糠味噌の唄

猫枕

文字の大きさ
上 下
12 / 35

12

しおりを挟む

 ※公序良俗に反する表現アリです。
 ご注意ください。

 尚、まったくのフィクションです。




 武藤と別れて帰宅した町子は夜遅くなっても友香子が帰って来ないので心配になった。
 
『終電の時間とか分かっているのかな?』

 もしかしたら友達と盛り上がって今夜は帰らないのかも知れない。

 電話が無いとつくづく不便だな、と思う。

 とりあえず駅まで迎えに行こう、と静まり返った住宅街を歩いていると、向こうから楽しそうにはしゃぎながら歩いてくる人影が見えた。

 友香子とその友達だ。

 「・・・・・」


「あっ!町子ちゃんだ~!」

 友香子はへらへらしている。

 少し酔っているようだ。

『二人でいるってことはそういうことよね』

 二人は当然のように町子のアパートまで一緒に歩いて、町子が鍵を開けると


「おじゃましま~す」

 と入ってきた。

 「町子ちゃんコップ、コップ!」

 友香子は駅前のコンビニで買ってきた、とレジ袋を掲げて見せる。

 まさか今から帰れというわけにもいかないだろう、と町子はモヤモヤしながら仕方なく折り畳みのテーブルを出してコップを並べる。

友香子はポテトチップスやらポッキーやらを並べてカラフルな缶を置いた。

「ちょっとそれお酒でしょ?!」

 友香子たちはヘラヘラしながら構わずプシューっとやっている。(※当時は未成年の飲酒・喫煙に対する罪の意識が今より格段に低かった。現在は絶対ダメです)

 町子にも勧めてきたが、頑なに断っているとウーロン茶の町子を置いてきぼりにして盛り上がり始めた。

 一人で寝るわけにもいかないので渋々付き合っていた町子だったが、それでも同い年の女の子との久々のお喋りは楽しかった。
 
 魔子まこと名乗った友香子の友達(たぶん本名じゃないんだろう)の話はどこまで本当か分からないような眉唾(友達が大学の授業料で中期国債ファンドの半年利回りを買って儲けた、とか、先輩が婚約者と行ったニューヨーク旅行で行方不明になったとか、そんな話)なものだったが、聞いている分には面白かった。

 そしていつの間に眠ってしまったのか気がつくと日曜の昼になっていて、二人は今日は新宿でライブがあると出ていった。

 また二人で押し掛けてくるのかと恐れていた町子だったが、 戻って来たのは友香子一人だった。

 友香子はまた町子が止めるのも聞かずに買ってきた缶チューハイを開けて、

「こんなのジュースみたいなもんよ」

 と粋がっている。

 本当の友達なら止めるべきた。

 それはわかっている。

 だけど、もしかしたら。

 友香子は私が知りたいことを何か知っているかもしれない。

 私が勧めて飲ませた訳ではない。

 嫌がる友香子から無理矢理聞き出すわけでもない。

 ただ、飲酒によって調子良く口が軽くなった友香子にちょっと聞いてみるだけなら問題無いんじゃないだろうか?

 友香子も何も知らないのならそれでいいんだし・・・。

  友香子が合コンでいかにモテたか、という自慢を始めた頃合いを見計らって町子はとぼけた声で言った。

「しかしさあ、ウチは黒田。友香子は黒崎でしょ?タカシの家は黒野だし、あと黒石とか黒木もいるよね?なんでK地区って黒の付く名字ばっかりなのかなー?」

 町子はドキドキしていた。
 
 要らぬ詮索をすると命を狙われるかも知れない。

 「え~?知らないの?町子ちゃん」

 友香子はヘラヘラ笑って言った。

 顔が赤い。

「黒はクロスの黒だよ」

「クロス?」

「K地区の人は~死ぬと埋葬する前に棺を十字路の真ん中に置いて、最後のお祈りするじゃない。今は火葬になっちゃったからそのあと火葬場だけどね~ヘラヘラ」

 友香子は拍子抜けするほど あっさりと答えた。

「・・・カクレだったりする?」

「う~ん。大昔はそうだったんじゃない?」

「大昔ってことは途中から違うの?」

「う~ん。私も良くはしらないけど元々二種類いて、それが交わってクロスって聞いたけどハハハ」

 「二種類って?」

「ハハハ・・・迫害から逃げてきた改宗ユダヤ人商人とその人達が雇った日本人奴隷が先祖なんでしょ?だから、改宗してカトリックになった人と、形だけカトリックになったけど心ではユダヤ教を信じていた人たちの信仰がごっちゃ混ぜになって、そのあと禁教とかあって、何百年も自分たちだけで信仰してるうちに土着の宗教と混ぜこぜになって、何がなんだか分からなくなった、てのが真相なんじゃない?ヘヘヘ・・・って、私、こんなこと喋って大丈夫かな~?ハハハ」

