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二章 伝説の都市
5話 ジャンタール
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門の中は霧に覆われていた。
突き出した剣の先すらぼやけるほどの深い霧。
「エ~ン、エンエン」
子供の泣き声が聞こえた。
それは近くもあり、遠くもあるような不思議な声。
声のしたほうへと歩いてみる。しかし、進めど進めど人影すらない。
不意に背後で声がした。
「クスクス」と笑う少女の声。振り返るも誰もいない。
足元に何かが転がってきた。警戒しつつ拾い上げる。丸い玉だ。
革で出来た直径二十センチメートル程の遊戯用の玉。
さらに進む。方位磁石を確認してみるも、針はグルグルと回転しており役に立ちそうにない。
自分の勘を頼りに真っ直ぐ進む。
どれ程歩いただろうか、とつじょ霧は晴れ、左右にそびえる大きな壁に気づく。
後ろに目を向ける。左右どうよう高くそびえる壁があった。今まで歩いて来た道など跡形もない。
退路は閉ざされたという事か。
壁の高さは二十メートルはくだらない。ツルリとした壁面で継ぎ目すらなく、よじ登るのは不可能に近い。仮に登ったとしても……
ロバの背に積んだ荷物の中からオレンジを一個取り出すと、空に向かって放り投げる。
ぐんぐん空へ登っていくオレンジ。壁を越えるような軌道を描く。
そうして壁を超えるかと思われた瞬間、オレンジは透明な何かに当たり跳ね返った。
やはり壁を越えての脱出は無理か。
まあ焦らずともよい。何らかの方法はあろう。ムーンクリスタルを持ち帰ったバラルド皇帝はもとより、手紙を外へと流したアシューテもいるのだ。
意識を切り替え、歩きだす。
踏みしめる地面は、巨大な石畳を組み合わせて作られており、継ぎ目からは雑草がまばらに伸びていた。
手入れする者などいないのであろう。さびれた印象をうける。
やがて前方、通路のすみに何かが見えた。――人か?
近づくにつれハッキリしてくる。それはボロボロに擦り切れた衣装を身に纏い、横たわる骸骨であった。
大きさや服装からして子供、それも少女のもののようだが……
ここで気付いた。おのれの手に持っていた丸い玉が、いつの間にか人の頭蓋骨になっているのを。
見れば目の前の横たわる骸骨の頭部は無い。
もしや、この頭蓋骨は彼女のものだろうか。
わたしはひざまずき、骸のかたわらに頭蓋骨を置いてやる。
もはや必要ないであろうが、ないよりあった方がよいだろう。
「ありがとう」
ふと、耳元で少女のささやきが聞こえた気がした。
振り返っても誰もおらず、ただ吹き抜ける風が地面の砂をまきあげていた。
私は立ち上がり、彼女を一瞥すると、その場を離れようとした。
そのとき、わずかな違和感を覚える。
……何だ? 何かがおかしい。さきほどと何かが違う。
――そうだ頭蓋骨だ、骸のかたわらに置いたはずの頭蓋骨が無くなっている。
そして首なしだったはずの骸の頭には、いつの間にか頭蓋骨が収まっていた。
誰かが乗せた? しかし、ここにはわたし以外誰も……
そのとき、カタカタと音を立てて骸が動き出した。
両手を広げてつかみかかってくる。
なるほど。ジャンタールでは死者すら動きだすのか。
だが、悪いな。感謝の抱擁ならば遠慮させてもらう。
私は素早く剣を抜き放つと、両足を切り飛ばした。
足を失い崩れ落ちる骸。
ズズ、ズズ、ズズ。
両手で這ってなおも近づいて来る。
ちゃんと死んどけ。
今度は頭部目がけて剣を突き下ろすと、頭蓋骨は木っ端みじんに砕け散った。
「おのれ、もう少しで……口惜しや」
また耳元で声がした。だがその声を最後にして、声が聞こえることも骸が動き出すことも二度となかった。
コロリ。
割れた頭蓋骨の中から、青く光る宝石が出て来た。
何であろうか分からないが、手間賃としてもらっていくことにした。
しばらく歩いていくと十字路に出た。相変わらず人の気配が感じられない。
シャナ達はどちらへ向かったであろうか? 地面を注意深く観察してみる。
足跡があった。それも複数。
