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番外編
嫌わないで、愛して 下
しおりを挟むセレスの考えていることが、わかるような、わからないような。
嫉妬はわかる。彼はけっこう小さなことでヤキモチを焼くタイプで、歳上なのに可愛いところがあるなぁと思うこともしばしばなのだ。
あとはこの、冷たい怒りだ。それが向けられているのは、あの無遠慮な男だろうか。それとも……そんな男と一瞬でも付き合っていた僕に対してだろうか。
セレスとの出会いも出会いだったから、僕が簡単に身体を許すタイプだったことは当然知られている。過去の恋愛について、これまでセレスに指摘されたことはなかった。
でも、内心では軽蔑しているかもしれない。だって僕だったら、すごく嫌だ。
セレスが僕しか見ていないと分かっているから、何度も分からせてくれたから安心して日々を過ごせている。でももし、彼がふらふら浮ついた心を持つ人だったら? 僕は泣いて暴れるか、耐えきれずに黙って姿を消してしまうだろう。
ああ、想像するだけでつらい。
そんな思いを、僕はセレスにさせてしまっているのかもしれない。なんと言われても、なにをされてもいいから……嫌わないでほしい。過去は変えられないし、僕のわがままだって、わかっているけれど。
馬車の中でも横抱きにされながら、黙ったままのセレスを窺う。
「このまま帰るの?」
「ああ」
「……ごめん」
本当なら今日はこのあと、セレスと一緒に近くの菓子店で子どもたちにお土産を買って、孤児院へ行くつもりだった。ルキウスとの相談もあるし。
休みの日もなんだかんだと研究で忙しいセレスは、それでも僕と一緒に出かけたいと言ってくれて、街でお互いの用事を済ませてから合流する予定だったのだ。
こんな、予定外のアクシデントで帰ることになっちゃうなんて……僕がセレスに嫌な思いをさせてしまったからだ。申し訳ないよ……。
家に帰ると、セレスは使用人にティーセットの用意を指示して部屋に引きこもった。もちろん、僕を抱えたままで。
ソファの上で優しく横抱きにされて、なんだかデジャヴだなと思った。セレスは僕を心配したり甘やかそうとするとき、決まってこの体勢になる。
指で優しく髪を梳いて、額にキスが落ちてくる。ぎゅうっと抱きしめられて胸に顔を押し付けていると、不安だった気持ちはだんだん落ち着いてきた。ていうか、あれれ……?
「セレス、僕のこと嫌になってないの?」
「? なんでだ」
「だって……」
あんな男と付き合っていたのだ。しかも、その人から僕はとても馬鹿にされている。それは今日会った人だけではなかった。自分でも情けなくて恥ずかしいのに、知られてしまった。
心のなかではぐるぐると後ろ向きな考えが渦巻き、口にするのも躊躇う。言い淀んでよほど苦しい顔をしていたのか、セレスはもう一度僕を抱え直して、今度は瞼にキスをしてきた。
「ウェスタ。俺が嫌になるわけないだろう? あの虫けらは許せんが。俺はウェスタが傷つくのを、見ていられないだけだ」
「ふゎ……」
セレスの真っ直ぐなところがたまらなく好きだ。
迷いなく言い切ってもらえたことで、無意識に緊張していた身体から力が抜けた。セレスはなに当然のことを? と言わんばかりの表情で、過去のことなんてまるで気にしていないようだ。
彼はまっすぐ未来を見つめている。僕と一緒の未来を。
心の奥底から愛おしさが込み上げてきて、セレスの首の後ろに両腕を回す。「好き。大好き……」と言いながら唇を寄せると、噛み付くようにキスをされた。
さっきのキスなんて可愛いものだったと思えるくらいすぐに激しくなって、あっという間に息が上がってしまう。
気づけばソファの座面に押し倒されていた。唇だけじゃなく、首や鎖骨へと舌が下りてきて、服まで半分ほど剥かれている。ん? いま、ここで??
もう一度説明しよう。まだまだ昼間である。ここは僕たちの私室だけど、寝室とはまた別で。使用人は……ティーセットだけ用意して空気のように姿を消していた。お茶、飲みたいなぁ……。
ふいに、胸の尖りに歯を立てられて強い快感が走った。
「ひゃあん! え。ちょ、ちょっと待って。あ、あれぇ?」
そもそも、僕の過去をそこまで気にしていないのなら、予定をキャンセルして家に帰ってこなくてもよかったんじゃないの? 僕だって嫌な気持ちになっていたけど、セレスが僕に対して過保護なことを考慮しても大げさな反応である。
僕の混乱をよそに、セレスはどんどん服を脱がしてくる。抵抗しようにも舌で、歯で、愛撫されてしまうと力が抜けてしまうのだ。え、えっちしたかったのかな……?
「あっ、あんっ。ねぇ……セレス、どうしたの?」
「あいつに触られていただろう」
ソファの背に手を付いて立たされた僕は、セレスに裸の腰を撫でられて、ぞわぞわとした快感に震えた。セレスの手だと言うだけで、どうしてこんなにも気持ちいいんだろう。
「しきりに相手してやると……何様なんだ、あいつは。過去のウェスタを知っているのも気に食わない」
「あぁ! まって、セレス。はやい……!」
「ウェスタは俺の恋人で、夫で、妻で……家族だ。俺だけの」
「んんっ。あ、あっ、せれす。まって、と、止まって~~ッ!」
セレスの内にくすぶっていたのは、盛大な嫉妬と怒りの詰め合わせだった。……それも、想像以上の。
彼が後ろから性急に僕の中に入ってきて、悶える。昨晩たくさん愛し合ったおかげでまだ少しは受け入れやすいが、いつもより強引なことには変わりない。その苦しさに、セレスの激しい熱情を感じてたまらない気持ちになった。
セレスが僕のことを嫌いになるかもなんて、とんだ勘違いだ。過去のことで怒ったり、嫉妬されたりはあるだろうけど……僕はこれだけ愛されている。もし盛大な喧嘩をしたって、僕の方もセレスを愛しているから、どちらが謝るのが早いか競争になりそうだ。
とにかく今は、セレスにたくさんの「好き」を伝えて……僕の魔法使い様に落ち着いてもらわないと。ちょっと、時間かかりそうだな……っ?
――――――――――
お読みいただきありがとうございました!
ここでお知らせです。
2024年3月10日 東京ビッグサイトにて開催のBL同人即売会J.Gardenに参加予定です。
この作品ではなく、【貧乏貴族は婿入りしたい!】を初同人誌として持っていきますので、もしよろしければ買いに来てください♡(通販もやります)
サークルリストに筆者の名前はありませんが、優しい人に委託します。(私も会場のどこかにいます)
日が近くなったら近況ボードにてお知らせしますので、興味のある方はご注目いただけると嬉しいです。
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番外編も読んでいただきありがとうございます!
昔の男……命知らずすぎますよね😂
ウェスタはどうなっちゃうのでしょうか!?✨
昔の男に○○回は絶対やりたかったので!
抹消リスト😂セレスは自分が初めての男になりたかったはずなので……
『新妻』って言い方可愛くて好きです♡
さっそくの感想ありがとうございました✨
わ〜嬉しい!ウェスタに寄り添って読んで下さったんですね。ありがとうございます。
今まで我慢してきたぶん、セレスがたくさん甘やかしてくれるはず。作者としても、ウェスタにはもっとわがまま言ってほしいです。笑
喧嘩しようと何しようと、ふたりでいればずっと幸せですね🥰
番外編も楽しんでいただけてよかったです。感想ありがとうございました✨