「・・・大丈夫かな~?って、なんか危険なことでもあるの?」

「血の掟!」

 友香子は真面目な顔をしてそう言ってからハハハと笑った。

「冗談だよ、町子ちゃん~」

 友香子はグビグビとピーチツリーフィズを飲んだ。

「今はそんなの無いよ。人数も減っちゃってさ~K地区の住民の中でも自分達は普通の仏教徒だと思ってる人が多いんじゃない?
 ウチと、町子ちゃんの家と、水片?実働部隊で残ってんのその三軒くらいじゃない?」

「・・・実働部隊?・・・って何?」

 「裏切り者は~」

 そう言って友香子は指で首をはねるジェスチャーをした。

 恐怖に怯える町子を前にして遠慮なく笑った友香子は、そんなの今はあり得ないよ~と町子の肩をバンバン叩いた。

「でもさ、K地区の出身ってだけで変な目で見てくる人もいるんだよね~。
 だから私は東京で暮らすの。
 あんなヘンテコな村とはオサラバすんのさ」

 友香子はもう一本缶チューハイを空けると倒れ込むように眠ってしまった。

 呑気な顔で眠る友香子の顔を見ながら、

『あ、お宝のこと聞くの忘れた』 
   
 と町子は思った。

 



 





    
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

意味がわかると怖い話ファイル01

永遠の2組
ホラー
意味怖を更新します。 意味怖の意味も考えて感想に書いてみてね。

自分が体験した怖かった話·····信じるか信じないかはあなた次第です。

三園 七詩
ホラー
実際に体験しました話や聞いた話を元に少し脚色して書いています。 信じるか信じないかはあなたの自由です!

意味が分かると怖い話(自作)

雅内
ホラー
2ch大好きの根暗なわたくしが、下手の横好きで書き連ねていくだけの”意味が分かると怖い話”でございます。 コピペではなくオリジナルとなりますので、あまり難しくなく且つ、不快な内容になるかもしれませんが、何卒ご了承くださいませ。 追記:感想ありがとうございます。 追加で順次解説を記述していきたいと思います。解釈の一つとしてお読みいただけますと幸いです。

すべて実話

さつきのいろどり
ホラー
タイトル通り全て実話のホラー体験です。 友人から聞いたものや著者本人の実体験を書かせていただきます。 長編として登録していますが、短編をいつくか載せていこうと思っていますので、追加配信しましたら覗きに来て下さいね^^*

【完結】ああ……ようやくお前の気持ちがわかったよ!

月白ヤトヒコ
ホラー
会社の同僚と不倫をしていた彼女は、彼の奥さんが酷い人なのだと聞いていた。 なので、彼女は彼と自分の幸せのため、『彼と別れてほしい』と、彼の奥さんへ直談判することにした。 彼の家に向かった彼女は、どこか窶れた様子の奥さんから……地獄を見聞きすることになった。 這う這うのていで彼の家から逃げ出した彼女は、翌朝―――― 介護士だった彼女は、施設利用者の甥を紹介され、その人と結婚をした。 その途端、彼に「いつ仕事を辞めるの?」と聞かれた。彼女は仕事を辞めたくはなかったが…… 「女は結婚したら家庭に入るものだろう? それとも、俺の稼ぎに不満があるの? 俺は君よりも稼いでいるつもりだけど」と、返され、仕事を辞めさせられて家庭に入ることになった。 それが、地獄の始まりだった。 ⚠地雷注意⚠ ※モラハラ・DV・クズ男が出て来ます。 ※妊娠・流産など、センシティブな内容が含まれます。 ※少しでも駄目だと思ったら、自衛してください。

夜通しアンアン

戸影絵麻
ホラー
ある日、僕の前に忽然と姿を現した謎の美少女、アンアン。魔界から家出してきた王女と名乗るその少女は、強引に僕の家に住みついてしまう。アンアンを我が物にせんと、次から次へと現れる悪魔たちに、町は大混乱。僕は、ご先祖様から授かったなけなしの”超能力”で、アンアンとともに魔界の貴族たちからの侵略に立ち向かうのだったが…。

本当にあった怖い話

邪神 白猫
ホラー
リスナーさんや読者の方から聞いた体験談【本当にあった怖い話】を基にして書いたオムニバスになります。 完結としますが、体験談が追加され次第更新します。 LINEオプチャにて、体験談募集中✨ あなたの体験談、投稿してみませんか? 投稿された体験談は、YouTubeにて朗読させて頂く場合があります。 【邪神白猫】で検索してみてね🐱 ↓YouTubeにて、朗読中(コピペで飛んでください) https://youtube.com/@yuachanRio ※登場する施設名や人物名などは全て架空です。

処理中です...