47 / 58
47.
しおりを挟むゆっくりと目を開くと、見知らぬ天井……ではあるが、明らかにそこは病室だった。
朝だろうか?閉じられたカーテンの隙間から日が差し込んでいる。
僕はもう自分の状況を思い出していた。昨日?の事件がきっかけで、たぶん……生死の境を彷徨っていた。あれは夢だったんだろうか。
右手は温かく、大きな手に包まれている。慣れない感触だったけど、その主はもう分かっていた。
右に顔を向けると、リアンが椅子に座ったままベッドに突っ伏して眠っている。いつもさらさらな髪は乱れて、無造作に一括りにされていた。
「……りあん」
気づけば喉はカラカラで、掠れた咳みたいな声しか出なかった。それなのに、握った手がぴくっと反応したかと思うと、次の瞬間リアンは目を覚ました。
「メグ!!」
「リアン……ありがとう」
「俺の方こそ……俺のほうが……!」
人工呼吸器越しの小さな囁きを拾って、リアンは僕の手を掴んだまま両手で顔を覆ってしまう。
それでもすぐにナースコールを押し、水差しで水を飲ませてくれた。リアンの顔は真っ赤で、目が若干潤んでいるように見えたのは気のせいかな。
やってきた医師から診察を受け、僕の記憶に抜けがないことを確認したあと、身体の状況を医師が教えてくれた。
脇腹の刺し傷は、応急処置が的確で大事には至らなかったこと。あとやっぱり飲まされた薬はとんでもない劇薬だったようだ。そのせいでショック症状を起こして死にかけたらしい。
昨夜はなんども呼吸が止まりかけて危なかったが、朝方に回復の兆しが見えたこと。もう安静にしていれば徐々に回復していく予定だそうだ。
あと心肺蘇生の過程で肋骨にヒビが入っているから気をつけてね、とのこと。
確かに少しでも身体を動かそうとすると泥のように重く、胴体部分は痛かった。でもこれから良くなっていくと思えばなんてことない。夢で感じた苦しみは本物だったんだろう。
不思議な感覚ではあるものの死を克服したことで、生きていれば何も怖くないとさえ思える。生まれ変わったような心地だった。
その後は代わる代わる人が訪れて、その間にリアンも一度自宅に帰った。夜にもう一度来てくれると約束して。
リアンには聞きたいこと、話したいことがたくさんある。もう一度二人きりになったら、ゆっくり話したい。
警察官が話を聞きに来たとき、ディムルドがいてくれて本当に助かった。僕の把握できていた状況はごく一部だからうまく説明できなくて、それを補完してくれたおかげで自分の頭の中も整理ができた。
犯人が話した情報も含めるとこういうことだった。
ことの始まりは、ラハーヌという異世界転移研究所の職員がリアンに抱いた妬みだった。
ラハーヌはアルファだが、生まれつきフェロモン枯渇症という体質で、生活に支障はないがオメガと番契約を結ぶことができないらしい。具体的には項を噛んでも番にはなれないし、フェロモンでオメガを安心させることもできない。しかしその精液にはオメガを妊娠させたり、発情期を早く終わらせる効果もちゃんとあるようだ。
血液検査ではアルファと診断されるものの、ベータ寄りの体質は彼の性格を歪めてしまった。
同じアルファなのに、リアンの方が優れていて見下されている。みんなそう思っている……という被害妄想をずっと抱いていたらしい。挙句の果てに迷い人のかわいい(?)オメガを囲い、奇跡的にできた恋人さえあいつのことを憧れだと言う。
飲み屋で出会った迷い人のキリトにそれを零すと、深く同調してくれ、煽られた。金に困っていたキリトに報酬をチラつかせれば積極的に協力もしてくれて、素行の悪そうな連中に声を掛け犯行に至ったそうだ。
僕の生活パターンはかなりわかりやすい。オーエン経由でそれを把握したラハーヌは犯行計画を立て、怪しい薬を手に入れて実行した。
僕はひとりでフラフラと出歩きまんまと引っかかったわけだが、拉致された現場を目撃してリアンと警察に知らせてくれた人がいたらしい。僕がここへきて間もない頃、その裏路地で会ったことがある女性のカップルだという。たぶん急な発情期で番を待っていた人かな?
なぜリアンに?と思ったけど、迷い人の僕はリアンとセットでそれなりに知られているようだ。おかげでリアンが一番はじめに到着して助けてくれたのだから、感謝してもしきれない。
あとは覚えているとおり、リアンがその場にいた全員を倒して、しかしながらその間に僕が負傷してしまったという訳だ。リアンが話を聞いたとき一緒にいたディムルドから話がスパ・スポールのみんなにも伝わり、有志が集まって捜索に加わってくれたみたいだ。
僕の応急処置にも多くの人が協力してくれていたようで、本当に申し訳ない。特にターザは的確な応急処置の一番の功労者らしい。
「あのときはメグムくんが死んじゃうんじゃないかってみんな真っ青だったけど、二人の協力プレーには胸が熱くなったな~!」
「協力プレー?どういうことですか?」
「ターザって人がメグムくんに心臓マッサージをして、リアンが人工呼吸したんだよ。あれあれ、まだ聞いてなかった?」
「人工呼吸……」
そんな風に考えるのも馬鹿らしいと思う。でも……でも!
それって、リアンの唇が僕の唇に触れていたわけで……なにも覚えていないのに、自分で唇に触れて、それを想像して真っ赤になる。
僕に負担をかけないようにとみんなが早々と帰ってしまっても、夜になるまで僕はひとり悶えてばかりいたのだった。
165
お気に入りに追加
201
あなたにおすすめの小説
一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!
