王と王妃の泥仕合

猫枕

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舞踏会

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王妃様ヴッキー様、陛下からドレスが届いてますよ」

「ヴッキー様、眉間にシワが寄ってますよ」


「・・・なんで?ドレス?」

「来月の舞踏会のですって」

 どれどれと侍女たちと一緒に箱を開けてみる。

 なんだろうな、好意的に受け取ればシャルたんの趣味で可愛いを詰め込んだ夢のドレス。
 シャルたんの頭の中と同じパステルピンク。

 裾にはクマちゃんのぬいぐるみやお菓子のモチーフがぐるっとついている。

 一同、しばし無言。


「・・・嫌がらせ?」

「それ以外に何かある?」


「・・・シャルロットと行けばいいじゃない。・・・行かないわよ。欠席するって伝えて」







「なんかグチャグチャ言ってます。
 あっちの侍女から出席は必ずだと言ってきました。

 必ず贈ったドレスを着るように、ですって。
 ・・・なに企んでるんでしょうかね?」

「生地に毒でも染み込ませてんじゃない?」

「水に浸けて抽出した液を金魚鉢に入れてみましょうか?」


 ヴィクトリアの侍女たちが丹念にドレスを調べる。


「あっ!このドレス細工がしてあります!」

「スイッチ押したら爆発するとか?」

「ここを引っ張れば簡単に分解して脱げちゃう仕組みですね。
 各国の要人達の前でヴッキー様に恥をかかせるつもりなんですわ!」

 ヴィクトリアは脱力したようにハハハと笑う。

 いくら憎らしくても一応妻なのに大勢の前で裸同然の姿を晒してまで貶めたいのかと呆れてくる。


 「しっかり縫い付けておきましょう。
 必死にリボンを引っ張って

『あれ?あれ?おかしいな?』
 
 とか言ってるアホ面をみんなで拝みましょうよ」


「・・・う~ん。イマイチ面白味に欠けるな~。
 巧く分解できなかったらドレスを作った職人が罰せられるかも知れないし」





 
 そして迎えた舞踏会当日。




「シャルたんホントは悲しいけど、ファーストダンスは譲ってあげるね?」

「人生にはいくら嫌でも我慢しなければいけないことがあるんだ!」

 仕方なく、と言いながら王の小鼻は膨らんでいる。

 バカめ。


「ねぇ、どうしてクマちゃんやキャンディーやケーキがついて無いの?
 せっかくシャルたんが可愛くしてあげたのにぃ~」


「あ?なんかこのドレス臭くてー。
 洗ったら変な飾りが全部ダメになっちゃったのよ」

「酷い~!クサくなんかないもんっ!」

「いや、すっごい臭かった。
 必死で男に媚を売って成り上がろうとする田舎者臭がプンプンした」

「酷いっ!エディたん、魔女が虐めるぅ」

「で、洗ったらクマのヤツの顔がクシャミしたまま固まっちゃったみたいになってね。

 まあ、陛下に似てるっちゃ似てるんだけどね。ププッ」

 エドワードがヴィクトリアを睨みつける。

「だけどさ、
『流石は王妃様、ドレスにまで陛下のマスコットを付けるなんて愛が深いですなあ!』
 なんて言われたりしたらシャルたんも面白くないでしょ?」

「・・・うん。面白くない」

「気持ち悪いし」

 王妃に気持ち悪いと言われてそこはかとなく傷付いたような表情になるエドワード。

「・・・でも、シャルたんは王妃様を可愛くしてあげようとしたんだけど、あんまり上手くいかなかったみたい」

 どうにか一矢報いようとシャルロットが嫌味を試みる。

「やっぱりパステルピンクは王妃様の年齢では無理があったかなぁ?」

「そうね。あなたと私は一歳違うからね~。

 ほら、お婆さんになってもピンクなの着てる人いるじゃない?
 シャルたんもガンバって!」

「他人に意地悪して楽しいですかっ?!」

 チマチマした女が目に涙を溜めて見上げてくる。

 あら、意外と可愛いじゃない、ププッ。

「意地悪たのしぃ~わ~!ホホホ!」

「笑っていられるのも今の内だぞ」

「ダメだよ、エディたん。心の声が漏れてるよ」

「あら、何か楽しい事でも有るのかしら?」

「いや、別に」




 そうやってすったもんだしながら舞踏会は始まった。




 王と王妃のファーストダンスが始まる。

 
 王妃は何故に美貌を台無しにするようなドレスを着ているのだろう?

 招待客達は口には出さないが心の中では皆同じように思っていた。


 ヴィクトリアはうっかりを装いながら何度もエドワードの足を踏みつけた。


 エドワードは迫りくる復讐の時を思い痛みに耐えた。

 痛がりながらも笑っている。

 特殊な嗜好を持つ者のようで気色悪い。

 エドワードがヴィクトリアをターンさせる瞬間背中のリボンを引いた。

 ヴィクトリアのドレスが見事に分割されてパラッと足下に落ちた。

 いやらしい顔でニヤっとしたエドワードは次の瞬間虚をつかれてアホ面になった。

 目の前の妻はスタイルの良さを強調する真紅の薔薇のようなタイトなドレスを着ており、深く入ったスリットからは長く美しい脚が覗いている。

 王妃がアップにしていた髪の櫛を抜くと、艶やかなブロンドヘアがバサっと降りてきた。

 王妃が頭を振って髪をなびかせると、その美しさに一同が息を飲んだ。

 王妃はニヤっと笑うと両手で王の胸をドンと押した。


 エドワードはよろけながら後退り、フロアの中心から弾き出された。


「ヘイ!ガイズ!!」


 王妃の一声を合図に軽快な音楽が流れ始める。

 それと同時に見目麗しい男達がドヤドヤと入場し、王妃を中心にしてちょっとセクシーでエキサイティングなダンスショーが始まった。

 女性達はセクシーダンサーズ男達に男性陣は王妃に釘付けになった。

 クライマックスで王妃は特に見目麗しいガイに高くリフトされた。

 拍手が巻き起こった。



「スゴイスゴイ!こんな楽しい舞踏会は初めてだ」

「流石はエドワード王!素晴らしい趣向ですな!」

 皆が口々に王と王妃を褒め称える。

 次々と男性陣が王妃にダンスを申し込み、ガイズと踊る女性陣は皆少女のように顔を赤らめている。

 皆すごく楽しそうだ。


「シャルたんもぉ~。シャルたんもあの高~くするのやりたいの!」

 渋るエドワードにシャルロットがしつこくリフトを強請っている。

「絶対!絶対やってくれなかったらシャルたん、もうエディのことラブラブしてあげないんだから!」

 エディが仕方なくシャルたんを持ち上げる。




 痛っ!痛タタタタターーッ!


 エドワードの絶叫が響き、ぎっくり腰で動けなくなった王は台に載せられて回収されていった。


 王不在の中、舞踏会はヴィクトリアが取り仕切り、大盛況のうちに幕を閉じた。


 
 本日の決まり手、


 一枚上手いちまいうわて

 一枚上手で王妃の勝ち!


 



 



 



 




















    
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