ただ、シャナ達の足跡ではなさそうだ。
あまりに数が多いのだ。
この都市の住人のものだろうか? 死者の行列でないことを祈るばかりだ。
多少の不安はあれど、とりあえず足跡の続く右へと向かうことにした。
通路を歩く私には気がかりなことがあった。時間だ。ここに入ってからずいぶんと経っている。
だが、空を見上げるといまだ星が見える。
門をくぐったのは夜明け前、すでに夜が明けてもおかしくない。だが、いっこうに太陽が昇ってくる気配がない。
さらには目に映る景色。通路の曲がり角が見えている。
見えすぎているのだ。
星の光だけにしては明るすぎる。
星の光を反射しているのか、それとも壁自体が光を放っているのか。通路がぼんやりと青白く輝き、探索に支障のない程度の明かりを確保出来ている。
まあ、奇妙ではあるが助かることには変わりない。ひとまず解明はあとにし、探索を優先させることとした。
しばらく進むとさらに十字路に出た。いずれの通路も高い壁が先へと続いている。ここは本当に街の中なのだろうか? まるで迷宮に迷い込んでしまったのかのような感覚に陥る。
地図を作るべきなのかも知れない。今はとりあえず迷わぬよう、再び右の道を選択する。
やがて道は左へ曲がって、ふたまたに分れていた。
真っ直ぐ進む道と左へ曲がる道だ。
そして真っ直ぐ進む道の先に、何かがある。
塔だ。おそらく街の外から見えていた、高い塔であろう。
私は塔目指して歩いていった。
高くそびえ立つ塔を見上げる。
光を反射しない漆黒の壁がはるか上空へと伸びている。
不思議な光景だ。青白く光る壁と違い漆黒の塔は、周囲の闇に溶け空間にポッカリと穴があいているようにみえる。
入り口を探し、一回りする。しかし、それらしい物は発見できなかった。
仕方がない。塔に入る手立ては後ほど考えるとしよう。
先ほどの分かれ道まで戻って左へ曲がる道を歩き始めた。
壁に沿って進んでいくと奇妙な突起物を見つけた。
腰よりほんの少し高い位置にあり、細い棒の先端に握り拳ほどの球体がつく。
ドアノブ?
材質は分からないが、まさにドアノブと呼べるものがついており、囲むように扉と思しき長方形の継ぎ目もあった。
さらには目の高さのあたり、金属の板が張りついていた。
『PUB』
板にはそう描かれている。
何だろう、これは文字だろうか? 見た事がない文字だ。古代文字かも知れない。
アシューテなら分かったかもしれないが……。
突き出した剣の先すらぼやけるほどの深い霧。
「エ~ン、エンエン」
子供の泣き声が聞こえた。
それは近くもあり、遠くもあるような不思議な声。
声のしたほうへと歩いてみる。しかし、進めど進めど人影すらない。
不意に背後で声がした。
「クスクス」と笑う少女の声。振り返るも誰もいない。
足元に何かが転がってきた。警戒しつつ拾い上げる。丸い玉だ。
革で出来た直径二十センチメートル程の遊戯用の玉。
さらに進む。方位磁石を確認してみるも、針はグルグルと回転しており役に立ちそうにない。
自分の勘を頼りに真っ直ぐ進む。
どれ程歩いただろうか、とつじょ霧は晴れ、左右にそびえる大きな壁に気づく。
後ろに目を向ける。左右どうよう高くそびえる壁があった。今まで歩いて来た道など跡形もない。
退路は閉ざされたという事か。
壁の高さは二十メートルはくだらない。ツルリとした壁面で継ぎ目すらなく、よじ登るのは不可能に近い。仮に登ったとしても……
ロバの背に積んだ荷物の中からオレンジを一個取り出すと、空に向かって放り投げる。
ぐんぐん空へ登っていくオレンジ。壁を越えるような軌道を描く。
そうして壁を超えるかと思われた瞬間、オレンジは透明な何かに当たり跳ね返った。
やはり壁を越えての脱出は無理か。
まあ焦らずともよい。何らかの方法はあろう。ムーンクリスタルを持ち帰ったバラルド皇帝はもとより、手紙を外へと流したアシューテもいるのだ。
意識を切り替え、歩きだす。
踏みしめる地面は、巨大な石畳を組み合わせて作られており、継ぎ目からは雑草がまばらに伸びていた。
手入れする者などいないのであろう。さびれた印象をうける。
やがて前方、通路のすみに何かが見えた。――人か?
