12 / 39
12
しおりを挟む
「ホワイトデーに何か返事してもらった?」
カトリーヌが知りたくてしょうがない、という表情でキャサリンに聞く。
キャサリンがニヨニヨしながら
「これを戴いたわ」
と見せたのは本だった。
「なにこれ?」
「古代の地図帳よ」
「地図帳~?いらな~い」
「失礼ね。高価な本なのよ」
「高価でも、いらな~い。
なんかさ、もっとこう、ワクワク、ドキドキが欲しいじゃない」
「ワクワクドキドキするわよ、いつまでも見てられるもん。
川の流れが付け替え工事でこういう風に変化したんだなーとか、今は閉山してるけど、あそこに鉱山があったんだなーとか」
「キャサリン、変人~!」
「そういうカトリーヌはどうなのよ?」
「私?・・・ 聞きたい?」
「・・・言いたくないなら良いけど」
「聞きなさいよ~」
キャサリンはクッキーの指輪の話に、
「これからお弁当一緒に食べるの気まずい~。
聞くんじゃなかった~、いつか本物の指輪って~!」
と叫びつつも喜んでいた。
「キャサリンは?ヴィッラーニ先生はなんて仰ったの?
地図帳をくださるくらいだから勉強しなさいってこと?」
「まあ、そうだよね。
しっかり勉強しなさいって。
そして、
『卒業するまで他の人を好きにならないで』
って」
「くぅ~っ!!」
今度はカトリーヌが悶絶した。
二人で体を捩って身悶えしていると、昼休みに男子同士でフットボールをやっていたヒースが戻って来て、
「おまえら何やってんの?」
と珍妙な物でも見るような目を向けた。
「お父様に会ってくれる?」
フォルコンリー家御用達のキャフェィのVIPルームでセリーヌは何度目かのお願いをした。
「うーん。今はまだちょっと難しいかな」
グレアムはシャツのボタンを留めながらちょっと困ったように眉を下げて笑った。
「君を守る為なんだ」
グレアムはセリーヌの隣に座り直して彼女の頬を優しく撫でた。
「守るって?」
「う・・・ん、これは国家機密だから詳しいことは言えないんだ」
「コッカキミツ?」
「絶対にヒミツってこと」
「言ったら危険ってこと?」
「そう。オレも君も」
「殺されちゃう?!」
「そう。殺されちゃうかも」
怖がるセリーヌの顔を両手で包んで瞳を覗き込む。
「大丈夫だよ。オレが守ってあげるから。
だからオレと会ってることは誰にも言っちゃダメだからね」
セリーヌは何度も頷く。
助かった、馬鹿で。
なんだよ国家機密って。
思わず吹きそうになるよ。
そろそろ潮時かな~。
でも、手放すのは惜しいんだよな。
グレアムはセリーヌのフワフワと柔らかいピンクブロンドの髪を掻き上げながら、カトリーヌの艶やかな黒髪が指の間を滑り落ちる様を夢想した。
そんな逢瀬を何度も重ねていたある日のことセリーヌが真剣な表情でグレアムを見上げた。
『なんだクソ、可愛いな』
「私のお父様ならグレアム様を助けられると思うの」
「?どういうこと?」
「私のお父様は偉いから、きっとグレアム様を救ってくれると思うの」
「?」
「お父様は大臣だもの」
「大臣だって?!」
「リクグン?大砲とかバーンバーンってやるのよ」
セリーヌは以前、建国祭で父親が祭礼用の白い軍服で指揮を取り、大砲が何発も撃たれた時のことを目を輝かして話した。
「陸軍大臣?・・・もしかして・・・フォルティス・ティメンテス・・・閣下?」
「うん」
「・・・・どうして教えてくれなかったのかな・・・?」
「聞かれたことにだけ答えなさいって、言われてるから」
「・・・そう。それは偉いね」
グレアムの背中に冷たいものが一筋流れた。
マズイんじゃないか?
すごーくマズイんじゃないか?
