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しおりを挟む「グレアム様、お顔をどうされたの?」
セリーヌは心配そうに顔を歪めた。
「・・・リーヌ・・・すまない。
オレは君に隠していたことがあるんだ」
グレアムは俯きながら目を潤ませた。
顔半分を赤黒く腫らしながらも尚、色香を漂わせているのだから絶世の美男子とは良く言ったもので、最早あっぱれである。
セリーヌの不安そうな顔にグレアムが容赦ない言葉を浴びせる。
「オレには婚約者がいるんだ」
「え?」
セリーヌは目を見開いて、
「その婚約者の方とお別れして私と結婚してください」
震える声で懇願した。
グレアムはフッと自嘲するように笑うと、
「無理なんだよ」
と呟いた。
「リーヌ。
オレが愛してるのは君だけだ」
「それならどうして?」
「言ったよ。別れたいって。
心から愛している女性がいるから別れてくださいって。
床に膝をついて頼んだよ」
グレアムはヒースに殴られた頬にそっと手を添えて顔を歪めた。
「結果が、これさ」
カトリーヌの目に、たちまち涙が溢れてくる。
「酷いわ、酷いわ。
・・・でも、お父様に頼めば」
「無理なんだよ!」
グレアムの強めの声にセリーヌの肩が跳ねた。
「オレの家はね、弱味を握られているから逆らえないんだ。
相手はオレの家なんか簡単に潰してしまえるくらいの力を持ってる。
君のお父上でも敵わない」
グレアムは涙を流すセリーヌの頬をそっと撫でた。
「言うことを聞かなければ殺すと言われたんだ」
セリーヌは驚愕の表情を見せた。
「・・・まあ、君と一緒にいられないのなら、生きていても仕方ないかな・・」
「そ、そんなのダメよ!」
「逆らうなら君も一緒に殺すって言われてね、セリーヌは悪くない、彼女には手を出すなって、夢中で殴りかかったんだけど・・・逆にやられちゃったよ」
グレアムは軽く笑って見せる。
「でも君のお父上にオレの事知られたら、どの道殺されちゃうね。
君は閣下の宝物だものね。
君はオレの事、お父上に告げ口する?」
グレアムの口調は優しかったが目の奥は冷たく光っていた。
「言わないわ。絶対」
私を信じて!セリーヌの目はそう訴えていた。
グレアムはセリーヌの柔らかな髪を指の間に通しながら、
「ごめん。悪いのはオレだ・・・
どうしても君を愛さずにはいられなかったオレの罪だ・・・」
と芝居がかったセリフを吐いた。
「わかりました」
セリーヌは俯いてそう言った。
グレアムは心の中でニンマリ笑った。
良かった。
馬鹿で助かる。
『殴られた時は頭にきたけど、赤毛もなかなか良い仕事してくれるじゃないの。
信じ込ませるのに役に立ったよ』
「私のお母さんは他人のダンナさんを愛したの。
そうやって私が生まれたの。
お父様の奥様は苦しんだでしょうね。
苦しめたのは私達。
私はまた誰かを苦しめるところだったのね。
・・・お母さんの罪は娘の私が背負うしかないもんね。
私が罪を犯したら、今度は私の子供が償わなくちゃいけないんだよね。
私、馬鹿だけど、悪いことは分かるんだ。
・・・きっと、今、罰をうけているのね」
セリーヌは大きな目に涙をいっぱい溢れさせながら、
「幸せになってね、私の王子様」
と一生懸命笑って見せた。
今まで何人ものご令嬢達を弄んでも何の罪悪感も感じることのなかったグレアムが、この時ばかりは胸がチクリと痛んだ。
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