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 寝室でも豪華な調度を見て、足がすくむ。僕はここが王宮であることを改めて認識した。
 今日行った高級娼館も豪勢だったけど、やはり格が違う。そういえば……あの娼館とあの人達はどうなったのかな。食事のあと、セレスは誰かから報告を受けていたから聞いてみる。

「娼館に被害はほとんどない。俺が壊した扉くらいか……あれは弁償すれば大丈夫だろう。拉致の首謀者と加担していた奴らも捕まった。あの魔法師は……いくら魔法師といえど罪は免れないだろうな」
「そう……」

 あの男にされたことを思い出して反射的にぶるっと震えると、優しく抱き寄せられた。大丈夫、いまは安心できる場所にいる。

「こういうことを危惧して、俺たち魔法師と魔力を持たない人の関係性は秘匿してきたんだ。自然に出会って一緒になるぶんには問題ないが、無理矢理自分の傍に置いたり、第三者が勝手に介入してくることを俺たちは望んでいない」

 魔法研究局のなかでも、クリュメさんは女性と結婚して子どもまでいて、ロディー先生にも女性のパートナーがいるらしい。どちらも相手には魔力がないとのことだ。
 不思議と惹かれ合うことが多いものの、そもそもの絶対数が少ない者同士だ。特に魔法師は一途で、パートナーを見つけたあとそれはそれは大切にするらしい。

 なぜなら、僕たちは差別されているといえど理解者さえ見つけられれば、好きな人と結ばれることや結婚も夢ではない。
 一方魔法師たちは尊敬される立場ではあるが、相手に魔力があると子どもは作れないし、完全なプラトニックを保たなくてはならない。貴族であればなおさら相手は制限されるだろう。
 そう考えると、アクロッポリの魔法師たちが高潔な考えを持っているというのは、ある意味奇跡かもしれない。

「……ありがとう」
「なにがだ?」

 僕はセレスの腕の中でぐっと伸びをして、言葉の代わりに唇を重ねた。目を瞑ってふにふにと感触を楽しむ。柔らかくて温かい。
 あぁ、気持ちの通じ合ったキスはこれだけで気持ちいいのか……大発見だ。
 そのうち、お互い我慢できなくなったように口づけは深まっていく。

「はぁっ。……んんっ」

 上顎をくすぐられると弱い。頭がぼうっとして、そのまま身を任せたくなってきた。
 期待と緊張で目の奥がチカチカする。

 しかし――
 だんだんとセレスの動きは緩慢になった。心なしか身体にかかる腕が重い。
(眠そう……)
 きっと僕を探していた間、ろくに寝ていないんだろう。僕の方がよっぽどちゃんとした睡眠を取っていた。

 ふふっ。思わずキスを中断して笑ってしまった。セレスの目は半分閉じている。
 こんなの、ご飯を食べながら眠気に負ける幼児みたいだ。かわいい。

 お腹に当たってるブツは可愛くないくらい主張してるけど……

「抜いてあげよっか?」

 僕はセレスを甘やかしたくなって聞いた。ちょっと舌を出して「舐める?」という意味も伝わるように。

「いい。そんなこと、しなくていい……。ごめん、寝よう……」

 セレスは一瞬瞠目し顔を赤くしたが、ハッと思い出したように強く否定した。僕の頭を胸に押し付けるように、ぎゅうっと強く抱擁してくる。
 もしかして、今日僕がされたこと気にしてるのかな~。いや、当然か。
 確かに僕もいまは、やろうとしても想像するだけで無理な気がしてきた。すごい……セレスは、僕よりも僕のことわかっているんじゃないかな?

「すき。だいすき……」

 もう眠ってしまっているセレスに向けて、抑えきれない想いを舌に乗せた。言葉は暗闇にそっと溶けていく。
 今宵は怖くない。心の中に光が灯ったように温かい心地だった。
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