グレアムは真剣な顔でセリーヌに向き直った。
そして諭すように何度も念を押した。
「いいかい、リーヌ。絶対に、ぜーたいに、オレ達のことは誰にも、ダ・レ・ニ・モ言っちゃいけないからね」
セリーヌは少し驚いたように頷く。
「誰かに知られたら、オレ達は二度と会えなくなってしまうからね」
「そんなのヤダ」
セリーヌが大きな目を潤ませる。
フッ・・可愛いヤツ・・。
「そうなったら嫌だろう?」
その場はうまく丸め込んだグレアムだが、今後起こりうる事態にどう対処するかぐるぐると思いを巡らせるのだった。
カトリーヌが知りたくてしょうがない、という表情でキャサリンに聞く。
キャサリンがニヨニヨしながら
「これを戴いたわ」
と見せたのは本だった。
「なにこれ?」
「古代の地図帳よ」
「地図帳~?いらな~い」
「失礼ね。高価な本なのよ」
「高価でも、いらな~い。
なんかさ、もっとこう、ワクワク、ドキドキが欲しいじゃない」
「ワクワクドキドキするわよ、いつまでも見てられるもん。
川の流れが付け替え工事でこういう風に変化したんだなーとか、今は閉山してるけど、あそこに鉱山があったんだなーとか」
「キャサリン、変人~!」
「そういうカトリーヌはどうなのよ?」
「私?・・・ 聞きたい?」
「・・・言いたくないなら良いけど」
「聞きなさいよ~」
キャサリンはクッキーの指輪の話に、
「これからお弁当一緒に食べるの気まずい~。
聞くんじゃなかった~、いつか本物の指輪って~!」
と叫びつつも喜んでいた。
「キャサリンは?ヴィッラーニ先生はなんて仰ったの?
地図帳をくださるくらいだから勉強しなさいってこと?」
「まあ、そうだよね。
しっかり勉強しなさいって。
そして、
『卒業するまで他の人を好きにならないで』
って」
「くぅ~っ!!」
今度はカトリーヌが悶絶した。
二人で体を捩って身悶えしていると、昼休みに男子同士でフットボールをやっていたヒースが戻って来て、
「おまえら何やってんの?」
と珍妙な物でも見るような目を向けた。
「お父様に会ってくれる?」
フォルコンリー家御用達のキャフェィのVIPルームでセリーヌは何度目かのお願いをした。
「うーん。今はまだちょっと難しいかな」
グレアムはシャツのボタンを留めながらちょっと困ったように眉を下げて笑った。
「君を守る為なんだ」
グレアムはセリーヌの隣に座り直して彼女の頬を優しく撫でた。
「守るって?」
「う・・・ん、これは国家機密だから詳しいことは言えないんだ」
「コッカキミツ?」
「絶対にヒミツってこと」
「言ったら危険ってこと?」
「そう。オレも君も」
「殺されちゃう?!」
「そう。殺されちゃうかも」
怖がるセリーヌの顔を両手で包んで瞳を覗き込む。
「大丈夫だよ。オレが守ってあげるから。
だからオレと会ってることは誰にも言っちゃダメだからね」
セリーヌは何度も頷く。
助かった、馬鹿で。
なんだよ国家機密って。
思わず吹きそうになるよ。
そろそろ潮時かな~。
でも、手放すのは惜しいんだよな。
グレアムはセリーヌのフワフワと柔らかいピンクブロンドの髪を掻き上げながら、カトリーヌの艶やかな黒髪が指の間を滑り落ちる様を夢想した。
そんな逢瀬を何度も重ねていたある日のことセリーヌが真剣な表情でグレアムを見上げた。
『なんだクソ、可愛いな』
「私のお父様ならグレアム様を助けられると思うの」
「?どういうこと?」
「私のお父様は偉いから、きっとグレアム様を救ってくれると思うの」
「?」
「お父様は大臣だもの」
「大臣だって?!」
「リクグン?大砲とかバーンバーンってやるのよ」
セリーヌは以前、建国祭で父親が祭礼用の白い軍服で指揮を取り、大砲が何発も撃たれた時のことを目を輝かして話した。
「陸軍大臣?・・・もしかして・・・フォルティス・ティメンテス・・・閣下?」
「うん」
「・・・・どうして教えてくれなかったのかな・・・?」
「聞かれたことにだけ答えなさいって、言われてるから」
「・・・そう。それは偉いね」
グレアムの背中に冷たいものが一筋流れた。
マズイんじゃないか?
すごーくマズイんじゃないか?
