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26.かゆいところに手が届く*

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 気づけば僕は夢中になって自分のペニスを扱いていた。
 自分の出したもので手までぐちゃぐちゃで、ぬるぬるの状態で擦ると腰が溶けそうなほどに気持ちいい。

「あっ……ん、あぁ!」

 達した瞬間だけ冷静な思考が戻ってくる。それもすぐにやってくる熱にかき消されてしまうのだけれど。
 そもそもいつもなら、一回出してしまえば満足するのだ。それなのに今は身体の疼きが高まるばかりで、一向に収まる気配がない。快感は確かに大きいものの、制御できない疼きには恐怖もあった。

 オメガにも抑制剤はあるらしいのだが、はじめての発情期では飲まないほうがいいと講習で習った。そういえば、発情期が来るまではセックスしないほうがいいという話もそのときに聞いたのだ。……脳裏に浮かびそうになった顔をかき消そうと、頭を振る。

 ティッシュで手を拭うと、リアンが言っていたことを思い出す。ノック、あったかな?
 僕はそろそろとドアの方へと忍び寄り、人の気配が無いことを確認して少しだけドアを開けた。よかった、誰もいなくて。
 やっぱり思考力は低下しているようで、そのとき自分が下半身裸のままドアを開けてしまっていたことに気づくのはしばらく後だ。

 足になにかが当たって目を下に向けると、茶色い紙袋が置かれていた。リアンが置いてくれたんだろう。中には何本かの飲み物と、食べやすいように剥かれた果物が入っていた。
 僕がノックに気づかなかったことは言うまでもない。

「どうしよ……声出てたの聞かれちゃったかな」

 恥ずかしくてまた身体が熱くなる。ましてや袋を開けたときに、一瞬ふわっとリアンの香りを感じたのだ。
 その香りをもっと感じたくて、ベッドへ戻り自然と枕に顔を押し付けていた。寝具を交換したのは昨日だけど……毎日使っているものにはその人の香りが染みついている。

 あぁ、堪らない。僕は土下座のような体勢のまま、誤魔化しきれない疼きにお尻へと手を伸ばした。
 後孔に触れればクチュ、と指先に粘度のある液体を感じて、ビクッと身体が震える。そこを触ったのは元の世界にいたときが最後で、かなり久しぶりだ。
 思いきって指を押し込むと、ほとんど抵抗もなく指が入っていく。中は熱く濡れ、自分の指なのに吸い付くように感じる。

「あ、あ、あ……」

 ここを使ってのセックスは何度もしたことがあるけど、異物感と痛み、圧迫感のなかに僅かな快感を得るばかりだった。前を触ってやっと達することができる程度で、それが普通だと思っていた。
 それが……今は。

 自分の指一本だからなのか圧迫感は全くなく、腔内が擦られるだけで痺れるような快感がある。ペニスには触れていないのに……これがオメガの身体なの?
 手を動かしはじめるとすぐに物足りなくなり、指を二本、三本と増やしていく。やっと感じた圧迫感さえも気持ちよくて、鼻から抜ける甘い声が漏れた。

「くぅん……あ、だめ……んんっ。もっとぉ……」

 つい、誰かに後ろから愛撫してもらっているような想像をしていた。自慰の虚しさからかけ離れた妄想をするのが僕の癖でもあるのだ。
 すでに腕は疲れを訴えているし、奥がさらなる刺激を求めているのがわかる。でも、どうしてもそこまで届かない。
 僕は見えない誰かにおねだりするみたいに腰を振り、限界まで指をねじ込んだ。

「はぁっ……欲しい……」

 指なんかじゃ物足りないし、上手くイケなかった。硬く質量のあるもので、中を擦ってほしい。今なら感じたことのない快楽を得られるはずだ。
 頭の中には、黒髪の美丈夫が浮かんでいる。……リアンにお願いすれば抱いてもらえるかな?いつしか僕はそんな浅ましい考えを抱いてしまっていた。

 むくっと身体を起こし、後孔から指を引き抜く。着ていたTシャツで雑に手を拭い、立ち上がった。ドアを開け、裸足のまま夢遊病のようにぺたぺたと廊下を歩く。
 正しいとか正しくないとかそんなことは忘れて、ただ本能に従っていた。
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