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24.エピローグ(前)

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 ルディグナは、回想する。

 あの日、アレムは河の神を召喚し、ルディグナに会わせてくれた。

 河の神は、自分が生贄など求めていないこと、そしてルディグナの身も心も彼女自身のものであることを教えてくれた。
 幼い頃から刷り込まれた呪縛を解かれたルディグナに、アレムはたずねた。

  ーー「君は、これからどうしたい?」

 ルディグナは答えた。
  ーー「もしも、私に自由が許されるのならば、いろんなところに行って、いろんなものを見て、いろんな人と会ってみたい。」


 別れ際に、河の神はルディグナに持参金として、これまで河の神への供物として沈められた金細工のかんざしや、たくさんの宝石をくれた。
 “持参金”なるものが何を意味するのかわからないまま、ルディグナはそれを受け取った。



****

 そして、ルディグナは故郷へと戻るアレムとともに、今度は沈まぬ船に乗って大海原を渡った。

 彼の故郷シュクトでは、肌の白い人間の方が多く、ルディグナはひどく驚かされた。

 街へ着くとアレムは、ルディグナを自分が所属する神殿へと連れていった。

 その時の騒ぎといったら…。

 今にして思えば、国交もない、未知の国に伝わる生贄の伝統を調べにいったはずの一介の巫術師が、上に断りもなく生贄になるはずだった少女を連れて戻ったのだから無理もない話である。

 身元は割れてないから大丈夫! とのたまうアレムに対し、神殿の長である大神官は大目玉を食らわせたが、アレムはどこ吹く風だった。

 ーー「この子ルディグナには巫術師の才能があります。訓練もせずして精霊の姿を見て声を聞くことも出来たのですから、是非とも巫術師にするべきです。」

 そんなアレムの言葉を聞いた大神官は、青年を怒鳴りつけた。

  ーー「馬鹿者!! おなごごときに巫術師が勤まるものか!?だいたい一人の巫術師を育て上げるまでに一体何年かかると思っておるのだ! その間の生活費も馬鹿にはならんのだぞ!」

 その言葉を聞いたルディグナは、ふと思い立ち、腰につけていたポーチから河の神からもらった宝石の一部を差し出した。

 ーー「これで、少しは足しにならないだろうか?」






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