枯れ桜

時谷 創

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12話 おかえり

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「樹! 無事だったの!?」

あまりの驚きでとっさに立とうとするが、力が抜けてベッドに倒れこんだ。

「おいおい、3日も眠り続けてたやつが急に動いたりするなよな!」

「何かその反応複雑ー。私の声で目を覚ましたのに私への反応はない訳?」

そう言って香織は頬を膨らませてぷいっと外に目を向けてしまう。

「香織! ここにいるってことは無事元に戻ったって事!?」

「気づくの遅いわよ…。まあ梓が枯れた桜を倒してくれたおかげで、
 桜に憑かれた力も消失して、私達5人以外は記憶も消え去って、
 原因が不明のまま、警察が捜査をしている最中よ」

「それじゃ、香織が浦添署で暴れていた事もなかったことになってるの?」

「そうよ。じゃなかったら私は今頃捕まって牢屋に入れられているところね」

「そっか…。樹が無事って事は桜に貫かれた人も元に戻ったのかな?」

「ええ。それに高垣さんのお姉さんも枯れた桜の影響だったのか、
 調子が安定してきているそうですよ。
 ほんと、遠野さんに桜を任せてよかったです。
 僕の剣道じゃ桜を倒すなんてできなかっただろうし」

「ううん、委員長。そうでもないよ。委員長が香織を止めてくれたおかげで、
 桜の元にいけた訳だし、前田先生も調査に協力してくれたおかげで、
 前に進めたんだしね」

「先生は何もやってなくない?
 私の梓に色目を使って土壌のphを測っただけだし」

「そんなことない。樹の事心配してくれたし、警察への捜索の助言もくれたし」

「香織はまだ梓離れしてないのかー」

「梓離れなんて無理よ。私の初めての恋人は梓って決めてるんだから!」

「何それ…私はそっちの趣味は全くないわよ」

病室が笑い声に包まれる。

「よかった…みんなが無事で…。ほんと良かった…」

「泣くなよ、梓。どんな苦難にぶち当たっても梓の気持ちと
 半身である俺。それにみんながいれば乗り切っていけるさ」

「そう……ね」

「よし、今は体調を整えるのを優先して、戻ったらどこか遊びに行きましょうか!」

「そうだな。最近なかなか時間が取れなくて遊びにいけなかったからな」

「それは先生も行っていいのか?」

「先生は怪しいから駄目ー。先生は化学室でお留守番してなさい」

「怪しいって俺はお前たちをそんな目では見てないぞ!?」

「あはは、前田先生、大丈夫ですって。私なんとも思ってませんから」

「なんとも思ってないって言うのもなんか複雑だな」

「あはは!」

そんなこんなで枯れた桜が発端となった事件もこれでおしまい。

よく枯れた桜と戦うなんて大それたことができたなと自分でも思うけど、
最後まで諦めずに頑張ることができてよかった。

みんなありがと。

そして樹、おかえり。
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