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 「最高にグッとくるレターセットを買いに行く!」

 張り切るメグに付き合ってラナは放課後の町に来た。
 たかがレターセットひとつ買うのに既に4軒目の店に引きずられて行ったラナは正直早く帰りたくてたまらなかった。
 そして「コレなんかどうかな~」とメグが便箋や封筒を掲げて見せる度に
「スゴく良いと思う~」
 と答えて、真剣味が足りない、と怒られた。

 ようやくメグが納得して決めたのは一軒目で見た品だった。

 


「えーとさ。いきなり手紙書いてって言われても情報が少なすぎるっていうかさ、メグとテリー様がどういう会話をしたか、とか、メグがテリー様のどういう所に魅かれたか、とか、具体的に教えてくれる?」

「・・・う~ん。会話は特にしてないカナ」

「え?それでどうやって連絡先を手に入れたの?」

「グループワークした時に同じテーブルになった子から聞き出した」

 その積極性があるのなら直接本人に「お友達になってください」くらい言えたんじゃないんだろうか?

「・・・・じゃあ、メグはテリー様のどういう所を好きになったの?」

「イケメンなところとか、リバティの生徒ってところとか、服装とか装身具が高級品でお金持ちっぽいところとかかな・・・」

「・・・へ~・・・そうなんだ・・」

 その後もテリーについて色々聞き出そうとしたラナだったが、テリーがリバティの学生寮に住んでいること以外これといって手紙の材料になるような情報は得られなかった。
 ただ、メグがグッときた!というラナからみると幾分いけすかないと感じるカッコつけた仕草、『しょっちゅう手鏡で前髪を整える』とか『椅子に掛けていた上着を着るときに一々クルッと放り投げるようにして袖を通す』とか『高級時計ブランド ヌーヴォーリッシュの最新式の腕時計でしょっちゅう時間を確かめる様子』などを伝え聞くに、ラナの中のテリーはプライド高めの意識高い系男子として勝手なイメージが出来上がりつつあった。

 そうして書き上げた初めての手紙は、メグの自己紹介とテリーを褒めちぎる内容に終始していて大して面白い文章でもなかった。

「こんな手紙ならメグが自分で書いても変わらないんじゃないの?」

「いやいや、字がキレイなだけでもポイント高いって」

 宛先はタイプで打つ、と言ったメグに書き上げた便箋を手渡しながら、それでも

 ~そこにいるだけで周囲の耳目を集めてしまうテリー様はきっと平凡な私が向ける憧れのこもった視線にお気づきにはならなかったでしょう~

 とか

 ~退屈な座学の授業中、ふと移した視線の先で貴方だけが輝いて見えました~

 などという文章はいかにもテリーの自尊心をくすぐりそうで、我ながらなかなか上出来なんじゃないかとラナは密かに自画自賛していた。

 そしてメグが選んだ花柄に金箔があしらわれたレターセットも、購入した時には

 『年頃の男子にいかにもな封筒の手紙が届けられたら周囲から揶揄われたりして嫌な気分になるのではないかしら』

 と心配になったが、今となっては「他校の女からファンレターが届く俺」と自慢している姿が想像され、むしろナイスなチョイスだったんじゃないかと思われた。


 そうして無事に任務を遂行したラナが手紙のことなどすっかり忘れていた頃になってテリーから返事が来た。




 
 メグはランチタイムの食堂で恭しく手紙を取り出すと、いつものメンバーの前で朗読した。

 キャロラインとグレイスは頬を紅潮させ有り難がって拝聴していたが、ラナは端々に散見される尊大な表現に嫌気がさした。

 ~申し訳ないが君のことは覚えていない。
 だけど君の僕に対する好意は伝わったよ~
 
 ~僕は女の子達から好意を持たれ易いたちだし、そういったコ達の中には羽目を外した行動をする人もいて辟易することもあるのだけれど、君の持つ奥ゆかしさは年頃の女の子としては好ましいものだと思うよ~
 
 ~だからといって今すぐ君を僕と個人的に付き合えるリストに入れてあげられるかどうかっていうと、今はまだそこまでじゃないかな。
 まあ、友人の一人として手紙をやり取りするくらいならやぶさかでないよ~


 ~まあ、僕も色々と忙しい身だから返事は書けたとしても遅くなると思うよ。
 それでも良ければまた手紙を送ってよ~


 こんなヤツのどこが良いのかラナにはサッパリわからなかったが、

 「また手紙ちょうだいって!」

 と喜ぶメグを前にして、

『まあ、人の好みは色々よね』

 と軽く笑って

「良かったじゃない。これから親交を深めていけるんじゃない?」

 と言うと、

「何を他人事みたいに言ってるのよ!西部は遠くて直接会えないんだから手紙だけが頼みの綱なのよ。これからもラナに協力して貰わなくっちゃ!」

 と当然のように返してきた。

    
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