嘘つき女とクズ男

猫枕

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 グレアムがセリーヌと出会ったのは父と出席した社交パーティーであった。

  父の後をついて挨拶に回ったが、若者の参加は少なく、軽く会話を楽しめるような目ぼしい女性もいなかった。
 
 オッサン達相手に愛想良く適当に話を合わせて頷いているのも苦痛で、グラスを片手にベランダに出てきた時のことだった。

 庭に続く石段に人影が見えた。

 こんなところで何をしているのかと気になって近づいてみると、自分と同じ年頃くらいの女の子が腰かけて花をむしっていた。

「なにしてるの?」

 グレアムの問いかけに振り向いた少女は妖精のように可憐な容姿をしていた。

華奢な体にフワフワと緩いウェーブのかかったピンクブロンドの髪。

 大きな潤んだタレ目は薄い水色。


『今日の獲物、見~っけ』

 グレアムは思わぬ収穫に気を良くした。

 地べたに座っているような子だもの、大した家柄の娘じゃないだろう。

 見た目も可愛いし、ちょっと遊ぶのにはお誂あつらえ向き。

 少女はグレアムを一目見ると、頬を赤らめ瞳に熱を帯びた。

『ああ、こんな目で。
 カトリーヌがオレを見つめてくれたらいいのに・・』


「パーティーって、王子様とダンスができると思ってついてきたのに、なんだかつまんないのね」

「ここに王子様は来ないよ」

「でも貴方、王子様みたいに素敵よ」

グレアムはフフッと笑った。
思った通り馬鹿そうだ。

「ダンスが踊りたかったの?」

「うん。でもあんまり上手くは踊れないの。まだ練習してるところだから」

「私が教えて差し上げましょうか?
 お嬢さん」

グレアムが差し出した手を少女が取った。


 そして二人は音楽も無い中で抱き合ってゆらゆらと揺れた。

 「君、名前なんていうの?」

「セリーヌ。王子様は?」

「王子じゃないよ。グレアムだよ」

 セリーヌの柔らかい体を抱きしめているとグレアムの心は凪いだ。

 セリーヌの名前がカトリーヌと語感が似ているのも気に入った。

 そっと目を閉じてカトリーヌを思った。

 カトリーヌも抱きしめたら こんな甘い香りがするだろうか。

 
 セリーヌはグレアムに回す手をきつくして、しがみついてきた。

 二人は夢中でキスをした。

フワフワとした夢の中に漂っているようだった。

 

グレアムを探す父の声が聞こえる。

「もう行かなきゃ」

「もうこれっきり会えないの?」

 潤んだ瞳で見上げられると胸の奥の方をキュッと掴まれたような感じがした。

 思いがけずセリーヌに癒されている自分がいた。


 絹のシーツの肌心地を惜しむように、このまま会えなくなるのが残念に思えた。

 
 二人はグレアムが教えた秘密の連絡方法を使って外で会うようになった。


 こっちを見ようともしないカトリーヌを思うよりもセリーヌの温もりを感じていた方が楽だった。

  頭の片隅では決してカトリーヌへの渇きがセリーヌで潤されることはないとわかっていたのに。

 グレアムはカトリーヌを思いながらセリーヌを 『リーヌ』と呼んだ。

「オレだけの特別な呼び方だよ」

 耳元で甘く囁くと、セリーヌは頬を赤らめて嬉しそうに微笑んだ。


 





  
 



 

 

 
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