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15.はじめてのおとまり

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 あれから僕はどうやって帰ったのか覚えていない。いつの間にか自分の住むアパートの真っ暗な部屋にいて、何をするでもなくぼうっとしていた。
 その様子を見た人がいれば、幽霊がいると驚いたに違いない。生気もなく、白い顔で、ただひとり。誰にも気づかれないひとり暮らしだからこそ、ほとんど眠らずに悶々と物思いにふけってしまったわけだ。

 仕事だ、と思うと身体は機械的に動いた。今朝はリアンも早かったみたいで会うことなく、預かっていた鍵で家に入って夕方まで家事にいそしんだ。

「あれ?メグムくん、なんか顔色悪くない?」
「おい、近づきすぎだ。そもそもなんでメグにお前が絡むんだ」
「だって、同じピンク色を持つ仲間だもんねー?」

 いつもより早めに帰宅したリアンはディムルドを伴っていた。
 常時明るいディムルドは僕にも積極的に話しかけてくれる。しかし今日ばかりは、薄ピンク色のドレッドヘアが目に痛いほど眩しい。
 僕の反応が鈍いことを訝しんだリアンが僕の目の前までやってきて、「どうしたんだ」と声を掛けてくる。

「……え?いや、なんともないですよ」

 僕よりもずっと高い位置にある顔を見上げると、ぐわんと世界が歪んだ。目の前が真っ暗になって平衡感覚を失う。どっちが上でどっちが床だっけ?そう考えたときにはもう床に向かって勢いよく倒れこんでいた。

「っおい!メグ!」
「うわっ、大丈夫!?」

 たぶん見上げた体勢のまま後ろに倒れたんだろう。そのまま行けば床に後頭部を激突するところを、リアンが間一髪で抱きとめてくれた……と思う。
 徐々に戻ってきた視界に黒と緑色が映っていて、ぼんやりと状況を判断した。

「お前、今日なにか食べたか?目の下が黒いぞ。寝てないのか」

 リアンが僕の顔を覗き込みながら事情聴取のように質問を重ねてくる。
 まっさきに聞いてくることが食事のことで、こんな時でもリアンは僕のご飯を心配している。そう考えると、面白くてフフッと笑ってしまった。思ったより力が入らなくて小さい咳みたいになってしまったけど。

「あー……食べるの、忘れてたかもしれません。昨日は、寝れなくて……」
「なんで。どうしたんだ。体調が悪いなら無理するなって、言ってあっただろ」
「リアン、ベッドにメグムくん寝かせてあげたら?とにかく栄養を摂って休ませてあげてから、様子をみよう」

 ディムルドの言葉を聞いて、リアンは僕を抱き上げた。肩と膝裏に手が回って、お……お姫様抱っこ!?今度は混乱にくらくらする。

「あっ。ちょ、ちょっと!歩けますから!」
「落ちるからじっとしていろ」
「ひゅ~っ、リアンってば男前だね!」

 身長差はかなりあるが、僕は決して軽くない。ぽっちゃりだし……。ちょっと抵抗してみたものの、逆にリアンを怪我させちゃうような気がしてすぐにやめた。うーん、昨日からご飯食べてない分少しは軽くなってるかな……?
 無駄な現実逃避をしているあいだに、リアンは軽々と僕を抱え、二階の寝室へと運んだ。

 リアンの家にはベッドがひとつしかない。つまり、僕はリアンの部屋の、リアンのベッドに寝かされた。

「あの……リビングのソファでいいですから。リアンのベッドを奪うのはちょっと、気が引けます」
「気にしなくていい」

 気にするに決まってる!だけどやっぱり身体は怠くて重くて、ベッドに吸い込まれるような心地だ。一度横になってしまったらもう自分では動けない。

 リアンはぐったりしている僕からエプロンを外し、着ていたシャツに手をかける。
 一番上のボタンを外すため首元にリアンの手が触れたとき、一瞬電流が走ったような、ピリッとした感覚が走り抜けた。ネックガードのちょっと下。

「んっ!」
「!」

 静電気かな?僕が思わず首を引っ込めると、リアンは手を空中で固定したまま固まっていた。
 別に着替えもないからこのままでいいと伝えていると、寝室の入り口から声がかかってリアンは目に見えてビクッと肩を震わす。
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