糠味噌の唄

猫枕

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「事件当時の『翡翠堂』主人、島崎 貫太郎さんの曾孫さんが和志さんなんだけどね。
 和志さんが生まれた時には既に貫太郎さんは離れで日がな一日ぼおっとして暮らしていたそうなんだ。
 家人はそんな貫太郎さんが疎ましかったのか、あんまり相手にしなかったんだって。
 それで和志さんだけが離れに様子を見に行ってたらしいんだけど、時折正気に戻ったように話をすることがあったんだって」

 町子はフンフンと頷く。

 パフェが溶けてしまいそうで気が気ではない。

「『お宝』はメノラーだったんですか?」

「和志さんはそれについては聞いていないって。
 ただ、後に蔵の中で昔の帳簿とか業務日誌とか貫太郎さんの日記なんかを見つけて、当時貫太郎さんが度々西洋人を相手に商売をしていたことが分かったそうなんだ」

 「西洋人って・・・ザックリ・・」

「俺たちだって、つい最近まで白人は全員アメリカ人って思ってたじゃん!」

「一緒にしないで!ジェネレーションがディファレントよ」

 ハハハと笑う二人。

「先生、パフェ溶けちゃう!」

 あー、と言って武藤が長いスプーンをカチャカチャ動かす。

「スミマセン。私、意地汚いせいか料理が冷めちゃう、とか、そういうのが気になっちゃって、『ホラ食べろ』『ソラ食べろ』って周りを急かして嫌がられるんです」

「世話焼きなんだな」

「友達何人かでお菓子を囲んでお喋りしてる時に、ポッキーを一本持ったまま、ずーっと『そうそう、それで』って指示棒みたいにしてる子がいると、『そのポッキーいつ食べるんだろう』とか気になっちゃうんです。
 他の子がドンドンお菓子食べちゃって無くなっちゃうよ~って」

「長女だな~」

「あんまり言われたくない」

「俺は三男」

「そんな感じします。
 あるいは末っ子の長男」

「悪口を言われている気がするのはナゼだろう?」

「気のせいですよ」

 二人は黙々とパフェを片付ける。

「えっと、何の話でしたっけ?」

「えっと貫太郎さんが西洋人相手に『お宝』を売り付けようとしていたってことが日記に書かれてたこと」

「普通、陶磁器とか浮世絵とか、より日本的な物を欲しがるんじゃないのかなぁ?
 外人さんなら」

「俺もそう思うけど、和志さんの『突然、大きな化け物が手首をなたで切り落としに来る!って叫び出すんですよ。よっぽど怖い目にあったんでしょうね』って言葉を聞くとね」

「・・・手首・・間違いなさそうですね」

「麻薬の幻覚で周囲の色が鮮やかに見えたり物が巨大化して見えることがあるらしいよね」

「大麻を使ったんでしょうか?」

「今になっては全て憶測に過ぎないけどね」

 武藤はワクワクしているように見えた。

 彼にとっては昔のミステリアスな不気味な事件に過ぎないのだろうが、町子にとっては複雑だ。

「『お宝』がメノラーだったとしてですよ。
 殺してまで取り返すって・・・。
 だいたい『汝、殺すなかれ』とかじゃないんですか?思いっきり教えに背いてるじゃないですか」

「まあ、もはや自分たちの神様が何だったかなんて分からなくなってたんじゃ?
 何だか分かんないけど守ってたって感じじゃないの?
 組織って当初の目的とか忘れ去られて変容しがちじゃない。
 特に指導者が長年に渡って不在な宗教集団なんてさ、教義とか全く分かんなくなってて、守ることだけが目的みたいになっちゃったりさ」

 「・・・そうかも知れませんね」

 町子は何を聞いても

『昔からそう決まってる』

 としか返ってこない大人達の顔を思い浮かべていた。

「まあ、寛太郎さんがどこから『お宝』の情報を聞きつけたのか?とか、K村の若者達の方から貫太郎さんに接触してきたのか?とか、それは西洋人が大金をはたいてまで欲しがるほどの価値があったのか?とか、分からないことは多いんだけどね」

 当事者が一人も残っていない今となっては真実を知る由も無い。

 
 








 
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