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8 テレンスがおかしい

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 すぐにまた返事が来た。

 メグはよく読みもしないで、

「返事よろしく」

 と渡してきた。

~僕達が固定観念とか既存の価値観なんかに縛られてるのは否めないよね。

 「子供は自由」なんてこと言う人がいるけどさ、僕はそうとも思わないんだ。
 子供の方がよっぽど凝り固まって融通が効かないって面もあるんじゃないかな?

 もっともその融通の効かなさってのは大人たちから刷り込まれた常識とか慣習によるものが大半なんだろうけどね。

 僕は子供の頃に規則を破ったり、他人と違うことをして皆から非難される、なんてことがよくあったから逆恨みみたいなとこもあるんだけどね~

 『?そんなことあったかしら?』

~すごく天気の良い日に青空に浮かぶ雲を見ていたら『外で弁当食べたら旨いだろうな~』って思ってさ、学校抜け出して一人ピクニックしたことがあるんだ。

 そしたら学校じゃ僕が行方不明だって大騒ぎになってさ。
 
 まあ、今考えれば迷惑かけたって思うけど、当時の僕は

『こんな良い日に教室で勉強してるヤツは馬鹿だろう』

 って気分でさ、だけどクラスの奴らに極悪人みたいにメチャクチャ責められてさ。

 一人くらい

 『僕も誘えよ』

 って言ってくれるヤツがいたっていいと思わない?

 「ちゃんとサボらず学校で机に向かってるのが正しい」

 って、それはそうなんだろうけど、全員が全員同じ考えてってのもなんかちょっとな・・・って。

 まあ、悪いのは僕なんだけど~ 

『そんなことあった?
 
 ・・・聞いたこともないけど。

 ・・・あー、あれか。女の子に悪ぶりたいとか、いわゆる武勇伝的な・・それにしちゃちょっと悪ぶり方が・・・ウケる』


~なんかくだらないこと書いちゃったね。

 文化財保護のことに関しては僕もちょっと思うところがあるんだ。

 というのも先日うちの学校に転校生が来たんだ。
 すごく優秀なヤツなんだけど、彼はヴェートス民族の血統なんだ。
 君も知っているだろうけど、僕たちの祖先は先住民族のヴェートス族を征服・服従させて今の国家を樹立した歴史があるよね。
 その後彼らに対する二級市民扱いは法律で禁止されて表面上は平等ってことになったけど、今なお根強いヴェートス民族への差別がある。
 
 だから僕らの学校の中にはヴェートスが入って来ることに不快感を持ってるヤツもいて、陰湿な嫌がらせをするのもいるんだ。

 僕らの学校の名前はリバティなのにさ、看板に偽り有りだよ~


『えー?率先してイジメそうなのに、テレンス』

~それでさ、一方ではヴェートスの残した遺跡やら墳墓の副葬品なんかを文化遺産として保護して、国立博物館なんかに陳列しておいてさ、そのくせ差別は放置しているって現状に僕は憤りを感じるわけ。

 君はどう思う?

 こんな手紙、つまんないかもしれないけど良かったら是非また返事をください。

 それから、できればこれからは改まった書き方じゃなくて、もっと友達に話すみたいに書いてくれると嬉しいな~

 『???テレンス?』




「え~?私はヴェートス民族となんか仲良くしたくないわ」

 テレンスの手紙の内容についてかいつまんで報告すると、メグは顔を顰めて言った。

「どうして?」

「どうしてって、私達とは違う種類の人達でしょ?」

「そうかな?」

「そうよ。だってあの人たち多神教徒なんだよ?
太陽とか蛇が神様とかどうかしてる。
 そのうち電気の神様とかガスの神様まで作るんじゃない?」

「信教の自由は法律で保障されてるわよ」

「バカね。神が私達を創り給うたの!神様作ってどうすんのよ?」
 
『その私達の神様も人間が作ったんだと思うけどな』

「・・・自分と違う考え方とか生き方とかしてる人の話とか聞いてみたいと思わない?」

「興味無~い」

「・・・アンタが好きなドングリ餅って元はヴェートスの伝統食だよ」

「・・・それは、我が国の菓子職人が洗練されたお菓子に完成させたんだから、全然別物よ!」


「・・・じゃあ、テリー様のお手紙には全く興味が持てません、って返事していいの?」

「ダメにきまってるでしょう?」

 メグは適当に良い感じに返事しといてと無責任なことを言う。

「ねぇメグ。テリー様からの今までの手紙、もう一度見せてくれる?」

「なんで?」

「・・・今までの流れを忘れちゃったから整合性をとるために」

 フーン、といってメグは翌日手紙を持ってきて、

「ちゃんと返してよね」

 と渡してきた。


 ラナは一通目から並べて凝視したが、途中で筆跡が変わっているということはなかったし、誰かが筆跡を真似たようなぎこちなさもなかった。

 ラナはこれが全てテレンス本人が書いたものだと認めざるを得なかったが、益々わけが分からなくなった。


 
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