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30.魔法使いの秘密
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ふと気づくと、ベッドの上でひとりだった。周囲は暗く、夜の帳はおりている。
僕はもぞもぞと起き上がり、ベッドを降りる。首に冷たい感覚があって……首輪状の枷がつけられていることに気づいた。それに続く鎖は長めだが、ベッドからそう離れることはできない。
なんだか僕にお似合いだ。生まれたときから枷つきの人生を歩んでいた。
ベッド横でじっとしていると扉が開き、女主人と家令が入ってくる。魔導灯がつけられ、部屋が明るくなった。捕まって以降、簡素な食事は与えられていたものの魔力を摂取できていない僕は、魔導灯さえも自分でつけられないのだ。
「へぇ、なかなかのものね。もっと若い時に来てくれれば大層喜ばれたでしょうに。――さて、検品といきましょうか」
女は優雅な動作でソファへと腰かけ、家令は立っていた僕の方へ歩いてきた。男も40代くらいか? 近くに来るとかなり体格のいいことがわかった。
そのままベッドへ押し倒され、泰然と構えていた僕もさすがに恐怖で血の気が引いた。震える声で尋ねる。
「ど、どうして僕なんだ」
「ふふ、魔力なしだからこその使い道があるって、みんな知らないのね。魔法使いには会ったことある?」
「……」
「あら? それなのに野放しになってたのね……。お隣はよっぽど平和なのかしら。それとも腰抜けなの?」
「どういうことだ! ――あッ、やめろ!」
遠回しにセレスのことをバカにされたと感じて声を荒げる。それを咎めるように家令は僕の着ていたバスローブを取り払い、首枷に繋がる鎖を引っぱった。息が詰まる。
バスローブの下には下穿きさえ身に着けさせてもらえなかったから、素っ裸だ。僕はキッと男を睨みつけた。
「あはは! 丸腰なのに強気ね。魔法使いは……というか魔力が多すぎる人は、普通の人とセックスできないのよ。可哀想でしょう?」
「は……?」
「あなたは知らないだろうけど、魔力は体液に凝縮されてるから、他人と体液交換ができないの。だからキスもそうね。相手が自分で魔力を作り出せる人だと、体内で魔力が強い方に冒されて身体を壊しちゃうのよ。そこであなたみたいな劣等種の出番ってわけ。魔力がなければ、どれだけ受け入れても大丈夫なの。ふふっ、魔法使いはセックスしたくて魔力なしを求めるのよ」
魔法使いはセックスができない? 相手が魔力なしじゃないとできない? そ、そんなことって……。
だからセレスは初めてだったってこと? だから……僕に執着してたってこと?
混乱を極めている僕をよそに、女はベッドに近づいてきて、家令とともに僕の身体に余計な傷や痣などがないか確認しているようだった。そのうちグイッとうつ伏せに転がされ、腰だけを持ち上げられる。
「うわ! 嫌! いやだ!」
「動くな!」
「ふーん、ここまで綺麗なのね。あなた、処女なの? だとしたら儲けものだわ! ――スキュラ。指を挿れてみてちょうだい」
「――! う……」
ぬめりを帯びた男の指が、無遠慮に僕の中へ入ってきた。さすがに指一本くらいじゃ痛くない。けれど意思に反して出入りする異物は、ただひたすらに気持ち悪かった。
中の柔らかさを確認するかのようにぐいぐいと指を動かされる不快さに耐えていると、ふいにある一点を押されて腰が跳ねた。
「、あっ」
「……メデーサ様、おそらく……違うかと」
「やっぱり? は~っ、残念。開発済みの野良猫ってことね」
「拡張しますか?」
「そうね。……いや、やめておくわ。結局、慣れた感じはないほうが受けるでしょ。薬だけ用意しておいて」
「承知しました」
僕は刺激による生理的な反応を抑えるため、シーツに顔を押し付けていたから会話を聞くどころじゃなかった。ただ事務的に確認されているだけなのに、快感はないものの身体が跳ね声も漏れそうになるなんて悔しすぎる。
指が出ていったときは思わずほっとしてしまった。噛み締めていた奥歯が痺れ、涙が一粒零れる。
「おめでとう。合格だわ。あなたは明日、性奴隷としての一歩を踏み出すのよ。お得意さまがいるんだけど、すぐおもちゃを壊しちゃうみたいなの。がんばって長持ちしてね」
にっこりと笑って言われた内容は死刑宣告に等しかった。どうせ死ぬならこんな秘密、知りたくなかった。
