可哀想な私が好き

猫枕

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 公園でのピクニックの後、友達と別れたローレンシアは街の古着屋で型遅れの野暮ったいワンピース3着を買い、隣の靴屋で安物の靴を手に入れた。

 鞄はカタリナ時代に使っていた、散々意地悪で踏みつけられたり傷を付けられたりしたのがあるので、それをそのまま使うことにした。

 気がつくとすっかり夕方になっていたので、夕食に間に合うように帰路を急ぐ。

 門のあたりでアードルフが待ち伏せしているのではないかと警戒したが、誰もいなくて無事通過する。

 ホッとして別邸に入ると部屋の前で腕組みしていたのはルドヴィカだった。

「遅かったわね」

 ドスの利いた声で威嚇するルドヴィカ。

「お約束でもしてましたっけ?」

「ふざけんじゃないわよ!!
 どういうことよ?!」

 何の話をしているのだろう?サッパリわからないので無視していると、

「何でリーヌスまで第一高等に行ってんのよ!!」
 
 と怒鳴りながら床を踏みつけた。


 「・・・地団駄を踏むって表現は知ってるけど、本当にやる人って初めて見たわ」

「ふざけるな!!」

 ルドヴィカが鬼の形相なのがなんだか可笑しかった。


 どうやら入学初日で絶望したのはローレンシアだけではなかったようだ。


「なんで私に言うの?アナタのお兄様に聞けばいいじゃない」

「アードルフも知らなかったっていうんだからアンタが何かやったんじゃないの?」

 おや~?アードルフの差し金では無い?

 じゃあ、どういう事なんだろう?

「アンタが調子に乗ってリーヌスに色目使ったんじゃないの?」

 何言ってんだコイツ。

 このカルトシュタットで私に他人を動かせる力なんかあるわけないだろう。

 「ふ~ん。

 アンタ、もしかして市長の息子のことが好きなの?」

 ローレンシアの馬鹿にした言い方にルドヴィカの目が三角になる。

「へ~。あ、そっかぁ~。
 市長の息子って時々私のことチラチラ見てくるのよね。
 気持ち悪っ!て思ってたけど、あれって、もしかして私のことが好きなのかしらね?」

 ローレンシアは口から出まかせに適当なことを言ってルドヴィカを挑発した。
 まあ、ローレンシアが気づいていなかっただけで彼女の言ったことは当たっていたのだが。

 ローレンシアは眉をハの字にして、

「好きな人に相手にされないなんて悲しいわねぇ?」

 といかにも気の毒そうな声を出す。

 頭に血の上ったルドヴィカが飛び掛かって来て渾身の力を込めてローレンシアの頬を打った。

 ローレンシアは星を見た。

 よろけて廊下の壁に強かしたたに二の腕をぶつけた。

 

 翌日、登校してきたローレンシアは型遅れのワンピースに傷だらけの鞄を持って頬を真っ赤に腫らしていた。

 昨日ローレンシアがお坊っちゃま二人組に詰め寄られるシーンを目撃した生徒もクラスの中にはいて、

「昨日お仕置きとか言ってたよな・・・?」

 などとヒソヒソしていた。

 「なんか酷くないか?」

 「可哀想だよな」

 皆は口々にローレンシアを可哀想だと噂した。

 登校してきたレギーナ達はローレンシアの顔を見るなり怒りを露わにした。

「アイツがやったの?!」

 ローレンシアはそうだともそうじゃないとも言わずに俯いていた。

「ちょっと私が抗議してやるわ!」

 レギーナが言うと、

「私も行きます」

 とドーラの低い声が続き、私も私もと他の3人も言った。

 ローレンシアはレギーナの袖を引っ張って、首を激しく左右に振りながらやめてやめてと懇願した。

「あなた達にはベルクホーフの恐ろしさがわからないのよ・・・お願い!そんなことをしたらアナタ達が酷い目に遭わされるから!」

「・・・こんなのおかしい」

「家に帰ったら、もっと酷い目に遭わされるから・・・だからお願い」

「・・・・・」

「こんなのって無いわ・・・・ローレンシアが可哀想よ」

 
 そこに何にも知らないアードルフが登校してきた。

 目でローレンシアを探すがすぐには見つからない。
 彼女が信じられないくらいダサい格好をしていたからだ。
 
 『あれ?まだ来てないのかな?・・・って、あれ?まさか?』

 色が褪せて白っちゃけた茶色いネルのワンピースにお下げ髪。

 他の女子はみんな制服を着ているのに、なぜローレンシアだけがわざわざ惨めったらしい格好をしているんだろう?    

 ?で頭がいっぱいになったアードルフが凝視するとローレンシアの左頬が腫れ上がっているのが見えた。

 思わず後先考えずにアードルフは女子の集まりに近づいた。

「オマエ、その顔どうしたんだ?!」

 すると何故か女子どもはアードルフを無言で睨みつけた。
 ローレンシアは俯いて何も言わない。

 「・・・白々しい・・・」

 女子のうちの誰かが小さく呟いた声が聞こえた。

 『え?なに?』

 カッとしたアードルフが思わずいつもの調子で怒鳴りそうになるが、今は抑えないと分が悪い。

 「女の子に暴力ふるうなんて感心しないな」

 誰だか顔も名前も覚えていない男がアードルフの側を通り過ぎながら呟いた。

 『え?もしかして俺がやったことになってる?』

 理由わけのわからないアードルフは呆然と立ち尽くした。

 
 

 

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