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しおりを挟む「私に足りないものは何でしょうか?」
5つ目の劇団の入団オーディションで不合格を言い渡されたラピスが審査をしてくれた劇団幹部に質問した。
「足りない、ていうか多すぎるんだよ」
は?という顔をしたラピスに彼は続ける。
「ハッキリ言って下手クソなんだよ」
「・・・下手クソ・・・私の演技は下手なんですか?」
「ワザとらしい、っていうか大袈裟なんだよね」
「・・・・」
前日の夜、4つ続けて入団試験に落ちたラピスは、さすがにおかしい、とカロリナに眉を蹙めて小声で言った。
「もしかして、お父様が裏で手を回して私がオーディションに受からないようにしているのかも・・・」
アパートの部屋には二人きりしかいないのに、まるで諜報員でも近くに隠れているかのようにラピスは周囲をキョロキョロと見回した。
カロリナは思った。
『それは違うと思うけど』
明らかに『スパイに狙われているごっこ』を楽しんでいるラピスにカロリナはこの遊びに付き合うべきかどうか少し考えてから、
「ラピス様、どこがダメなのかアドバイスをお聞きになったらいかがでしょうか?」
と親切な忠告をした。
「ええっ~!!私って下手なんですかぁ~?!」
6才の時に夏祭りで『ウサギのぴょん吉』を観て感動して以来ずっと演劇に人生を捧げてきた私の演技が下手クソだなんて!!!
ガックリ肩を落とす姿が可笑しくて審査員は慰める。
「まあ、演劇が好きなんだなって気持ちは凄く伝わってきたよ。
もっとちゃんと勉強したらチャンスもあるんじゃないかな?」
「勉強って、どこでどうすればいいんですか?」
「う~ん。まずは良い舞台を沢山観ることと、それから色んな体験をした方がいいんじゃないかな?
君、貴族のお嬢さんだろ?働いたこともない人に庶民の気持ちなんて理解できないよね?」
「なるほど、その通りですね」
さっきこの世の終わりみたいな絶望の顔をしていたのにもう希望に満ちた笑顔を爆発させている。
容姿だけで言えば文句なく合格なんだけど・・・。
「まあ、劇団員は無理だけど、見学くらいは来てもいいから」
「ホントですか?」
その夜ラピスはカロリナに、どこをどう解釈すればそう思うのか分からないけれど、
「なかなか見所があると言われた」
と鼻を膨らませて報告した。
いつだってポジティブなラピスだった。
その頃お城のユリアヌス王子様は、
「なんでラウィーニア侯爵家から茶会の出席の返事が来ないのだ?」
と侍従に詰め寄っていた。
「ラウィーニア侯爵家には娘はいないというお返事で」
「そんなわけないだろう?!」
「じ、実は殿下・・・ラエティティア様はラウィーニア侯爵家から勘当されたそうなのです」
「なんだと?!」
「なんでも学院を落第して2年生に進級できなかったそうで・・・」
「クソ!私が卒業した後、そんなことになっていたとは・・・。
それで彼女は今どこに?」
「さあ?」
「さあ・・・って。彼女がどこで何をしているのかすぐに調べて報告しろ!」
『いつも温厚な殿下があの娘のことになると豹変するんだからなぁ』
侍従は困ったもんだと首をゴリゴリ回した。
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