グレアムは真剣な顔でセリーヌに向き直った。
そして諭すように何度も念を押した。
「いいかい、リーヌ。絶対に、ぜーたいに、オレ達のことは誰にも、ダ・レ・ニ・モ言っちゃいけないからね」
セリーヌは少し驚いたように頷く。
「誰かに知られたら、オレ達は二度と会えなくなってしまうからね」
「そんなのヤダ」
セリーヌが大きな目を潤ませる。
フッ・・可愛いヤツ・・。
「そうなったら嫌だろう?」
その場はうまく丸め込んだグレアムだが、今後起こりうる事態にどう対処するかぐるぐると思いを巡らせるのだった。
3
お気に入りに追加
207
あなたにおすすめの小説
姉の持ち物を無断で使い続けている妹とそれを許可して好きにさせていると勘違いしていた子息と婚約破棄したことで、厄介払いすることができました
珠宮さくら
恋愛
アザレアは、何かと妹に自分の持ち物を無断で使用されていたが、婚約者はアザレアが許可していると思っていて……。
※全2話。
【完結】虐げられた令嬢の復讐劇 〜聖女より格上の妖精の愛し子で竜王様の番は私です~
大福金
ファンタジー
10歳の時、床掃除をしている時に水で足を滑らせ前世の記憶を思い出した。侯爵家令嬢ルチア
8さいの時、急に現れた義母に義姉。
あれやこれやと気がついたら部屋は義姉に取られ屋根裏に。
侯爵家の娘なのに、使用人扱い。
お母様が生きていた時に大事にしてくれた。使用人たちは皆、義母が辞めさせた。
義母が連れてきた使用人達は私を義母と一緒になってこき使い私を馬鹿にする……
このままじゃ先の人生詰んでる。
私には
前世では25歳まで生きてた記憶がある!
義母や義姉!これからは思い通りにさせないんだから!
義母達にスカッとざまぁしたり
冒険の旅に出たり
主人公が妖精の愛し子だったり。
竜王の番だったり。
色々な無自覚チート能力発揮します。
竜王様との溺愛は後半第二章からになります。
※完結まで執筆済みです。(*´꒳`*)10万字程度。
※後半イチャイチャ多めです♡
※R18描写♡が入るシーンはタイトルに★マークをいれています。
悪役令嬢の私は死にました
つくも茄子
ファンタジー
公爵家の娘である私は死にました。
何故か休学中で婚約者が浮気をし、「真実の愛」と宣い、浮気相手の男爵令嬢を私が虐めたと馬鹿げた事の言い放ち、学園祭の真っ最中に婚約破棄を発表したそうです。残念ながら私はその時、ちょうど息を引き取ったのですけれど……。その後の展開?さぁ、亡くなった私は知りません。
世間では悲劇の令嬢として死んだ公爵令嬢は「大聖女フラン」として数百年を生きる。
長生きの先輩、ゴールド枢機卿との出会い。
公爵令嬢だった頃の友人との再会。
いつの間にか家族は国を立ち上げ、公爵一家から国王一家へ。
可愛い姪っ子が私の二の舞になった挙句に同じように聖女の道を歩み始めるし、姪っ子は王女なのに聖女でいいの?と思っていたら次々と厄介事が……。
海千山千の枢機卿団に勇者召喚。
第二の人生も波瀾万丈に包まれていた。
【完結】側妃になったと思ったら女王に即位しちゃった!
つくも茄子
ファンタジー
ヴィリア王国の侯爵令嬢、ディアナ・エミール・フロレンスは「側妃」として王城に入った新参者。不出来な王妃に成り代わって公務をするための存在。右も左も分からない王城では噂通りの国王夫妻の行動に目が白黒……することもなく「ああ、やっぱりね」と達観していた。瑕疵一つない完璧な令嬢を大勢の前で罵倒して婚約破棄を宣言した現国王と恥知らずにもその座に座っている何も出来ない現王妃。既に王家の権威など地に堕ちているというのに気づかない国王夫妻。国王も何故王妃を「愛妾」にしておかなかったのかとディアナは首をひねる。王家で唯一の跡継ぎだから?バカバカしい。王位継承権を有する者は百人以上いますよ?そういう私も王位継承権18位です!前国王の溺愛と庇護の元で好き勝手してきた現国王には理解出来ないでしょうが貴方の時代は終わりました。その座を明け渡してください。愚かな国王夫妻を辺境の地に幽閉してめでたしめでたし……でも何故私が女王なの?
他サイトにも公開中。
【改編中】悪女と罵られたので退場させていただきます!
