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番外編
初夜って、いまさら 下
しおりを挟む作法なんて知らないけど、もうちょっとこう、結婚できた喜びを伝え合ったり愛を囁きあったりしてから……なんて想像していたのだ。寝ていた僕にも非はあるが、初手があれではまずい気がする。
でも……
「はぁ~~っ。まぁいいか」
「ん?」
「僕らに『普通』なんて当てはまるはずもないってこと」
「んー……」
聞いてないな、これ。セレスは満足気に僕をぎゅっと抱きしめて、首筋に顔を擦りつけている。僕は僕で、その甘えたな様子が愛おしくなってきて頭を撫でた。漆黒の髪からふわりと、森林のような香りがして落ち着く。
「今日、楽しかったね」
「あぁ、そうだな」
「ふふっ。ポロスが泣いてたの、ほんと面白かった。どうしたんだろ? アステリア様に慰められて顔真っ赤にしてたし」
「他の男の話はするな」
「えぇ?」
「みんなウェスタのこと、うっとりして見てた」
「いやいや、そんな訳……だいたい、結婚式だし」
「いつも可愛いけど、今日は世界一可愛くて、美人で、綺麗で、かっこよかった。はぁ。もう、ずっと家の中に閉じ込めて、隠しておきたい……」
も~~っ、酔ってんのかな!? 顔に火が付いたみたいに熱い。
セレスは嘘も冗談も言わないから、まるっと本音なんだろう。その嫉妬も独占欲も、嬉しいと感じてしまうんだから僕も大概だ。
「もう結婚したんだから、僕は名実ともにセレスのものだよ。だから……好きにして?」
「……」
「あ。えっ……ちょ……早いって!」
僕の魔法使い様が一回くらいで満足する男じゃないってことは、よく知っている。ただ、もうちょっとゆっくり話しても……いや、煽ったのは自分でした。
セレスが服を脱ぎ捨て、僕のドレス風夜着も脱がしてくれる。そのあらゆる体液で汚れてしまったものをポイとベッドの端に置こうとしたから、慌てて止めた。
「セレス、それ浄化して!」
いちおう僕たち、というか僕は普段、寝具以外のものを夜の営みで汚してしまわないよう気をつけている。それは、そんなあからさまなものを人に洗濯してもらうことに羞恥心があるからだ。自分で洗うといってもにこやかに拒否されちゃうし。
僕は忘れていなかった。あのどろどろぐちゃぐちゃになったベビードールがいつの間にか侍女に回収されていたことを……
セレスが夜着を浄化して、僕をころんと転がす。結合部から二チュッと粘着質な音がした。セレスは、いまだにガーターベルトがついたままの僕の腹を撫でながら少し考えて、あることを尋ねて中に埋まったままのペニスを抜こうとした。
「こっちも浄化しておくか?」
「んっ。だめ、抜かないで!」
「でも朝まで放っておくと腹を壊すだろう。たまにやっておかないと……」
「でも……やだぁっ。セレスので……お腹いっぱいにして?」
「~~~!!」
お腹に置かれた手に自分の手を重ねて、目を見つめてお願いする。中の楔がギュンとひと回り大きくなる。あざといことをしている自覚はあった。
セレスと寝るようになってから、一晩に何度も注がれるからお腹を壊してしまったことがある。それからセレスが心配して、最近は途中で浄化してもらったりしていたのだ。
でも今日はなんとなく……ずっと繋がっていたかった。
僕たちは正真正銘の家族になったのだ。僕にとっては唯一の。
ずっと夢みたいで、一日中ふわふわして……深く繋がったことでやっと、現実としてストンと納得できた気がした。こんなにむき出しで、現実的な行為を僕は他に知らない。
身体の関係から始まった僕たちが、近づいたり、遠のいたり……じれじれしたり。紆余曲折を経て誰よりも深く、近い関係になれるなんて思いもしなかった。
セレスのおかげで、人生で一番幸せだと思う日は何回もあったけど、今日も確実にそのひとつになるだろう。結婚式。初夜。どれも大事な記念日だ。
初夜なんて今さらだって思っていた。やってることはそう変わらないものの、心の持ちようが全く違うことにやっと気づく。
「セレスは僕の、旦那さん。僕の……魔法使い…………だいすき」
「俺のウェスタ。愛してる」
こうして甘い甘い、長~~~い夜を僕たちが過ごしたのは言うまでもない。
あとから知ったのは、セレスが以前僕のベビードールをいたく気に入って侍女に褒美を出していたこと。――そりゃあ侍女さんも気合が入るわけです。
後日、セレスが中に出したままでもお腹を壊さないような魔法がないかロディー先生に相談していたことを僕が知って、羞恥のあまり初めての喧嘩に至ったことは……また別の話だ。
――――――――――
セクシーランジェリーを受けに着せるのが癖です。
あと、自カプの結婚って……いいな、って…………うへへ♡
番外編も、一旦これにて完結です。
たくさんお読みいただきありがとうございました!
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