ラーメン憩い

ラーメン憩い 四日目後半

ぐつぐつぐつぐつ。スープが、煮立っている。真っ赤なスープだ。見ているだけで汗が。ラーメン憩いスペシャル。それは『激辛ラーメン』だ。スープはカイエンペッパーが加えられ、麺にはキャロライナリーパーが練り込まれているラーメンだ。雪と芽衣のスープはそこまで辛そうには見えないが、彼女のスープだけ煮立っており、燃えているように真っ赤だ。

「………………………………………」

圧倒されて言葉を失ってしまう。ぐつぐつぐつぐつぐつぐつ。すると、美嘉は髪の毛を一つに結え、雪は包帯を片方の目に回して多い隠し、芽衣は、髪の毛を耳に掛けて戦闘態勢に入る。

「はい。お待ち♪」

そして、美幸の前にも置かれた。あの数字は辛さを表す数字。これは確かに挑戦だ。

「はい頑張って！」

ナガレからの後押しに、ガールズバンドたちは割り箸を手にして割り、麺に喰らい付く。

「ああああああぁ！」

口に含まれたその一瞬で芽衣は悲鳴に近い声を上げ、雪はむせ込む。汗が噴き出る。美嘉は、悲鳴や声を上げる余裕が無く、唇と手が震えてだらだらと汗が。

「いただきます！」

美幸もやる気になったようで、割り箸を手にして割り、麺を啜る。

「ゲホッ！ゲホッ！あああぁ～」

辛い。なのに美味い。苦くない。食べられない訳じゃないこの辛さに体は悶えてしまうが、店主はそこを狙っているのかもしれない。だが、手も止まり、『辛さ』に恐怖を感じて震える程だが、進む。挑戦と言う名で売っているこの紅い激辛ラーメンに、挑む。女たちは挑む。これに確かに勝てたら一人前だ。ナガレは腕を組んで嬉しそうにニィッと笑っており、その隣で鈴はチラッと見る。

私なら無理ですね。

こんな辛いラーメン。

「すごいなぁ～。女同士の戦い」

「己に打ち勝って初めて見えるゴールってあるもんね？ふふふ」

顔に似合わず、純也からそんな言葉が出た。

「甲斐田お前。そんな事言うキャラだったっけ？」

「僕も挑戦したいなぁ。ねぇオーナー。これ完食したら鈴ちゃんちょうだい♪」

「その前にテメエの命かっ攫って行くぞボケ！」

「私。あなたのようなバイト大嫌いです！」

キッと睨み付け、夫婦揃って白目を剥いて怒りを向ける。

「あはは！僕嫌われてる～」

「夢は純也好きだよ～♡」

「ありがとう夢ちゃん」

カウンターの向こう側で何やってんだコイツら。そんな中、己に打ち勝つ為に麺を啜る。その時、芽衣はある事に気付いた。

「嫌だぁ～！焼豚が入ってる！」

気付かなかったが、スープの中に沈んでいた焼豚を引き上げた。

「！！！！！！！！！！！？」

美幸は、だらだらと顔から汗を流して見る。

焼豚！？

そう言えば。

トッピングが入ってないって思ってたけど。

沈ませてた何て！

「ナガレさんこの焼豚は？」

「デスソースに浸した焼豚。頑張って打ち勝て！」

この人は本当に楽しんでいる。この、ラーメン憩いで倒れたり、救急車沙汰になってない所がすごい。

「待って！」

美嘉は、笑ってしまう。

「３枚無い？」

「えっ！？３枚？」

雪は目を見張り、額の汗を拭う。

「気付いた！？３枚入ってるんだよ！」

気付いてくれたのが嬉しかったのか、子供のような笑顔で言う彼がもはや鬼にしか見えない。

「嬉しそうだなぁおい！」

つい、ツッコミを入れてしまう。

「最低だこの人」

雪もそれには、笑ってしまう。

「でも。そんなナガレ様も素敵♡」

彼女は、どんな時でもナガレに恋をしている。

「昔から年上がお好き何ですか？」

有名であり、人気なガールズバンドではあるが、もはや家族同然。ここに入って来る人は皆、ラーメン憩いの一員。その中に自分も含まれている。

「はい。幼稚園の頃に近所に住んでた２２歳の男性を好きになって、小学４年生の頃には３３歳の教員に惚れて。中学生１年生の頃に３８歳の教師が好きになって。それから１６歳になって、ナガレ様に出会って。もう、私のドタイプ何です！ナガレ様は♡」