部屋にまたひとり残された僕は、横になったまま窓の外をじっと見つめた。部屋には闇が満ち、月明かりに照らされる外のほうが明るい。
僕はもぞもぞと起き上がり、ベッドを降りる。首に冷たい感覚があって……首輪状の枷がつけられていることに気づいた。それに続く鎖は長めだが、ベッドからそう離れることはできない。
なんだか僕にお似合いだ。生まれたときから枷つきの人生を歩んでいた。
ベッド横でじっとしていると扉が開き、女主人と家令が入ってくる。魔導灯がつけられ、部屋が明るくなった。捕まって以降、簡素な食事は与えられていたものの魔力を摂取できていない僕は、魔導灯さえも自分でつけられないのだ。
「へぇ、なかなかのものね。もっと若い時に来てくれれば大層喜ばれたでしょうに。――さて、検品といきましょうか」
女は優雅な動作でソファへと腰かけ、家令は立っていた僕の方へ歩いてきた。男も40代くらいか? 近くに来るとかなり体格のいいことがわかった。
そのままベッドへ押し倒され、泰然と構えていた僕もさすがに恐怖で血の気が引いた。震える声で尋ねる。
「ど、どうして僕なんだ」
「ふふ、魔力なしだからこその使い道があるって、みんな知らないのね。魔法使いには会ったことある?」
「……」
「あら? それなのに野放しになってたのね……。お隣はよっぽど平和なのかしら。それとも腰抜けなの?」
「どういうことだ! ――あッ、やめろ!」
遠回しにセレスのことをバカにされたと感じて声を荒げる。それを咎めるように家令は僕の着ていたバスローブを取り払い、首枷に繋がる鎖を引っぱった。息が詰まる。
バスローブの下には下穿きさえ身に着けさせてもらえなかったから、素っ裸だ。僕はキッと男を睨みつけた。
「あはは! 丸腰なのに強気ね。魔法使いは……というか魔力が多すぎる人は、普通の人とセックスできないのよ。可哀想でしょう?」
「は……?」
「あなたは知らないだろうけど、魔力は体液に凝縮されてるから、他人と体液交換ができないの。だからキスもそうね。相手が自分で魔力を作り出せる人だと、体内で魔力が強い方に冒されて身体を壊しちゃうのよ。そこであなたみたいな劣等種の出番ってわけ。魔力がなければ、どれだけ受け入れても大丈夫なの。ふふっ、魔法使いはセックスしたくて魔力なしを求めるのよ」
魔法使いはセックスができない? 相手が魔力なしじゃないとできない? そ、そんなことって……。
だからセレスは初めてだったってこと? だから……僕に執着してたってこと?
混乱を極めている僕をよそに、女はベッドに近づいてきて、家令とともに僕の身体に余計な傷や痣などがないか確認しているようだった。そのうちグイッとうつ伏せに転がされ、腰だけを持ち上げられる。
「うわ! 嫌! いやだ!」
「動くな!」
「ふーん、ここまで綺麗なのね。あなた、処女なの? だとしたら儲けものだわ! ――スキュラ。指を挿れてみてちょうだい」
「――! う……」
ぬめりを帯びた男の指が、無遠慮に僕の中へ入ってきた。さすがに指一本くらいじゃ痛くない。けれど意思に反して出入りする異物は、ただひたすらに気持ち悪かった。
中の柔らかさを確認するかのようにぐいぐいと指を動かされる不快さに耐えていると、ふいにある一点を押されて腰が跳ねた。
「、あっ」
「……メデーサ様、おそらく……違うかと」
「やっぱり? は~っ、残念。開発済みの野良猫ってことね」
「拡張しますか?」
「そうね。……いや、やめておくわ。結局、慣れた感じはないほうが受けるでしょ。薬だけ用意しておいて」
「承知しました」
僕は刺激による生理的な反応を抑えるため、シーツに顔を押し付けていたから会話を聞くどころじゃなかった。ただ事務的に確認されているだけなのに、快感はないものの身体が跳ね声も漏れそうになるなんて悔しすぎる。
指が出ていったときは思わずほっとしてしまった。噛み締めていた奥歯が痺れ、涙が一粒零れる。
「おめでとう。合格だわ。あなたは明日、性奴隷としての一歩を踏み出すのよ。お得意さまがいるんだけど、すぐおもちゃを壊しちゃうみたいなの。がんばって長持ちしてね」
にっこりと笑って言われた内容は死刑宣告に等しかった。どうせ死ぬならこんな秘密、知りたくなかった。
部屋にまたひとり残された僕は、横になったまま窓の外をじっと見つめた。部屋には闇が満ち、月明かりに照らされる外のほうが明るい。
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