雨と時間の向こう側

時谷 創

文字の大きさ
上 下
12 / 15

12話 学校に向けて

しおりを挟む
喫茶店から外に出ると、前回豪雨の中をつっきった時と違って、
辺りがひっそりと静まり返っていた。

空を見上げると薄っすら晴れ間も見えるが、遠くには黒い雲がかかっている。

「嵐の前の静けさって感じだね」

『町の東側の道については、正直どうなるか分からない。
 だからここは無理はせず慎重に進んでいこう。まだ時間はあるしな』

「分かった。それじゃ足元に気をつけて、ゆっくり学校に向かうね」

私はそう言って喫茶『白樺』に向けて再度頭を下げると、
私は東の道へと歩いていった。

東の道は西の道と違って比較的平坦で歩きやすくなってはいるが、
ラジオで言っていたように、先日の雨で一部地面がぬかるんでいるようだ。

『転ばないように注意しろよ。衣沙菜は何も無い所でも転ぶからなー』

「う、恥ずかしい限りです……。
 どうせなら私がぬいぐるみで、直君がお父さんがだったら良かったのになー」

『いや、衣沙菜が父さんで良かったと思うぞ。
 俺が父さんだったら、問題解決のために一心不乱に駆け回って、
 うまく立ち回れていなかったと思うし』

確かに直君がお父さんだったら、「絶対に先生を助ける!」と力を入れ過ぎる
可能性は高そうだ。

『ただ力になれないのは凄く悔しいし、
 衣沙菜ばかりに危険な目にあわせる事になって自分自身が情けなく思うよ』

「直君、気にしないで。私は直君のためなら例え火の中、水の中で頑張れるから!」

『そっか、悪いな…』

直君落ち込んでるな…私の事は気にしなくてもいいのに。

鞄から見える顔もしょぼんとした表情をしている。

『とりあえず今は学校に着く事が優先だな…
 っとこの先の道に木が倒れこんでいるな』

直君に言われて目を向けてみると、ぬかるんだ道を通せんぼするかのように、
大きな木が倒れこんでいた。

「木を乗り越える……のはさすがに無理かな」

『道を少し外れて、林の中に通り抜けよう』

直君の指示に従い、倒木を避けて林の中に入る。
 
林の中は少し薄暗かったが、地面が抜かるんでいなかったため、
難なく倒木を避けて道に進む。

ポツポツ…

林を出て元の道に戻ろうとしたところで、突然雨が降り始めた。

「え、雨が降り始めるのってもっと後じゃなかったっけ!?」

『先生が土砂崩れに巻き込まれるのを回避した影響で、
 状況が変わってきてるのかもしれないな』

「それだと何か不測の事態が起きる可能性もあるし、急いで道に戻らないと!」

『衣沙菜、走ると危ないぞ!』

直君の言葉を聞き入れず急いで道に戻ろうとすると、
足元のぬかるみに足を取られる。

「キャー!」

『衣沙菜、大丈夫か!?」

「痛たた…大丈夫。ちょっとお尻を打っただけだから。
 でも、花束に泥が…」

先生に渡すつもりだった花束の一部にぬかるみの泥が被ってしまっていた。

『大丈夫だ。大事なのは気持ちと無事学校にたどり着く事だ。
 雨も少し強く振り出してきたし、急いで道を進むぞ!』

「分かった!」

花束をしっかり握り直して傘を広げ、降りかかる雨に向かって走り出した。

『ここが分かれ道みたいだな』

地面に気をつけながらしばらく走っていると、別れ道までたどり着いた。

「マスターのメモによると右の道が遠回りだけど、
 見た感じ道は安定しているみたいだね」

『父さんの物語からずれてる可能性があるけど、
 ここはマスターを信じて右の道を進もう!』

「OK!」

今は信じて進むしかない。

何が待ち構えているか分からないのが少し怖いけど、直君もついてくれてる。

いや、直君に頼ってばかりじゃいけない。

自分を信じていなければ、成せるものも成せる訳が無い。

だから私も私を信じて前に進もう!

強くなる風に花びらが飛ばされ、ぬかるんだ道を回避し、
しまいには傘の骨が折れて使い物にならなくなったが、
それに負けじと道を突き進む事で、ついに学校へとたどり着いた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ニューハーフな生活

フロイライン
恋愛
東京で浪人生活を送るユキこと西村幸洋は、ニューハーフの店でアルバイトを始めるが

【R18】エリートビジネスマンの裏の顔

白波瀬 綾音
恋愛
御社のエース、危険人物すぎます​─​──​。 私、高瀬緋莉(27)は、思いを寄せていた業界最大手の同業他社勤務のエリート営業マン檜垣瑤太(30)に執着され、軟禁されてしまう。 同じチームの後輩、石橋蓮(25)が異変に気付くが…… この生活に果たして救いはあるのか。 ※完結済み、手直ししながら随時upしていきます ※サムネにAI生成画像を使用しています

お兄ちゃんはお医者さん!?

すず。
恋愛
持病持ちの高校1年生の女の子。 如月 陽菜(きさらぎ ひな) 病院が苦手。 如月 陽菜の主治医。25歳。 高橋 翔平(たかはし しょうへい) 内科医の医師。 ※このお話に出てくるものは 現実とは何の関係もございません。 ※治療法、病名など ほぼ知識なしで書かせて頂きました。 お楽しみください♪♪

女の子にされちゃう!?「……男の子やめる?」彼女は優しく撫でた。

広田こお
恋愛
少子解消のため日本は一夫多妻制に。が、若い女性が足りない……。独身男は女性化だ! 待て?僕、結婚相手いないけど、女の子にさせられてしまうの? 「安心して、いい夫なら離婚しないで、あ・げ・る。女の子になるのはイヤでしょ?」 国の決めた結婚相手となんとか結婚して女性化はなんとか免れた。どうなる僕の結婚生活。

生贄にされた先は、エロエロ神世界

雑煮
恋愛
村の習慣で50年に一度の生贄にされた少女。だが、少女を待っていたのはしではなくどエロい使命だった。

My Doctor

west forest
恋愛
#病気#医者#喘息#心臓病#高校生 病気系ですので、苦手な方は引き返してください。 初めて書くので読みにくい部分、誤字脱字等あると思いますが、ささやかな目で見ていただけると嬉しいです! 主人公:篠崎 奈々 (しのざき なな) 妹:篠崎 夏愛(しのざき なつめ) 医者:斎藤 拓海 (さいとう たくみ)

【R18】鬼上司は今日も私に甘くない

白波瀬 綾音
恋愛
見た目も中身も怖くて、仕事にストイックなハイスペ上司、高濱暁人(35)の右腕として働く私、鈴木梨沙(28)。接待で終電を逃した日から秘密の関係が始まる───。 逆ハーレムのチームで刺激的な日々を過ごすオフィスラブストーリー 法人営業部メンバー 鈴木梨沙:28歳 高濱暁人:35歳、法人営業部部長 相良くん:25歳、唯一の年下くん 久野さん:29歳、一個上の優しい先輩 藍沢さん:31歳、チーフ 武田さん:36歳、課長 加藤さん:30歳、法人営業部事務

処理中です...