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悪役令嬢が魔法少女?と思ったら何故かコロシアムに転送されて魔法少女同士でロワイアル?
17.見知らぬ誰かは無様に散る
しおりを挟む開始のラッパの音と同時に走り出した二人は、迷わず近場の『?』を触れる。両者は直感的にこれが自身の身を守るために必要であると判断した。
互いが知る由もないが、彼女たちは自分たちに魔法の才能がない『種無し』であることをすでに認知している。
聖都出身の貴族でありながら、才能に恵まれなかった彼女たちは、魔術的な才能がなかった分、武術だけを愚直に鍛えてきた。
剣術、槍術、弓術、鞭術、騎乗と数あるものを習い修め、その中で、隆起した足場の中で、どの武装が優位に立てるかを明確に意識していた。
『?』の中に、目当ての武装があるのなら、――先に手に入れた者だけに勝機がある。
少し出遅れた形でレベッカも駆け出す。
彼女自身、『?』の意味合いを理解していなかったが、あれがなにか手助けになるということを直感で感じていた。
また、右手に装着している特殊篭手の性能を発揮するためには、周辺に程度のいいものがない以上、何かを探さなければいけない。
たどり着いた『?』の中に手を入れると、光と共に何かを象ろうとしていた。
手のひらに収まるつかみ心地といい取っ手に、円形状で底部があり、外側に傾斜している、浅めの金属製の物が、しっかりとレベッカの手に握られていた。
「――って、これフライパンじゃない!」
こんなんで命預けられるかっ、と地面に投げつける。思わぬタイムロスに、別の『?』を探そうと周囲を見渡した時に――空気を割く音が聞こえた。
「かっ、たっ――!?」
レベッカの近くで『?』を探していた一人の少女の首に、一本の矢が突き刺さっていた。
手には短剣が握られていたが、それを使うことなく、少女が前のめりで倒れ込む。
そして、2本目の矢が、――レベッカに向けて放たれた。
わずかにレベッカの頬を逸れた矢が通り過ぎる。
鼓膜を刺激する空気を走る音が木霊し、頬を割く痛みが時間差で訪れた。
「つっ――」
とっさの出来事に尻餅をつき、思わず頬を抑えた。抑えた手のひらを見ると、――真っ赤な液体がベッタリと付着している。
背筋が凍るほどの、死の予感がレベッカの身体を拘束した。
「ちっ、何で2本しか矢がないのよっ!」
遠くで憤る声がする。その主が――両手に金属製の突起のついたグローブをはめて、倒れ込んだ少女に接近していた。
「あっ――」
首に矢が刺さり、激痛の中動けない少女を蹴って仰向けにし、手に持っていた短剣を投げ捨て、馬乗りになったかと思うと――おもむろにその顔面を殴りつけた。
グローブに施された金属がナックルダスターの代わりとなり、打撃の威力を増大させ、それにより骨を砕く音が響く。
肉を潰す感触が手に残り、撒き散る血と、砕けていく頭蓋と、溢れ出る脳みそが、生々しい音を立てる。
血まみれになった右手が、――最後の一撃で少女の顔面を殴り潰した。
グチャリという聞き慣れない音がレベッカにまで届く。原型を留めないほどの殴打に、遠くでマグライトたち『華』の攻防に観客が歓声を上げる中、人知れず一人の命が散った。
――立て。立て。立て。立って、立って、動いて!
心の中でレベッカが叫ぶ。
覚悟が足りなかった。こうなることも十分予想できたはずなのに。
レベッカにとっての壁は、すでにドレスアップを可能としている魔法少女として開花している『華』の3人だけではない。
顔面を潰され、全身の筋肉がわずかに痙攣している亡骸も。
両手を血で濡らし、先程投げ捨てた短剣を拾い上げて、レベッカへと近付いてくる少女も。
このアリーナに立つレベッカ以外のすべてが、彼女にとっての壁であったはずなのに。超えるべき障害なはずなのに。
――彼女自身、覚悟が足りていない。
「お願い。あなたもここで死んで。そうしないと、ワタシ――」
近付いてくる少女は、わずかに涙を流しながら、けれど力強い足取りと、明確な殺意を持ってレベッカへと歩みを進める。
その表情は―――すでに人のそれではない。魔に取り憑かれた、ヒト以外の何か。
少女には、覚悟を超越した怨讐だけがその身体を駆動させるエネルギーとなっていた。
「くっ、来るなッ――!」
レベッカがとっさに腰に携えてた杖を取り出し、少女へ突き立てる。
『寄宿城』にて、マグライトの侍女となったレントが届けた魔法の杖を見て、
「また、マグライト様の! あんたが憎い! なんで、あんたなんかがマグライト様と親しげにしてたのよ! あの方はワタシ達がどうあがいても肩を並べてはいけないのに! その杖も! なんでメーガス家の紋章が付いているのッ!?」
少女が怒りの声を上げる。
レベッカに対して、空中庭園から妬みを持っていた。
マグライトに詰め寄る姿も、言い負かされる姿も、一緒に歩いている姿も。
レベッカの所作すべてが憎い。妬ましい。煩わしい。忌々しい。穢らわしい。
その全てが表情へと浮かび、レベッカの心を焦らせた。
――ふざけるな! ふざけるな! ふざけるな!
レベッカが再度心のなかで叫ぶ。
迫りくる死期に、焦りが杖を持つ彼女の腕を震わせる。額からはあふれるほどの汗を流れ、恐怖が頬の痛みを麻痺させる。
一歩ずつ近付いてくる死神が、短剣を持つ手が振り上げられた。
「動けっ! 動け私ッ! 死にたくないなら、――刃を立てろ!!」
レベッカが絶叫する。腰を抜かして動けない身体に鞭を打ち、迫りくる恐怖に抵抗し、杖を握る力がより一層強くなる。
その思いに――杖に装着された魔石が呼応する。
直後、向こう側で弾けた魔力と爆風が吹き荒れ、何かが飛んできた。
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