枯れ桜

時谷 創

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2話 行方不明

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「梓、こんな所でぼーっとして何してるの?」

教室のベランダで足を止めていると、親友でクラスメイトの高垣 香織たかがき かおり
後ろからぎゅっと抱きしめられた。

「え? あ、えと昨日の夜から何か変な感じがして、
 頭の中がモヤモヤするんだよね…」

「樹君の事で……かな? それか風邪とか引いてない?」

「それは大丈夫だと思うけど……」

香織は心配そうな表情を浮かべながらも、
顔をすりすりと、私の肩にすり付けてくる。

「香織、やめーてよー。今はそれどころじゃないんだって!」

香織を引き離そうと手で追い払おうとするが、
するりとかわされて全く意味をなさない。

「今日もラブラブですね」

声がする方向に目を向けてみると、学級委員長の芳野 直人よしの なおと
こちらに向かって歩いてきた。

「委員長、そんな冗談言ってないで香織を止めなさいよー」

「いや、僕じゃ無理ですよ。それより樹君はまだ見つからないんですか?」

「うん。昨日の夜、誰かに呼び出されてそれきり……」

兄の樹がすぐ帰るからと言って出て行ったきり帰ってこず、
こちらから電話をかけても、電源が切られて繋がらない状態が今も続いている。

「授業が終わって家に帰ってもいなかったら、警察に行った方がいいのかな?」

ベランダの手すりに体を預け、学校の裏庭で咲いている桜に目を向けてみた。

季節外れの桜。

そう今は2月。

まだ冷たい風が吹いてきて、上着が欲しいと言う陽気にも関わらず、
学校の裏庭にはあちこちに桜が咲いているのだ。

そもそもこの桜だが、毎年4月に入ってから咲いていて、
この時期に咲く事自体初めての事なのだが、
それ以外にも学校内の桜によって咲いているものと
咲いていないものとバラバラなので、皆不思議がっているのだ。

「梓には何でも話す樹君の事だから、何か事情があるのかもしれないけど、
 家に帰っても連絡が取れなければ、一度警察に相談だけはした方が
 いいかもしれないわね」

「僕もそう思います。もしかしたら何か事件とか事故に巻き込まれている
 可能性もありますし」

「そう……だね。樹のやつ、ほんと一体どこに行ったんだろう……」 

そんな感じで樹の事が気になり、授業に集中できないまま、昼休憩の時間となった。

「一緒に帰れなくてごめんね。今日もお姉ちゃんのお見舞なんだ」

昼休憩はいつも通り香織と席を並べて食べていたが、
気落ちしている私を見かねてか、香織は申し訳なさそうな表情でそう言う。

詳しい事情は聞かされてないが、香織のお姉さんは数年前から病院に入院していて、
一時はよくなっていたようだが、今は予断を許さない状態にまで悪化しているそうだ。

「私は大丈夫だよ。香織はお姉さんの事を一番に考えておいて。
 それに最近人がいなくなる事件も多発しているから、香織も気を付けてね」

「それを言うなら超絶美少女の梓の方が心配だよ!
 もし変な人に遭遇したらこれを強く引っ張るんだからね!」

香織はそう言って、痴漢撃退用のブザーを手渡してきた。

「あ、ありがとう」

香織も大変なのに、いつもと変わらない香織のその明るさが私は嬉しかった。
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