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物理的に強い受けは久しぶりです。
一万字の短編になります。楽しんでいただけますように!





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「ねぇ。イーリス、今夜は僕にしない? 好きに抱いていいから」

 『今夜は』ってなんだ! おれは誰も抱いたことないぞ!?

「だーめ! 先約は私なんだから。イーリスは若い子が好きなのよ。ね?」

 誰とも約束してない! それにタイプは年上の男だ!!

 抱く側の男が見れば垂涎ものだろう男女が、イーリスの逞しい腕を両側から引き、取り合っている。周囲にいる酒場の客たちは、ほっそりとした見目麗しい男女に挟まれたイーリスを羨ましげに見ているだけだ。
 
 おい、いまどっちも抱いてやれって言ったやつ出てこい!

 イーリスはむしゃくしゃしていた。全く嬉しくないことにこんな状況は日常茶飯事だが、今日は不意打ちで大立ち回りを演じたため気が立っているのだ。依頼を引き受けた魔物討伐の帰り、大物に襲われている冒険者パーティーにかち合ってしまったのが運の尽きだったな……

 ソロの冒険者として身を立てて五年が経った。もともと体格に恵まれているし攻撃魔法も得意なので、“猛火のイーリス”の名はグレンツェの辺境で知らない者はいないほど。
 燃えるような赤髪と、アンティークゴールドの瞳。そこに凛々しくも爽やかな顔立ちが加われば、モテないはずがない。“抱かれたい男ナンバーワン”と誰かが言い出して、そんな二つ名までもが有名になってしまった。
 しかしそれが大いにイーリスを困らせている。

 別に潔癖だとか、心に決めた相手がいるとかではない。
 遠い目をするイーリスの視界に、店に来たばかりのすらりと長身の男が映った。一見細身に見えるが、服の皺の寄り方や身のこなしでわかる。あの男は相当鍛えているし、強い。

 あんな男に朝まで抱かれてぇ……!!!

 イーリスはこう見えて、抱かれたい側の男だった。けれど生まれ持った外見のせいで、その望みが叶ったことはない。チャンスが訪れたことさえないのである。
 ある意味抱かれたい気持ちを持っている男としてはナンバーワンといえるだろう。悲しいことに。

 戦いの興奮を引きずり、身体には熾火のように熱がこもっている。
 今日も愛用の張り型に相手をしてもらおう。どうせここに来たのも相手を探しに来たつもりでなく、ただ酒を飲んで睡魔を呼び寄せたかっただけだ。そうでもしなければ朝まで自慰に耽ってしまうほど、イーリスは性欲が強く体力馬鹿だった。

 目の前のエールをぐいっと傾け、一気に底まで呷る。腕にぶら下がっていた女が諦めたように手を離した。

「もう帰る」
「ええっ。そんなぁ」

 二人のことを見もせずに立ち上がったとき、くらり、と目眩がして机に手をついてしまった。

「……?」

 なんだ? 飲みすぎたか? いや、今日はそこまで飲んでいない。

「遅効性の毒か……?」

 魔物には毒を持つものもいる。でもそんな魔物にはエンカウントしていないはずだ。
 なんとか身体を動かし出口に向かおうとするも、頭までぼうっとしてきて自分がどこを向いているかもわからなくなってくる。それに、身体が熱い。着ている服を一刻も早く脱いでしまいたいほど、布が煩わしかった。

「つらいんでしょう? 上で休みましょう」

 男にしては高い声が、イーリスの腕を引っぱり誘導してくる。

 休む? 確かに休みたい。これは明らかに異常だ。

 周囲の人や椅子にぶつかりながら、イーリスは誘導された方向へ進み階段を上った。なんだなんだと周囲も騒いでいるが、どこか遠くの出来事のようで耳に入ってこない。
 いくつも並ぶ扉のうちひとつを男が開けてくれたので、素直に部屋に入る。そこは寝台がポツンと置かれただけの部屋だった。

「……?」

 ふと違和感を感じる。身体の異常もそうだし、ここまでスムーズに部屋を取れるものか?
 イーリスの知っている宿は先払いで、ちゃんと手続きがある。もしや、誰かの部屋だったり……?

「よかった、ちゃんと効いてるね」
「は……?」

 パタンと扉を閉じ、小柄な男がこちらへ向かってくる。なんでここに残るんだ? 早くひとりで休ませてくれ。
 彼はにこにこと微笑んで、イーリスの下腹部に視線を送っている。どこを見てるんだ、と自分でも視線を下ろすと。

「――っはぁ!?」
「やっぱり、すごい大きい……。ねぇ、早くシようよ。飲んだ媚薬、かなり効くから発散させないとつらいよ?」

 媚薬だと……!?!?

 イーリスの陰茎は知らないうちにしっかりと勃っていた。意識してしまえば痛いほど血が集まっているのを感じる。
 戸惑っていると、目の前の男は勝手に服を脱ぎ始めた。

 『シよう』って、お前に突っ込めってことか!?

「無理だ!」
「大丈夫。こう見えて結構大きいのも慣れてるから」

 大丈夫じゃねぇ!!!

 頭から血の気が引いて、くらりと倒れそうになる。膝の裏が寝台の端に当たって、ドサっと背中から倒れ込んでしまった。

 絶体絶命だ。偶然ドラゴンとエンカウントしたときだって、ここまで恐怖を感じなかったのに。
 おれはこんなところで、望みもしないやつに童貞を奪われるのか――?

「大丈夫か!」

 突然、部屋の扉がドンドンと叩かれ、第三者の声が響いてくる。
 
 イーリスは絶望感に苛まれたまま、何も考えずに叫んだ。

「大丈夫じゃねぇ!!」

 大声を出した瞬間、ドン!と扉が開けられ、パタン……と内側に倒れてくる。扉を壊したのは先ほど一瞬見かけた、長身の男だった。

 彼は一瞬で寝台に接近し、イーリスに乗っかろうとしていた男の首根っこを掴み上げる。

「やっぱりお前か! また薬だろう!」
「うわぁん、今回は同意だって~」

 アイリスブルーの瞳がイーリスを見つめ「本当か?」と問う。イーリスは必死で横に首を振った。

 彼はそのまま部屋の外へと男を連れてゆき、すぐに戻ってくる。その際外れた扉はバキッと無理矢理嵌められた。……たぶん修理は後回しなんだろう。

「私はクヴェル。王国の騎士団員だ。きみは……イーリスだね?」
「あ……はい」
「あいつがきみに飲ませたのは媚薬だ。……どうする? 恋人がいるなら連れてきてあげるし、ひとりになりたいなら……」

 クヴェルはイーリスの状態をよく分かっていた。

 危機が去ってしまうと、耐え難いほどの性的欲求が湧いてくる。
 苦渋の決断だ。恥を忍んで張り型を用意してもらうか?
 もう後ろが疼いて、前の刺激だけで満足できるとは到底思えない。自分の指でもいいけれど、正直長さが足りない。

「遠慮しなくていい。秘密は守ると約束する」
「……抱いてくれ」
「え?」

 イーリスは気づけば望みを口走っていた。上半身を起こし、ぽかんとするクヴェルを間近で見つめてもう一度告げる。

「無理じゃなければ……クヴェル、貴方に抱かれたい」

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