近づくにつれハッキリしてくる。それはボロボロに擦り切れた衣装を身に纏い、横たわる骸骨であった。
大きさや服装からして子供、それも少女のもののようだが……
ここで気付いた。おのれの手に持っていた丸い玉が、いつの間にか人の頭蓋骨になっているのを。
見れば目の前の横たわる骸骨の頭部は無い。
もしや、この頭蓋骨は彼女のものだろうか。
わたしはひざまずき、骸のかたわらに頭蓋骨を置いてやる。
もはや必要ないであろうが、ないよりあった方がよいだろう。
「ありがとう」
ふと、耳元で少女のささやきが聞こえた気がした。
振り返っても誰もおらず、ただ吹き抜ける風が地面の砂をまきあげていた。
私は立ち上がり、彼女を一瞥すると、その場を離れようとした。
そのとき、わずかな違和感を覚える。
……何だ? 何かがおかしい。さきほどと何かが違う。
――そうだ頭蓋骨だ、骸のかたわらに置いたはずの頭蓋骨が無くなっている。
そして首なしだったはずの骸の頭には、いつの間にか頭蓋骨が収まっていた。
誰かが乗せた? しかし、ここにはわたし以外誰も……
そのとき、カタカタと音を立てて骸が動き出した。
両手を広げてつかみかかってくる。
なるほど。ジャンタールでは死者すら動きだすのか。
だが、悪いな。感謝の抱擁ならば遠慮させてもらう。
私は素早く剣を抜き放つと、両足を切り飛ばした。
足を失い崩れ落ちる骸。
ズズ、ズズ、ズズ。
両手で這ってなおも近づいて来る。
ちゃんと死んどけ。
今度は頭部目がけて剣を突き下ろすと、頭蓋骨は木っ端みじんに砕け散った。
「おのれ、もう少しで……口惜しや」
また耳元で声がした。だがその声を最後にして、声が聞こえることも骸が動き出すことも二度となかった。
コロリ。
割れた頭蓋骨の中から、青く光る宝石が出て来た。
何であろうか分からないが、手間賃としてもらっていくことにした。
しばらく歩いていくと十字路に出た。相変わらず人の気配が感じられない。
シャナ達はどちらへ向かったであろうか? 地面を注意深く観察してみる。
足跡があった。それも複数。
ただ、シャナ達の足跡ではなさそうだ。
あまりに数が多いのだ。
この都市の住人のものだろうか? 死者の行列でないことを祈るばかりだ。
多少の不安はあれど、とりあえず足跡の続く右へと向かうことにした。
通路を歩く私には気がかりなことがあった。時間だ。ここに入ってからずいぶんと経っている。
だが、空を見上げるといまだ星が見える。
門をくぐったのは夜明け前、すでに夜が明けてもおかしくない。だが、いっこうに太陽が昇ってくる気配がない。
さらには目に映る景色。通路の曲がり角が見えている。
見えすぎているのだ。
星の光だけにしては明るすぎる。
星の光を反射しているのか、それとも壁自体が光を放っているのか。通路がぼんやりと青白く輝き、探索に支障のない程度の明かりを確保出来ている。
まあ、奇妙ではあるが助かることには変わりない。ひとまず解明はあとにし、探索を優先させることとした。
しばらく進むとさらに十字路に出た。いずれの通路も高い壁が先へと続いている。ここは本当に街の中なのだろうか? まるで迷宮に迷い込んでしまったのかのような感覚に陥る。
地図を作るべきなのかも知れない。今はとりあえず迷わぬよう、再び右の道を選択する。
やがて道は左へ曲がって、ふたまたに分れていた。
真っ直ぐ進む道と左へ曲がる道だ。
そして真っ直ぐ進む道の先に、何かがある。
塔だ。おそらく街の外から見えていた、高い塔であろう。
私は塔目指して歩いていった。
高くそびえ立つ塔を見上げる。
光を反射しない漆黒の壁がはるか上空へと伸びている。
不思議な光景だ。青白く光る壁と違い漆黒の塔は、周囲の闇に溶け空間にポッカリと穴があいているようにみえる。
入り口を探し、一回りする。しかし、それらしい物は発見できなかった。
仕方がない。塔に入る手立ては後ほど考えるとしよう。
先ほどの分かれ道まで戻って左へ曲がる道を歩き始めた。
壁に沿って進んでいくと奇妙な突起物を見つけた。
腰よりほんの少し高い位置にあり、細い棒の先端に握り拳ほどの球体がつく。
ドアノブ?
材質は分からないが、まさにドアノブと呼べるものがついており、囲むように扉と思しき長方形の継ぎ目もあった。
さらには目の高さのあたり、金属の板が張りついていた。
『PUB』
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