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10 リバティ
しおりを挟む~女の子がいっぱいなんて夢みたいだよ。
華やかで楽しそうだね。
カトレア学園って、なんか花みたいな甘い香りが漂ってそうだよね。
こっちは男だらけでむさ苦しいよ。
なんか臭いし。
寮生活で学校でも顔を合わなきゃいけないじゃない?ウンザリするけど、まあ、マトモな奴ならいざこざ起こさずに平穏にやろうって思うよな?
だから基本的には仲良くやってんだけどさ、たまにバスルーム使う順番とかくだらないことで喧嘩になったりするよ。
女子校って教室に花が飾ってあったりするのかな?
僕らの学校では〈ビタール〉っていう瓶入りのジュースが売られていて皆よく飲んでるんだけどさ、栓抜きがしょっちゅう行方不明になるんだよ。
そのうち誰かが窓枠の上の方に王冠を引っ掛けて開ける方法をあみだして皆それを真似するようになったわけ。
落ちて来た栓を拾ってゴミ箱に入れるような殊勝なヤツなんて居やしないからさ、窓の下にはビタールの栓が散乱して山を形成してる。
掃除?リバティは自主・自律を精神としてるから清掃員がやるのは廊下とか特別教室とかの共用部だけ。
各教室は自分たちで管理しなきゃいけないんだけど掃除なんて誰もしないよ。
床には綿埃が丸まったヤツが風に吹かれて回転草みたいにコロコロ移動しててさ、また綿埃同士で合体してデカくなったりしてる始末だよ。
で、飲み終わった瓶を黒板の上の出っ張りに置きだしたヤツがいて、それまた皆がやるわけ。
今やビタールの空き瓶がズラ~っと教室の壁を埋め尽くしてて、饐えた臭いを放ってるしハエはブンブン唸ってるしでさ、僕らの教室は〈魔窟〉って呼ばれてるよ~
ラナがノートを買いに一人で商店街を歩いていた時、駄菓子屋の前に水の張った桶があって、その中にプカプカ瓶が浮かんでいるのを見つけた。
近寄って見てみると瓶にビタールと書いてある。
ラナは初めてみる緑色の瓶を手に取ると店内に入って代金を支払った。
「ここで飲んでいきたいんですけど」
すると店番のおばあさんが栓抜きで王冠をカンカンカンと叩いてからスポッと栓を抜いて渡してくれた。
「そこにベンチがあるから」
ラナは会釈して店を出た。
初めて飲んだビタールの味はなんだかチープなオレンジジュースみたいだった。
『これをテレンスも飲んでるのかな』
と思うと、記憶のテレンスと結びつかないようで不思議な気がした。
「カトレアの制服着てラッパ飲みなんかしちゃってる~」
ラナがハッと顔を上げると、立っていたのはブルーベリー女だった。
「へ~、アンタもそれ好きなの?オレンジの味するけど無果汁なんだよね~果汁なんて一滴も入ってないから」
ほぼ初対面なのに馴れ馴れしいブルーベリーは勝手知ったる手つきで桶からビタールを拾い上げると自分で栓を抜いて、
「つけといて!」
とおばあさんに言って当然のようにラナの隣に座ってきた。
駄菓子屋でツケで買い物をする人を初めて見た衝撃で固まっていると、ブルーベリーはグビグビっと瓶から飲んでハーっと息を吐いた。
「・・・アンタもラッパ飲みしてんじゃん」
ラナが呆れたように言うと、ブルーベリーはへへへと笑って、
「アンタ何年?」
と相変わらず馴れ馴れしい。
「2年だけど」
「一緒じゃん。見たこと無いからクラスは違うよね?」
「そうだね」
『私は見たことあるけどね』
ラナはそう思いながら短く返事した。
「私ガブリエラ・ラウザー。アンタは?」
「ラナ・ディーン」
なるべく平静を装って答えたラナだったが内心は動揺していた。
『げっ!ブルーベリーってガブリエラ・ラウザーだったの?』
カトレアには本物のお嬢様も紛れていて、その中の筆頭が東部を代表する名家ラウザー家のお嬢様ガブリエラであることは噂では知っていたが、直接接点の無かったラナは彼女の顔を知らなかった。
カトレア学園には緩いが確固としたヒエラルキーも存在していて、本物のお嬢様方はまとめて一つのクラスにしてあって、なんちゃってお嬢達とは分けてあるので普段ラナ達が本物のお嬢様達と接触することは無い。
マナー講習の時は席の関係でラナのクラスから1人だけ別のクラスのテーブルに着くことになった。
誰が行くかで揉めたので、ラナが志願してその席についたのだが、周りは知らない人ばかりだった。
ブルーベリーの正体に驚くラナにガブリエラは得意顔で
「ここ、私の行きつけだから」
と言った。
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