つくも茄子
恋愛
ブランシュ・クリスティーネ・ヴァレリー公爵令嬢は婚約者の王太子に訴えられ裁判にかけられる。明らかに冤罪と分かる内容。にも拘わらず「有罪」の判決を受け、国外追放になってしまった。何故、王太子はこのような暴挙にでたのか?王太子の横にいる男爵令嬢は彼の子供を身籠っているらしい。国王とヴァレリー公爵の不在中に起こった出来事は国そのものを暗雲をもたらす。
祖国崩壊。
そして帝国貴族としての始まり。
それは彼女にとって良かったのか悪かったのか。様々な思惑の中をブランシュは生きていく。帝国貴族として、公爵家の跡取りとして。皇太子の後宮入りをしたブランシュだったが、その背景は何やらきな臭い予感が・・・。
11月25日より改編いたします。
私がいなくなった部屋を見て、あなた様はその心に何を思われるのでしょうね…?
新野乃花(大舟)
恋愛
貴族であるファーラ伯爵との婚約を結んでいたセイラ。しかし伯爵はセイラの事をほったらかしにして、幼馴染であるレリアの方にばかり愛情をかけていた。それは溺愛と呼んでもいいほどのもので、そんな行動の果てにファーラ伯爵は婚約破棄まで持ち出してしまう。しかしそれと時を同じくして、セイラはその姿を伯爵の前からこつぜんと消してしまう。弱気なセイラが自分に逆らう事など絶対に無いと思い上がっていた伯爵は、誰もいなくなってしまったセイラの部屋を見て…。
※カクヨム、小説家になろうにも投稿しています!
【完結】婚約破棄される前に私は毒を呷って死にます!当然でしょう?私は王太子妃になるはずだったんですから。どの道、只ではすみません。
つくも茄子
恋愛
フリッツ王太子の婚約者が毒を呷った。
彼女は筆頭公爵家のアレクサンドラ・ウジェーヌ・ヘッセン。
なぜ、彼女は毒を自ら飲み干したのか?
それは婚約者のフリッツ王太子からの婚約破棄が原因であった。
恋人の男爵令嬢を正妃にするためにアレクサンドラを罠に嵌めようとしたのだ。
その中の一人は、アレクサンドラの実弟もいた。
更に宰相の息子と近衛騎士団長の嫡男も、王太子と男爵令嬢の味方であった。
婚約者として王家の全てを知るアレクサンドラは、このまま婚約破棄が成立されればどうなるのかを知っていた。そして自分がどういう立場なのかも痛いほど理解していたのだ。
生死の境から生還したアレクサンドラが目を覚ました時には、全てが様変わりしていた。国の将来のため、必要な処置であった。
婚約破棄を宣言した王太子達のその後は、彼らが思い描いていたバラ色の人生ではなかった。
後悔、悲しみ、憎悪、果てしない負の連鎖の果てに、彼らが手にしたものとは。
「小説家になろう」「カクヨム」「ノベルバ」にも投稿しています。
砂の積み木
cyaru
恋愛
ランベル王国の東の端にマーベルという小さな漁師町がある。
セーラと呼ばれる女性とその子供ダリウスは貧しいながらも倹しく暮らしていた。
そこにウィルバート・ボルビアがやって来て日常が変わった。
セーラの本当の名はセレニティ。
ウィルバートとセレニティは5年前まで夫婦だった。
★~★
騎士であるウィルバートは任務を終えて戻った時、そこにセレニティの姿はなかった。残されていたのは離縁状。
狂ったようにセレニティを探した。探さねばならない事情がウィルバートにはあった。
※1~3話目、23話目~が今。4~22話は今につながる過去です。
★↑例の如く恐ろしく、それはもう省略しまくってます。
★9月5日投稿開始、完結は9月8日です。
★コメントの返信は遅いです。
★タグが勝手すぎる!と思う方。ごめんなさい。検索してもヒットしないよう工夫してます。
♡注意事項~この話を読む前に~♡
※異世界を舞台にした創作話です。時代設定なし、史実に基づいた話ではありません。【妄想史であり世界史ではない】事をご理解ください。登場人物、場所全て架空です。
※外道な作者の妄想で作られたガチなフィクションの上、ご都合主義なのでリアルな世界の常識と混同されないようお願いします。
※心拍数や血圧の上昇、高血糖、アドレナリンの過剰分泌に責任はおえません。
※価値観や言葉使いなど現実世界とは異なります(似てるモノ、同じものもあります)
※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。
※話の基幹、伏線に関わる文言についてのご指摘は申し訳ないですが受けられません
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる