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ベルクホーフに戻ったルドヴィカは突然泣き出したりなどして精神が安定しなかったので学校を休んでいた。
「ねぇ、お母様。リーヌスのお父様に命令すればいいわよね?」
「命令って何を?」
「だってリーヌスのお父様はうちのお父様の言う事は何だって聞くじゃない。
だったらリーヌスに私と結婚させるように命令して貰えばいいわよね?」
いかにも「いいこと思いついた」風に無邪気に喋るルドヴィカは完全に現実逃避しているのだろう。
「そんなことは無理よ」
「どうして?次の選挙で落とすって脅せば言う事聞くわよ。
リーヌスのお父様は将来は国政にも打って出るおつもりなのよ?
ベルクホーフの財力を当てにしてるでしょう?
お父様の言うことなら何だって聞くわよ」
ニコニコと笑っている娘の表情はどこか擬い物じみていてテレーゼの胸はザワザワする。
「・・・ルドヴィカ、それは無理よ」
「どうして?」
ルドヴィカの目が一瞬キッと光った。
「他人の心はお金では買えないし、愛は命令で強要できないわ」
「できるわよ!」
声を荒らげたルドヴィカはいつもの調子を取り戻したようにも見えた。
「お母様はそんなことも分からないの?
他人の心なんてお金を前にしたら簡単に変わるわよ!!
この世にお金で買えない物なんて殆ど無いわよ」
「・・・ルドヴィカ。ルドヴィカはそれで満足なの?愛して貰えない相手をお金の力で縛りつけても幸せになんかなれないわよ。
・・・諦めなさい」
「嫌よ!」
私にはリーヌスが必要なのと喚き始める娘を宥めるテレーゼが次第に怒鳴り声に変わっていく。
「諦めるしかないの!!振り向いてくれない相手にしがみついても惨めなだけでしょう!!
あんなリーヌスなんかより、もっと
もっとルドヴィカに相応しい素敵な男を必ずお母様とお父様が見つけてあげるから、だからあんな男に執着するのは止めて!!!」
それでもリーヌスがいいのよ、と泣く娘の肩を抱きながらテレーゼも泣いた。
どうして私達はこんなに惨めなんだろう。
親子四人水入らずの食卓は重たくぎこちない空気の中で一人ライムントがどうでもいいような話題を振ってなんとか盛り上げようと奮闘していた。
そこへ3日ぶりだか4日ぶりだかで帰って来たエヴェリンが許可も得ずに我が物顔で現れた。
「お兄様、ローレンシアの後見を外れてくださる?」
「またそんなことを言っているのか?」
ナプキンで口を拭ってライムントは不機嫌な声を出した。
「あの子は嫁に出すことにしたから。
学校の退学手続きも宜しく」
「は???」
呆気にとられたライムント以上に激震が走ったのはアードルフだった。
『嫁?今、嫁に出すって言った?』
「嫁に出すってどういうことだ?!」
エヴェリンはキャビアを載せたブリニを手づかみで口に放り込んで咀嚼すると、「イマイチだわね」なんて顔を顰めてみせる。
「ギュンター・シュタインベルガー。
お兄様も知ってるでしょ?」
シュタインベルガーは『西の悪魔』と異名をとった西部の有力家で先の大戦では武器商人として暗躍した、黒い噂の絶えない家だ。
ローレンシアの実父に匹敵するかそれ以上の経済基盤を持っている。
「勝手なことを!!」
思わず立ち上がったライムントが拳でテーブルを叩いた。
「お兄様が悪いのよ。コンラートの預金を渡さないから」
「あれはローレンシアの物だ!・・・・お前、まさか金でローレンシアを売ったのか?」
「4億ゲール。
粘ればもうちょっと行けたかも知れないけど、まあ、そんなもんでしょ。
まあまあ親孝行してくれたほうじゃない?」
ライムントはエヴェリンに突進すると左手で襟首を掴んで大きく振りかぶった右手で妹の頬を打った。
女に手を上げたのは生まれて初めてだった。
「ねぇ、お母様。リーヌスのお父様に命令すればいいわよね?」
「命令って何を?」
「だってリーヌスのお父様はうちのお父様の言う事は何だって聞くじゃない。
だったらリーヌスに私と結婚させるように命令して貰えばいいわよね?」
いかにも「いいこと思いついた」風に無邪気に喋るルドヴィカは完全に現実逃避しているのだろう。
「そんなことは無理よ」
「どうして?次の選挙で落とすって脅せば言う事聞くわよ。
リーヌスのお父様は将来は国政にも打って出るおつもりなのよ?
ベルクホーフの財力を当てにしてるでしょう?
お父様の言うことなら何だって聞くわよ」
ニコニコと笑っている娘の表情はどこか擬い物じみていてテレーゼの胸はザワザワする。
「・・・ルドヴィカ、それは無理よ」
「どうして?」
ルドヴィカの目が一瞬キッと光った。
「他人の心はお金では買えないし、愛は命令で強要できないわ」
「できるわよ!」
声を荒らげたルドヴィカはいつもの調子を取り戻したようにも見えた。
「お母様はそんなことも分からないの?
他人の心なんてお金を前にしたら簡単に変わるわよ!!
この世にお金で買えない物なんて殆ど無いわよ」
「・・・ルドヴィカ。ルドヴィカはそれで満足なの?愛して貰えない相手をお金の力で縛りつけても幸せになんかなれないわよ。
・・・諦めなさい」
「嫌よ!」
私にはリーヌスが必要なのと喚き始める娘を宥めるテレーゼが次第に怒鳴り声に変わっていく。
「諦めるしかないの!!振り向いてくれない相手にしがみついても惨めなだけでしょう!!
あんなリーヌスなんかより、もっと
もっとルドヴィカに相応しい素敵な男を必ずお母様とお父様が見つけてあげるから、だからあんな男に執着するのは止めて!!!」
それでもリーヌスがいいのよ、と泣く娘の肩を抱きながらテレーゼも泣いた。
どうして私達はこんなに惨めなんだろう。
親子四人水入らずの食卓は重たくぎこちない空気の中で一人ライムントがどうでもいいような話題を振ってなんとか盛り上げようと奮闘していた。
そこへ3日ぶりだか4日ぶりだかで帰って来たエヴェリンが許可も得ずに我が物顔で現れた。
「お兄様、ローレンシアの後見を外れてくださる?」
「またそんなことを言っているのか?」
ナプキンで口を拭ってライムントは不機嫌な声を出した。
「あの子は嫁に出すことにしたから。
学校の退学手続きも宜しく」
「は???」
呆気にとられたライムント以上に激震が走ったのはアードルフだった。
『嫁?今、嫁に出すって言った?』
「嫁に出すってどういうことだ?!」
エヴェリンはキャビアを載せたブリニを手づかみで口に放り込んで咀嚼すると、「イマイチだわね」なんて顔を顰めてみせる。
「ギュンター・シュタインベルガー。
お兄様も知ってるでしょ?」
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ローレンシアの実父に匹敵するかそれ以上の経済基盤を持っている。
「勝手なことを!!」
思わず立ち上がったライムントが拳でテーブルを叩いた。
「お兄様が悪いのよ。コンラートの預金を渡さないから」
「あれはローレンシアの物だ!・・・・お前、まさか金でローレンシアを売ったのか?」
「4億ゲール。
粘ればもうちょっと行けたかも知れないけど、まあ、そんなもんでしょ。
まあまあ親孝行してくれたほうじゃない?」
ライムントはエヴェリンに突進すると左手で襟首を掴んで大きく振りかぶった右手で妹の頬を打った。
女に手を上げたのは生まれて初めてだった。
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