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24.はじめての発情

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 オート・バスを降りると、ホリデー・マルシェはまだ開催されていた。朝早くからやっている店は早仕舞いしているが、夕方に向けて別の店が盛り上がりを見せるのだ。

 僕はそれを見て楽しむ余裕なんてなく、みんなに連れられて人の多い大通りを避けて先へ進む。先導するのはターザだ。
 きっと、ニュイ・ドリームに向かっているんだろう。嫌だけど、そこを勧められる理由はよくわかっている。腹を括って行くしかない。

「ねぇ、あれリアンくんじゃない?」
「え……」
「ディー!」

 ダナの声に反応して前方を見ると、道の先に背の高い男性が二人いる。長い黒髪、隣には薄ピンクの髪となれば間違えようがないだろう。
 なんでここに、と思ったけど今日は彼らも休日だった。
 なぜかブリギッドが大声を出し、走って行ってディムルドに抱きついた。でぃ……?

「知らなかった?あの人ブリギッドの旦那さんだよ」
「ええー!」

 ブリギッドといえば、ニュイ・ドリームでの出会いがきっかけで恋愛し、結婚までしたという……その相手がディムルドだったのか!
 僕は目を丸くして声を上げた。ブリギッドの方が少し歳上だけど、腰に抱きついて間近で見上げながら話している様子は仲睦まじい。
 髪色の鮮やかなふたりが並んでいると目がチカチカするものの、とってもお似合いだ。

 そうこうしているうちにリアンが僕の目の前まで……来ようとしたが、ターザがその前に立ちはだかった。

「……誰だ?」
「メグムくんに近寄らないでください。今は……」

 リアンはターザの方を見ようとせず、僕に問いかけた。彼が前に進もうとするのを、ターザは腕を伸ばして止める。ターザも鍛えているから、その力は拮抗して見えた。

 ――不機嫌そうに、スッとリアンが目を細める。

 するとその瞬間、見えない圧がリアンから発せられた。……ように感じた。すぐ目の前に巨大な壁が出現したような、驚きと恐怖。
 それは一瞬のことだったけれど、目の前にいたターザは腰が抜けたように尻もちをつく。ディムルドが驚いてリアンへ何か言った。ダナも僕の隣で呆然としている。

 ……リアンが何かしたみたい。僕は困って眉を下げて、目の前までやってきたリアンを見上げた。

「リアン……」
「メグ、何かあったのか?顔が赤いし……風邪か?いや、この香り……!」
「発情期だよ。だからアルファは近寄らないでってこと!もう、急に威嚇するなんて……びっくりしたじゃない」

 僕の顔をぺたぺたと触り、額に手を当て熱を測られる。されるがままだった僕は、いつもリアンから香るマンダリンのような匂いが鼻先を掠めた瞬間、カッと身体が熱くなった。
 ダナが怒ったような声でリアンに伝えているけど、僕はそれどころじゃなかった。全身が熱くてムズムズする。身体から力が抜けて、立っていられない。

「あっ……」
「メグ!」
「リアン、落ち着いて。これ、自分で打てるね?」
「抑制剤か……ありがとう」
「ニュイ・ドリームへ行くところだったの?俺がメグムくんを運ぶよ。番もいるし、影響受けないから」

 ディムルドが液体のりのような形のものをリアンに渡し、リアンは躊躇いもなくそれを服の上から自分の太腿に突き立てた。
 
 そうしているうちに、蹲っている僕に向かってディムルドが手を差し伸べた。動くことで熱が悪化するんじゃないかと感じてしまうけど、ずっとここにいる訳にもいかないことは分かる。
 僕が差し伸べられた手を取ろうとした瞬間、横からグイッと腕が伸びてきてそれを遮った。リアンだ。

「俺が……運ぶ」
「いやいや、リアン。気持ちはわかるけど……抑制剤だって完全じゃないんだよ?」
「ディー、まぁいいんじゃない?メグムだってリアンくんがいいみたいだし」

 気づけば僕は、目の前にあるリアンの腕に縋りついていた。リアンが両腕を伸ばしてくれるから、自分からその中へと収まりに行く。
 身体はどうしようもなく疼いてそわそわする。でも……知った香りは僕にささやかな落ち着きを与えてくれた。なぜだか、安心するのだ。

 周囲の会話に集中できないうちに話はまとまったようだ。リアンとディムルド、そしてその奥さんのブリギッドが僕をニュイ・ドリームへと送ってくれることになる。
 リアンが僕を抱えているから、実質的に残りのふたりは付き添いだ。監視とか言ってたのは、どういう意味か分からなかった。

 僕を横抱きにしながら、リアンが立ち上がって歩き出す。しかしその振動や衣擦れさえもが甘い刺激となって僕へと襲いかかり、一瞬で声を堪らえるのに必死になった。
 ちょっとまって、発情期、やばいんだけど!?
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