は毎日ちょこちょこやらせてもらうことにした。どうせご飯を作るなら、人のために作ったほうがやりがいもあるし。二日分の溜まった掃除や洗濯物を片付けるより遥かに仕事がラクになった。
ディムルドとブリギッドには『熟年夫婦みたい』とからかわれるほど、僕らの生活は落ち着いていた。
僕にとっては好きな人とひとつ屋根の下にいられるんだから、幸せっちゃ幸せだ。諍いもないし、朝晩一緒に食事をできるのも嬉しい。しかしそれは、薄氷の上に成り立つ平穏ともいえる。
どんなに幸せで楽しくても、これはリアンが償いのために提供してくれている時間だと思うとサッと醒めてしまう。僕たちはまだ、本音でぶつかり合えていなかった。
リアンだって……寝る前とか、僕のことを熱のこもった目で見ていることがあるのだ。気のせいかもしれないけど……彼だって男の子だ。溜まってたり……するときに、僕との発情期のことを思い出したり、してない?しないかな??
まぁ、人のことは全く言えないですが!お風呂上がりのリアンは目の毒すぎる。
「ただいま。遅くなってごめん」
「あ、おかえりなさい!はやくはやく!お腹へっちゃった」
いつも通り仕事で遅くなったリアンを出迎え、一緒に夕飯を食べる。まだまだ寒い日が続いているから、今日はサーモンとほうれん草のホワイトソースドリアだ。
氷の美貌ともいわれる人が、ふぅふぅ冷ましながら食べ進めているのを見ると胸がキュッとなる。猫舌でさえギャップだ。
別に狙ったわけでなく、僕はホワイトソースを使った料理が大好きなのだ。冬はシチューとかグラタンばかり作るし、カレーやオムライスにだって掛けてしまう。そんなことばっかりしてるから太っちゃうんだけど……
しかも療養中、心配したリアンがひたすら美味しそうなものばかり買って来たから、お陰さまで痩せるどころかお肉がついてしまった。筋肉が落ちたせいで体重は変わらないけど……リアンは僕を太らせて、どうしたいんですか?
「メグ。週末に付き合ってほしい場所があるんだが、いいか?」
「いいですけど……どこに?」
「それは……秘密だ」
「ふーん」
リアンから誘われるのは久しぶりだ。素っ気なく返事をしたけど、ちょっとニマニマしてしまった。だって、週末は僕の誕生日だから。
どう考えてもリアンはパーティーを開くぜ!って柄ではないからなぁ。どこかへ連れて行ってくれるんだろうか?なんにせよ、一緒に過ごせるだけで嬉しい。
何気にもう前回の発情期から三か月が経っている。今のところ二度目が始まりそうな気配はない。
まだ発情期の経験は一度だけだし、悪質な発情促進薬を飲まされたせいで、周期は乱れる可能性が高いと医者には言われている。自分の周期もわかっていない段階だけど。一般的な目安の三か月が過ぎたから、もういつ来てもおかしくはないだろう。
今回は抑制剤ももらっているし、前回ほどの不安はない。僕限定でお世話のスペシャリストになりつつあるリアンもいるし。
だけど……さすがになにも話し合わない今の状態のまま発情期の相手をしてもらうつもりはなかった。発情期中は前後不覚になって、余計なことを言ってしまう可能性も高いから困る。
今度こそちゃんと話を聞かせてもらいたいし、僕の気持ちも伝わるまでしっかり伝えたいと思っている。もう一度は振られたみたいなもんだから怖くなんて……ない。
せっかく誘ってくれたんだし、週末にしよう。これはリアンの本音を引き出す戦いだ!
リアンがちらちらと挙動不審にこちらを見ていることにも気づかず、僕は静かに闘志を燃やした。
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