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20.祭りの日

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 ーー祭りの日が近づいてきていた。

 秋の収穫を祝う祭りの最初の日に、河の神の花嫁は水底に嫁ぐことになる。

 夜毎、地面を潜り抜けて彼女に会いに来るアレムは、ルディグナに一刻も早く逃げ出すように勧めていた。
 けれど、ルディグナは逃げようとはしなかった。数日続く祭りの最終日ならば警備が薄くなると教えて、その日に逃げることを約束した。

 ルディグナは、そのとき、生まれてはじめて嘘をついた。

 アレムとともに過ごす時間は楽しかったが、自分の役目を捨てることはできなかった。
 自分がただの生け贄だと知った今でも、彼女はその役目を果たそうと心に決めていた。

 異国生まれのアレムは、この国の祭りの詳細をよく知らないようだった。
 だから、祭りの最終日に迎えに来ると言って去っていった。

 ****

 無数の花と豪華な飾りで装飾された船が、歓声とともに川へと押し出された。

 その豪華な船に乗せられていたのは、豪奢な赤い花嫁衣装をまとったルディグナただ一人きりだった。一緒に船に乗せられた侍女たちは、布で作られた人形だった。

 河の岸が、見慣れた世話役の巫女たちの姿が次第に遠くなってゆく。
 ルディグナは、この景色を忘れまいとでもするかのように、岸辺から目をそらさなかった。

 穏やかな河の流れが、飾り付けられた船を下流へと運んでゆく。

 その船の底には、意図的に穴が開けられていた。時間がたつと、穴に詰められて泥が水に溶けだし、浸水するように作られていた。

 ルディグナが大巫女に聞かされた話では、河の神の花嫁を乗せたその船は、やがて水底に進路を変えて、そのまま水底の宮殿に向かうと言うことだった。

 上流からだいぶ流されたところで、船の底にはめられていた泥の詰めものが溶け、飾り立てた船の中に水が流れこみはじめた。
 ルディグナは、その様子をじっと見つめていた。

 ようやく動かせるようになった足が、冷たい水の流れにひたっても。

 やがて、その水が、腰に、胸にと水位を上げていっても。

 指一本動かすことはなく、水の中に沈んでいく自分の体を見つめていた。


*****

 はじめのうち、浸水はひどく穏やかだった。

 けれど、ある程度沈んだところで、急にその速度が早まった。

 周りの河の水が押し寄せるようにして、ルディグナの乗った船の中に流れ込んでくる。
 すると、ルディグナの体は激しい奔流の中に巻き込まれてもみくちゃにされた。
 呼吸をしようと口を開けると、空気の代わりに冷たい水が流れ込んでくる。

 ルディグナの体がすっかり水の中に引き込まれた時、これ以上体の中の空気が逃げださないように呼吸を止めながら、彼女は目を開いた。

 ゆらゆらと、はるか上空で光が泳いでいた。
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