王と王妃の泥仕合

猫枕

文字の大きさ
上 下
10 / 11

昔話

しおりを挟む

 「王妃様とエディたんって昔からこんなカンジだったの?」

「そうねぇ。私の方が3つ年下だけど、いつも学校の宿題を代わりにやってあげてたわね」

「へぇ~、そうなんだ。
 王妃様は子供の頃からシッカリしてたんだね~。

 なんか面白いエピソードとかないの?」

「うーん、そうねぇ。
 ハイティーンの頃かな、その頃はまだ男性化粧品なんてシェービングローションとかオーデコロンとか、せいぜい整髪剤くらしかなかったんだけどね、男もスキンケアする時代、なんて言われ始めてたんだよね」

「あ~なんか覚えてる。でもあの頃ってまだ『男が化粧なんて』って時代だったよね」

「エドワードって見た目だけは恐ろしく良かったし、自分の容姿に自信もあれば、まあ、言ってみれば自分の価値はそれくらいしか無いって思ってたフシもあるんだけどね。

 ある日二人で街を歩いてたら、『男もパックする時代』みたいなポスターが貼ってあったの。
 当時の人気役者がポーズを決めてね。

 するとその前に立ち止まって真剣な顔でポスターを凝視して『俺もこういうのやった方がいいかな?』とか言うわけ」

「言いそうだよね」

「で、私、あんまり考えずに反射的に
 
 『そんなくだらないことする暇あるなら、本の一冊でも読めば?!』

 って言っちゃったの」

「キッツー!!」

「もう、その後エドワードはプンプン怒っちゃってさ~。大変だった」

 シャルたんは声を出してヒャーヒャー笑った。

「普段から『俺は馬鹿だからさ~』
 とか馬鹿であることに逃げる傾向にあって、それがなんか腹立ってたのよね。
 で、
 『馬鹿を自慢するな!』
 って言ったら、その時も怒ってたな~」

「うん、エディたんって優しいけど努力が足りないとこあるよね」

 シャルたんが楽しそうに笑っている。

「あ、そうそう。エディたんから聞いたことあるんだけど、バレンタインデーにも大喧嘩したんでしょ?」

「・・・そんなことあったっけ?

 ・・・ってアレかな?

 バレンタインデーってのが丁度外国から流行って来てたんだよね、その頃。

 でも、そんなの関係ないじゃない?」

「いや、そこは乗っときましょうよ、若者なら」

「それで、そのバレンタインデーだったらしい日の放課後、ちょっとデートしようって誘われて普通に街歩きして、何軒かお店覗いて、お茶飲んで、じゃあまたねって帰ろうとしたらなんか様子が変なのよ」

「いつサプライズがあるのか期待してたんじゃないんですか?」

「で、『どうしたんですか?』

 って聞いても『別になんでもない』とか言うし、『あ、それじゃあまた』って帰ろうとしたら『ホントに何も無いの?信じられない』
 とかブツブツ言ってんのよ」


「言うよね~エディたん。ブツブツ」


「で、私もなんかイラッて来て、

 『なにかあるんですか?』

 ってキツめに言ったのよ。

 そしたら、
 
『あーお前はそういうヤツだよな?!俺はいつだってお前に心を弄ばれて』
 
 とかなんとか、正確には覚えてないけど、いかに私が非道でエドワードが傷つけられてきたか、ってことを過去の事象まで引き合いに出して罵倒し始めたわけ」

「エディたん王妃様から手作りチョコが貰えると思ってワクワクしてたんだってよ」

「そんなこと知らないし、そんな行事はそれまでなかったのよ。

 それなのに急に不機嫌になって、こっちは意味わからないわけよ。

 で、『俺は昨日からバレンタインデーが楽しみで楽しみで眠れなかったのに』って目に涙溜めて地団駄踏んで怒るのよ?」

「可愛いじゃん」

「いや、これが未来の王かと思うとホラーだったわよ」

「それで、たかがチョコレートでそんなに怒るのか?って頭に来たからすぐ側にあった食料品店に入って『宇宙万象チョコ』をガサッと4,5枚掴んで買って来て、まだベンチでグズグズ言ってたエドワードに投げつけて帰った」

「怖いっ!」

 シャルたんはヴィクトリアに酷いといいながらも笑っている。

「アレ子供が買う安っすいヤツじゃん!流行ったんだよね。ステッカー入っててね。
 シャルたんちは貧乏だったから弟達になかなか買ってあげられなかったけど」

「まあ、私もエドワードが相手だと、少々強く出ても許して貰えるって甘えがあったんでしょうね。

 次の日謝ろうと思って会いにいったら、

『5個の内3個にスーパープレミアムステッカーが入ってたぞ!
 すごいなヴィクトリア!!
 やっぱり俺はどうやったってお前には勝てないなっ!』

 ってニコニコしてんのよ」

「そういう人だよね」



 温かい日差しの中で二人は笑いながら話をした。

「なんか見た目エディたんなのに中身が王妃様なの変な感じするね」

「シャルたんも他人のことより、いい加減その馬鹿みたいな喋り方止めなさいよね。何歳なのよ」

「シャルたんは永遠の14歳でっす!」

「殴るよ」

「や~ん。魔女が虐めるぅ~。だって、

『なるべく馬鹿っぽく、常識外れな可愛さ』

 ってオーダーだったんだもん!」

「・・・オーダーって、シャルたんはカスタマイズされた馬鹿だったの?」

「ひっど~っ!
 でも、もう2年半もシャルたんやってるから急にはやめらんないよぉ~」

「馬鹿が板について剥がせなくなった?」

「ひっど~!
 でも、ホントにそんな感じ。元の自分がどんなだったか分かんない」

「変わってる人ぶっている内に本当に変な人になっちゃうみたいな?」

「いたいた!学校にいた。
『私って変わってるから~』
 って極々平凡なのに変わってるアピールしてる内に本物の変人になったヤツいた!」

「じゃあ、シャルたんも本物の馬鹿になっちゃった?」

「ひっど~ぃ!でも、なんかペルソナ崩壊してきてるかも~」

 


 春の庭園で語らう二人は傍目には仲睦まじい恋人同士のように見えただろう。

「ねえ、ホントに行っちゃうの?」

 ヴィクトリアは微笑んで静かに頷く。

「ねえ、私達、もう友達だよね?

 王妃様のことヴッキーたんって呼んでもいい?」

「ダメ」

「ぶーーだ」









しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

そんなファンタジーは要らねぇ

猫枕
ファンタジー
 学園の遠足で行った湖上遊覧船転覆事故。  その事故で恋人ディランを亡くしたソフィーは事故後何年経っても彼を忘れられずにいた。  ソフィーは毎年事故のあった日に湖畔に花を手向けディランの冥福を祈っていた。  やがてディランの親友だったスティーブと過去の傷に向き合うようになり、次第に二人は惹かれ合い遅い結婚をした。  燃え上るような激しい恋ではなかったが、穏やかで優しい日々の中、待望の子供も授かることができた。  このまま幸せな日々が続いていくと思っていたのだが。

(完)聖女様は頑張らない

青空一夏
ファンタジー
私は大聖女様だった。歴史上最強の聖女だった私はそのあまりに強すぎる力から、悪魔? 魔女?と疑われ追放された。 それも命を救ってやったカール王太子の命令により追放されたのだ。あの恩知らずめ! 侯爵令嬢の色香に負けやがって。本物の聖女より偽物美女の侯爵令嬢を選びやがった。 私は逃亡中に足をすべらせ死んだ? と思ったら聖女認定の最初の日に巻き戻っていた!! もう全力でこの国の為になんか働くもんか! 異世界ゆるふわ設定ご都合主義ファンタジー。よくあるパターンの聖女もの。ラブコメ要素ありです。楽しく笑えるお話です。(多分😅)

魔法のせいだからって許せるわけがない

ユウユウ
ファンタジー
 私は魅了魔法にかけられ、婚約者を裏切って、婚約破棄を宣言してしまった。同じように魔法にかけられても婚約者を強く愛していた者は魔法に抵抗したらしい。  すべてが明るみになり、魅了がとけた私は婚約者に謝罪してやり直そうと懇願したが、彼女はけして私を許さなかった。

虐げられた令嬢、ペネロペの場合

キムラましゅろう
ファンタジー
ペネロペは世に言う虐げられた令嬢だ。 幼い頃に母を亡くし、突然やってきた継母とその後生まれた異母妹にこき使われる毎日。 父は無関心。洋服は使用人と同じくお仕着せしか持っていない。 まぁ元々婚約者はいないから異母妹に横取りされる事はないけれど。 可哀想なペネロペ。でもきっといつか、彼女にもここから救い出してくれる運命の王子様が……なんて現れるわけないし、現れなくてもいいとペネロペは思っていた。何故なら彼女はちっとも困っていなかったから。 1話完結のショートショートです。 虐げられた令嬢達も裏でちゃっかり仕返しをしていて欲しい…… という願望から生まれたお話です。 ゆるゆる設定なのでゆるゆるとお読みいただければ幸いです。 R15は念のため。

側妃ですか!? ありがとうございます!!

Ryo-k
ファンタジー
『側妃制度』 それは陛下のためにある制度では決してなかった。 ではだれのためにあるのか…… 「――ありがとうございます!!」

(完)実の妹が私を嵌めようとするので義理の弟と仕返しをしてみます

青空一夏
ファンタジー
題名そのままの内容です。コメディです(多分)

義妹がピンク色の髪をしています

ゆーぞー
ファンタジー
彼女を見て思い出した。私には前世の記憶がある。そしてピンク色の髪の少女が妹としてやって来た。ヤバい、うちは男爵。でも貧乏だから王族も通うような学校には行けないよね。

閉じ込められた幼き聖女様《完結》

アーエル
ファンタジー
「ある男爵家の地下に歳をとらない少女が閉じ込められている」 ある若き当主がそう訴えた。 彼は幼き日に彼女に自然災害にあうと予知されて救われたらしい 「今度はあの方が救われる番です」 涙の訴えは聞き入れられた。 全6話 他社でも公開

処理中です...