可哀想な私が好き

猫枕

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 市街地に通じる坂道をどやどやと少女達が集団で下りていく。

 「マシュマロ~マシュマロ~♪
 マ・シュ・マ~ロせっけん♪」

 「違う違う、マシュマロ~だよ」

 「いや、なんか違うくない?」

 少女達はさっきからラジオCMで流れるマシュマロ石鹸の歌を互いに音痴だと罵り合いながら口ずさんでいる。

 あんまり何回も歌い過ぎて正解がわからなくなった頃、

「や、やあ!」
 
 縦も横もデカい少年が片手を上げて挨拶した。

「あっ!デニス」

 少年に声を掛けるローレンシアに、
『え?何、知り合い?』
 みたいな顔で皆が訝しがる。

「あ、この人デニス・ヤンセン。カタリナの時のクラスメートなの」

 あ、どうも、と挨拶するデニスに、カタリナと聞いた途端にあからさまに嫌な顔をしたレギーナ。

「カタリナで皆から無視されてた時も、デニスだけが親切にしてくれたの」

「あっ、そうなんですね。見るからに紳士そうな方だと思ったんですよ」

 と掌返しに愛想を振りまくレギーナ。

「友達ができたんだね、良かったね」

 デニスが人の良さそうな笑顔を向ける。

「こんな所で会うなんて偶然だね」

「偶然・・・でもない、・・・んだけど、さ・・・でもお邪魔だよね?」

「どした?なんか相談事?聞くよ?」

「あ、あのさ、皆さんよろしかったら僕の父がオーナーやってるリンデンバウムってカフェが近くにあるんだけど。
 キルシュトルテなんかが美味しいんだ。
 ご馳走するからご一緒にいかがですか?」

 少女達は飛び跳ねて喜んだ。

 デニスが6人もゾロゾロと女の子を連れて行ったので、カフェの店員は、

「坊ちゃんモテモテですね~」

 と冷やかして奥の個室に案内してくれた。

 香り高いコーヒーといろんな種類のケーキが盛られたスタンドが運ばれて来たが、やはり一番人気は名物キルシュトルテだ。

 ただしこのケーキ、見た目は可愛くて味も良いのだがアルコール度数40の酒をジャバジャバ染み込ませている。

 初めはおとなしくしていた少女達も次第にフレンドリーを通り越して若干無遠慮になっていった。

「で、相談って何?」

「あのさ、ローレンシアって社交ダンスとかできる?」

「できない」

「え?お嬢様だろう?できないの?」

 するとレギーナ達がヘラヘラしながら、
「よっ!似非お嬢様!」

 と合いの手を入れる。

「そんなん習う前にこっち来たもん」

「参ったなー」

「何?何か困り事があるならド~ンと話してみなさい!!
 なんもできんけど~へへへ」

「今度、試験を兼ねた社交ダンスパーティーがあるんだよ」

「ケケケっ・・・アンタの学校って社交ダンスの授業があるの?気取ってるぅ~」

 アガーテも目が逝っちゃってる。

「随分前近代的なカリキュラムですね」

 ドーラは酒に強いようだ。

「そうなんだよ。・・・でさ、パートナーを見つけてパーティーに出なきゃなんないんだけどさ、僕と組んでくれる人なんていないんだよ」

「なんでぇ?」

「僕みたいなみっともない奴と踊るのは恥ずかしいんだってさ」

「ハッ!聞きしに勝るクソ共だなっ!カタリナの生徒達はっ!」

「ちょ、レギーナ声デカいって!!
 そういう事は、もっと大きな声で言わなくっちゃ、ハハハ」

 アラベラが叫べば、マヌエラは

「もっと言え~!」

 と囃し立てる。

「じゃっ、私が言います!」

 突然起立したアガーテが

「カタリナはクソばっかりぃ~!!」

 と叫び皆がゲラゲラ笑いながらイェーイ!と騒ぐ。

    どうにも話が進まない。

「妹に頼んだんだけどさ~、『お兄ちゃんとダンスなんかしたら皆の笑い者よ!』って泣くんだ。こっちが泣きそうだよ」

「おっ、妹呼んで来い!ワシが説教したるっ!」

「レギーナがじいさんになった~ヒャヒャッ」

「そしたらおばあちゃんが、『私がパートナーになってあげるわ!』なんて張り切りだしてさ、おばあちゃんの事は好きだけど一緒にダンスなんかしたら学校中の笑い者だよ!」

「い~じゃん、ばあちゃん」

「年寄りは大事にしろ」

「冥土の土産に孫と踊りたいんだろ?」

 皆他人事だと思って真剣味が足りない。

「で、相談というのは具体的にどういうことでしょうか?」

 ドーラだけがアルコールの影響を受けていないようだ。

「ローレンシアしか頼める人がいないんだよ」

「よし来た!任せろ!踊れないけど!ヒャッヒャ」

「一番簡単なワルツだけでいいんだ。
 練習して一曲踊ってくれないかな?」

「う~ん、デニスにはお世話になったしな~。
 いつかお礼がしたいと思ってたから。
 いいよ!練習しよっ!」

「助かるよ~。ありがとう」

「ね~ね~。このメニューに書いてある『ブランデーケーキ』っての頼んでいい?」

 他のメンバーは食べ物に夢中だ。

「でも~、どこで練習する~?ダンス教師に当てはある~?」

 ローレンシアがデニスに問いかけると、突然レギーナが

「あっ!!」

 と大声を出した。

「なにっ!?びっくりするじゃない」

「ウチのじいちゃん!」

「えっ?時計職人の?」

「うん!ウチのじいちゃんダンスの名手!」


 そんなわけでホロ酔いのお嬢ちゃん達プラスワンはいい気分でヘラヘラしながらレギーナのじいちゃんのツァイト時計店へとフラフラした足取りで行進した。
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