当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。
しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。
彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。
このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。
しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。
好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。
※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*)
※他のサイトにも重複投稿しています。
誰よりも愛してるあなたのために
R(アール)
BL
公爵家の3男であるフィルは体にある痣のせいで生まれたときから家族に疎まれていた…。
ある日突然そんなフィルに騎士副団長ギルとの結婚話が舞い込む。
前に一度だけ会ったことがあり、彼だけが自分に優しくしてくれた。そのためフィルは嬉しく思っていた。
だが、彼との結婚生活初日に言われてしまったのだ。
「君と結婚したのは断れなかったからだ。好きにしていろ。俺には構うな」
それでも彼から愛される日を夢見ていたが、最後には殺害されてしまう。しかし、起きたら時間が巻き戻っていた!
すれ違いBLです。
ハッピーエンド保証!
初めて話を書くので、至らない点もあるとは思いますがよろしくお願いします。
(誤字脱字や話にズレがあってもまあ初心者だからなと温かい目で見ていただけると助かります)
11月9日~毎日21時更新。ストックが溜まったら毎日2話更新していきたいと思います。
※…このマークは少しでもエッチなシーンがあるときにつけます。
自衛お願いします。
次男は愛される
那野ユーリ
BL
ゴージャス美形の長男×自称平凡な次男
佐奈が小学三年の時に父親の再婚で出来た二人の兄弟。美しすぎる兄弟に挟まれながらも、佐奈は家族に愛され育つ。そんな佐奈が禁断の恋に悩む。
素敵すぎる表紙は〝fum☆様〟から頂きました♡
無断転載は厳禁です。
【タイトル横の※印は性描写が入ります。18歳未満の方の閲覧はご遠慮下さい。】
初心者オメガは執着アルファの腕のなか
深嶋
BL
自分がベータであることを信じて疑わずに生きてきた圭人は、見知らぬアルファに声をかけられたことがきっかけとなり、二次性の再検査をすることに。その結果、自身が本当はオメガであったと知り、愕然とする。
オメガだと判明したことで否応なく変化していく日常に圭人は戸惑い、悩み、葛藤する日々。そんな圭人の前に、「運命の番」を自称するアルファの男が再び現れて……。
オメガとして未成熟な大学生の圭人と、圭人を番にしたい社会人アルファの男が、ゆっくりと愛を深めていきます。
穏やかさに滲む執着愛。望まぬ幸運に恵まれた主人公が、悩みながらも運命の出会いに向き合っていくお話です。本編、攻め編ともに完結済。
エロゲ世界のモブに転生したオレの一生のお願い!
たまむし
BL
大学受験に失敗して引きこもりニートになっていた湯島秋央は、二階の自室から転落して死んだ……はずが、直前までプレイしていたR18ゲームの世界に転移してしまった!
せっかくの異世界なのに、アキオは主人公のイケメン騎士でもヒロインでもなく、ゲーム序盤で退場するモブになっていて、いきなり投獄されてしまう。
失意の中、アキオは自分の身体から大事なもの(ち●ちん)がなくなっていることに気付く。
「オレは大事なものを取り戻して、エロゲの世界で女の子とエッチなことをする!」
アキオは固い決意を胸に、獄中で知り合った男と協力して牢を抜け出し、冒険の旅に出る。
でも、なぜかお色気イベントは全部男相手に発生するし、モブのはずが世界の命運を変えるアイテムを手にしてしまう。
ちん●んと世界、男と女、どっちを選ぶ? どうする、アキオ!?
完結済み番外編、連載中続編があります。「ファタリタ物語」でタグ検索していただければ出てきますので、そちらもどうぞ!
※同一内容をムーンライトノベルズにも投稿しています※
pixivリクエストボックスでイメージイラストを依頼して描いていただきました。
https://www.pixiv.net/artworks/105819552
陰キャ系腐男子はキラキラ王子様とイケメン幼馴染に溺愛されています!
はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。
まったり書いていきます。
2024.05.14
閲覧ありがとうございます。
午後4時に更新します。
よろしくお願いします。
栞、お気に入り嬉しいです。
いつもありがとうございます。
2024.05.29
閲覧ありがとうございます。
m(_ _)m
明日のおまけで完結します。
反応ありがとうございます。
とても嬉しいです。
明後日より新作が始まります。
良かったら覗いてみてください。
(^O^)
成り行き番の溺愛生活
アオ
BL
タイトルそのままです
成り行きで番になってしまったら溺愛生活が待っていたというありきたりな話です
始めて投稿するので変なところが多々あると思いますがそこは勘弁してください
オメガバースで独自の設定があるかもです
27歳×16歳のカップルです
この小説の世界では法律上大丈夫です オメガバの世界だからね
それでもよければ読んでくださるとうれしいです
モフモフになった魔術師はエリート騎士の愛に困惑中
risashy
BL
魔術師団の落ちこぼれ魔術師、ローランド。
任務中にひょんなことからモフモフに変幻し、人間に戻れなくなってしまう。そんなところを騎士団の有望株アルヴィンに拾われ、命拾いしていた。
快適なペット生活を満喫する中、実はアルヴィンが自分を好きだと知る。
アルヴィンから語られる自分への愛に、ローランドは戸惑うものの——?
24000字程度の短編です。
※BL(ボーイズラブ)作品です。
この作品は小説家になろうさんでも公開します。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる