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「もういいだろ!」
結局途中でリアンには出会わず、懐かしの異世界転移研究所にまで到着してしまった。エントランスの前で上がった息を整えようとしていると、中から聞き覚えのある声が聞こえる。リアンだ。
それが聞いたことのない怒声だったから、咄嗟にびくりと身構えてしまう。え、なにかあった……?
ロビーを覗き込むと、リアンがひと回りは歳上にみえる男の人と言い争っている。始業直前だからか周囲に人はいなかった。
二人とも白衣のような形をした紺色のシングルコートを羽織っていて、ここの制服を着ている。
「もうノンのこと、諦めるのか……?」
「違う。だけど、このやり方は間違ってるって父さんも気づいてるだろ?この前だって、俺たちのせいで、二人も……」
「だが……だが!座標はぴったりだったんだ。ここで研究をやめるなんて、私には……」
「ともかく、これからは転移の発動阻止に集中して取り掛かろう」
聞いてはいけないと思いつつ、僕は近づいて声をかけることもその場を離れることもできなかった。あのチャコールグレーの髪をしている人は、きっとリアンのお父さんだ。研究所の所長と聞いたことがある。
「そもそも父さんのせいじゃないか……俺が昔……」
「リアン。もう始業だ。この話はやめよう」
そのとき、ピカッと周囲が明るくなったかと思うと、さほど間を置かずにドーン!と雷の落ちる音がした。その直後からバケツをひっくり返したような大雨が降り出す。
ふたりは同時にエントランスの外の方へと振り向き、僕の存在に気づいてしまった。
「メグ!」
「あっ、えーと。忘れ物を届けにきたんです。ほら、パソコン。必要でしょ?」
リアンが駆け寄ってきて、僕もロビーへと足を進める。リアンの父親は立ち去ってしまった。
僕がカバンからパソコンを出して渡すと、あ゙ー、と恥ずかしそうにリアンは片手で目元を覆う。ついでに持ってきた傘も渡した。
「ありがとう……悪いな。あれ?メグの傘は?」
「急いでたので、忘れちゃいました……でも大丈夫ですから!走ればそんなに時間かからなかったし」
「はぁ、駄目に決まってんだろ。この傘は返す。研究室に置き傘があったはずだから。あとは……」
そのとき、ロビーに顔を見せたのはディムルドだった。傘を片手に持っていて今から出かけようとしている。
「ちょうどいい。外出ならメグを家まで送って行ってくれ」
「え!外出ったって仕事だって。と、いいつつオッケー!ちょうど時間に余裕あるんだよね」
リアンってすごく過保護だ。そこまでしなくても……と思いながらも、僕は快諾してくれたディムルドと一緒に帰ることになった。
数分でスコールのような雨は一旦落ち着き、ちょっと日も差してきた。ふたり並んで傘を差して、リアンの家まで歩く。実は二人で話すのは初めてだ。
ディムルドは今日、三年前に異世界から転移してきた人との面会があるようだ。地球でもないところから来た人で、こことは全く違う独特の文化を形成している世界にいたらしい。
研究所ではそういった異世界の文化を教えてもらって研究対象としたり、ここへ来て不便がないかなど定期的に会って話を聞いているそうだ。人にもよるが、転移してきてから時間が経つほどに面会の機会は減るため、今日会う人も半年ぶりだという。
文化が全く違う世界にいた人でも、心を病んでしまわないかぎり半年ほどでこちらの世界に順応する。逆に地球から来た人は文化レベルがかなり近く、順応が早いと言われた。
なぜか転移してくるのは地球からが一番多いらしく、僕がこの世界に来てから文化について聞かれたのも最低限のことだった。もう知り尽くされているのもあるし、こちらのほうがよっぽど先進的だもんなぁ。
「あの、ディムルドさん。リアンと父親の所長さんって、仲悪いんですか?」
「どうして?」
「さっき偶然、言い争っているところを見かけてしまって……。あの、言える範囲でいいので、なにか教えてもらえませんか?」
「あー。別に俺の知ってることで良かったら、なんでも話すけど。リアンが隠してるっぽいもんなぁ……」
詳しいことはそのうちリアンに聞いてみてね、と前置きしてディムルドは話しだした。
結局途中でリアンには出会わず、懐かしの異世界転移研究所にまで到着してしまった。エントランスの前で上がった息を整えようとしていると、中から聞き覚えのある声が聞こえる。リアンだ。
それが聞いたことのない怒声だったから、咄嗟にびくりと身構えてしまう。え、なにかあった……?
ロビーを覗き込むと、リアンがひと回りは歳上にみえる男の人と言い争っている。始業直前だからか周囲に人はいなかった。
二人とも白衣のような形をした紺色のシングルコートを羽織っていて、ここの制服を着ている。
「もうノンのこと、諦めるのか……?」
「違う。だけど、このやり方は間違ってるって父さんも気づいてるだろ?この前だって、俺たちのせいで、二人も……」
「だが……だが!座標はぴったりだったんだ。ここで研究をやめるなんて、私には……」
「ともかく、これからは転移の発動阻止に集中して取り掛かろう」
聞いてはいけないと思いつつ、僕は近づいて声をかけることもその場を離れることもできなかった。あのチャコールグレーの髪をしている人は、きっとリアンのお父さんだ。研究所の所長と聞いたことがある。
「そもそも父さんのせいじゃないか……俺が昔……」
「リアン。もう始業だ。この話はやめよう」
そのとき、ピカッと周囲が明るくなったかと思うと、さほど間を置かずにドーン!と雷の落ちる音がした。その直後からバケツをひっくり返したような大雨が降り出す。
ふたりは同時にエントランスの外の方へと振り向き、僕の存在に気づいてしまった。
「メグ!」
「あっ、えーと。忘れ物を届けにきたんです。ほら、パソコン。必要でしょ?」
リアンが駆け寄ってきて、僕もロビーへと足を進める。リアンの父親は立ち去ってしまった。
僕がカバンからパソコンを出して渡すと、あ゙ー、と恥ずかしそうにリアンは片手で目元を覆う。ついでに持ってきた傘も渡した。
「ありがとう……悪いな。あれ?メグの傘は?」
「急いでたので、忘れちゃいました……でも大丈夫ですから!走ればそんなに時間かからなかったし」
「はぁ、駄目に決まってんだろ。この傘は返す。研究室に置き傘があったはずだから。あとは……」
そのとき、ロビーに顔を見せたのはディムルドだった。傘を片手に持っていて今から出かけようとしている。
「ちょうどいい。外出ならメグを家まで送って行ってくれ」
「え!外出ったって仕事だって。と、いいつつオッケー!ちょうど時間に余裕あるんだよね」
リアンってすごく過保護だ。そこまでしなくても……と思いながらも、僕は快諾してくれたディムルドと一緒に帰ることになった。
数分でスコールのような雨は一旦落ち着き、ちょっと日も差してきた。ふたり並んで傘を差して、リアンの家まで歩く。実は二人で話すのは初めてだ。
ディムルドは今日、三年前に異世界から転移してきた人との面会があるようだ。地球でもないところから来た人で、こことは全く違う独特の文化を形成している世界にいたらしい。
研究所ではそういった異世界の文化を教えてもらって研究対象としたり、ここへ来て不便がないかなど定期的に会って話を聞いているそうだ。人にもよるが、転移してきてから時間が経つほどに面会の機会は減るため、今日会う人も半年ぶりだという。
文化が全く違う世界にいた人でも、心を病んでしまわないかぎり半年ほどでこちらの世界に順応する。逆に地球から来た人は文化レベルがかなり近く、順応が早いと言われた。
なぜか転移してくるのは地球からが一番多いらしく、僕がこの世界に来てから文化について聞かれたのも最低限のことだった。もう知り尽くされているのもあるし、こちらのほうがよっぽど先進的だもんなぁ。
「あの、ディムルドさん。リアンと父親の所長さんって、仲悪いんですか?」
「どうして?」
「さっき偶然、言い争っているところを見かけてしまって……。あの、言える範囲でいいので、なにか教えてもらえませんか?」
「あー。別に俺の知ってることで良かったら、なんでも話すけど。リアンが隠してるっぽいもんなぁ……」
詳しいことはそのうちリアンに聞いてみてね、と前置きしてディムルドは話しだした。
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