年齢と共に恋する基準が上がって行った結果、今白鳥ナガレは彼女のドタイプの男のようだ。

「既婚者でも良いの？」

「既婚者でも良いの！私が好きだから！」

浮気するタイプの人だ。既婚者であろうと恋したら関係無いようだ。

「すごいですね？」

人それぞれ。ラーメン憩いの虜になる。この店は、そんな、昔から来ている人たちの休憩場のようだ。そんな中、美嘉な焼豚を３枚食べた。

「おぉ！ラズ焼豚完食！」

「えぇ！？」

その間に焼豚を食べたようだ。彼女は、呼吸が乱れている。口の中が麻痺している。焼豚が一番苦戦したかもしれない。

「よぉし！自分に勝って！今年は東京ドームでライブすんぞおおぉ！」

「おおおおぉ！」

芽衣と雪は続いて声を上げた。

「！」

か、カッコ良い！

ガールズバンドの底力を見せ付けられる。なら自分も負けてはいられない。焼豚に喰らい付く。

「あゔううううぅ！」

焼豚を噛んだ際に広がるデスソース。唇が腫れてる感じがし、耳の中が痛い。

「根性あるねぇ！良いよ良いよ！」

初めてのスペシャルで１８と言う辛さレベルで挑んでいる美幸は、確かに根性がある。ズルズルズルズル。ズルルルル。ズルズル。ズズッ。それぞれが挑戦して挑むラーメン憩いスペシャル激辛ラーメン。手を止める事はない。これに打ち勝つまでは。

「よぉし！」

美嘉は、ラーメンを完食した。後はスープだけだ。どんぶりを手にしてスープを飲む。止まったらそこで終わりだ。メンバーを引っ張るのは自分。己に打ち勝て！ドロールＮＡ⭐︎ＧＡＲｅ！

「ご馳走様でした」

達成感と、食べ終えた人しか味わえないゴール。彼女は、おしぼりで汗を拭く。

「おおおぉ～！」

「すごーい！」

「お見事です」

「さすがはドロールＮＡ⭐︎ＧＡＲｅの女リーダー！カッコ良い～」

「うええええぇ～！完食した～！すごい！今日も凄かったよドロール！」

拍手喝采。続いて次に完食したのは

「ご馳走様でした！」

雪だ。辛さ９は、美嘉に取って序の口かもしれないけど、それでも完食する事に意味がある。

「偉い！」

「カッコ良いぞ～！メヴィ！」

「さすがです」

「お疲れ様♪」

「メヴィも完食～！？これはすごい！もしかしたら挑戦者皆完食するんじゃ？」

芽衣と、美幸の手が止まっている。

「頑張れビガ！」

「食べ終えた人しか味わえないゴールと達成感を味わおう！」

仲間の声が、心に響く。

「後少しだ！頑張れ！」

「己に打ち勝って下さい！」

「達成しよう！」

「ファイト♪」

「頑張ってお客さん！完食するあなたは美しい！」

ラーメン憩いの家族からのエールを浴び、２人の手が動いてラーメンを啜る。人は、応援をされる事によって目標に辿り着く為に走る。全力で。その応援は無駄にしない。麺を完食し、どんぶりを手にしてスープを飲む。喉が焼ける程辛い。カイエンペッパーが加えられたスープを、素人が飲む。止まるな。心の中で言い続ける。スープを平らげて初めて己に打ち勝つんだから。全力でスープを飲み、ドン！と、どんぶりを置いたのは、美幸が先で、その後に芽衣がどんぶりを置いた。

「ご馳走様でした」

「ご馳走様でした」

仕事で何かに挑戦してやり遂げられた喜びよりも、ここでの激辛に挑んでやり遂げた方が達成感を感じ、完食しないと味わえないゴールを、味わう事が出来た。

「完食おめでと～！」

「皆さんおめでとうございます」

「すっご～い！皆完食した～！」

「女の子たちやるな～。すごい！」

「おめでとぉ～！すごいよ！見てて皆カッコ良かった！！」

その時、ガールズバンドとＯＬは、達成した喜びで笑顔になっていた。

「完食おめでとう！」

そして、ナガレから出されたのはコーンフレークが下に敷き詰められ、バニラアイスの上にチョコソースが掛かったパフェに近いデザートを無料で出してくれたのだ。

「美味しい！」

「沁みる！」

美幸と美嘉はそのデザートに救われて泣きながら食べており

「あぁ～。幸せ～♡」

「生き返る」

芽衣と雪も、このデザートで身がとろそうになる程甘える。

「ガールズバンドの皆さん！次ライブがあったら行きます！」

「是非！」

「お待ちしております」

「お互い完食出来て良かったね？絆が強まった♪」

この、激辛ラーメンで一般人である自分とガールズバンドたちの絆が一気に深まった。

「ご馳走様でした！また来ます！」

「またお待ちしております！」

「また来て下さい」

「お待ちしておりま～す♪」

「夜道気を付けて」

「またお越し下さい！」

ガラガラと引いて出、ガラガラと閉める。

「ナガレさん！また黒い羽根を羽撃かせます！」

「おう！頑張れ！応援してるぞお前ら！」

すると、雪は引き戸を引くなり

「行って来い！バカ娘共！」

「行って来る親父！」

「行って来ます♡」

「行って来ます！」

そして、ガールズバンドたちはまた世に戻って、黒い羽根を羽撃かせる。