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第四十七話 『決闘裁判』の行方
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「んっ……痛いよ!」
無造作に拳を払われた。そのままレオノの身体が吹っ飛ぶ。どうにか、着地。先ほど殴られた腹をかばいながら、レオノはどうにか立ち上がる。痛いとは言っているが、イリスは小揺るぎもしていない。なんてヤツだ。
「はあ……はあ……でたらめだよぉ……アイツぅ……っ」
ぺっと血を吐き出して、レオノはかけだした。渾身の力で飛び上がり、イリスの顔をめがけて右手の爪を振り下ろす。
イリスはとっさに角を突き出した。その先端が、レオノの手のひらに深々と刺さる。
「ぐぎゃああぁぁ!!!!」
レオノの悲鳴が、会場に響き渡った。
イリスが雄牛のように頭を振ると、レオノは吹き飛ばされて地面に転がった。
よろよろと、レオノが立ち上がる。その右手からあふれ出た血が、ぽたりぽたりと落ちる。
服の一部を裂いて、レオノが即席の包帯を作って手のひらに巻いた。『決闘』のルールでは勝敗が決するまで、他者が治療を出来ないことになっている。傷が増えていくほど、そちらが不利になっていく。
レオノが止血する間、イリスは黙って待っていた。それが、余計にレオノのしゃくに障る。
「……ふんっ。余裕かよぉ……っ」
「今のうちに降参すれば? 別に僕は君の命まではいらないよ」
「命乞いなんかぁ! するかよぉおお!!」
レオノは怒りを雄叫びに変える。
巨体に似合わぬ素早さで突進。身をかがめて、イリスの拳を避ける。そのまま伸び上がり、アゴを殴り抜けようとして拳を伸ばす。
「きゃあ!」
しかし、無意識に身をひねってかわしたイリスの太い尻尾が、横薙ぎにレオノの横っ腹を直撃する。
「ぐ……っぁ……っ!」
竜の尻尾の一撃は、いっそ拳よりも強烈で。
地面に叩きつけられたレオノは、脇腹を押さえてうずくまってしまった。
「はあ……はぁ……っそいつは……飾り、じゃ……ねぇのかよぉ……」
「ああ、びっくりした! 尻尾もちゃんと動くんだよ、レオノくん!」
確かに、イリスは腹を立てているのかも知れない。だが、その声にも態度にも、闘志は微塵も感じられない。自分がひどく空回りしているような感覚に陥って、レオノは苦笑を漏らす。
「クソっがぁ……やってられねぇやぁ。こんなのぉ……勝負になる、かよぉ……っ」
レオノは地面に座り込んで、足を投げ出した。勝てるビジョンが浮かばない。勝てるプランが浮かばない。そんな相手が、子供のように「きゃあ」と悲鳴を上げるのだ。もう戦意など、どこかに行ってしまった。
「はあ……はあ……オレはぁ……もう、肋骨が何本が肺に刺さってるぅ……このままだとぉ……死ぬぅ……もう、降参だぁ。オレは『苛烈公』何かのために……死にたくねぇ」
「うん。それなら僕の勝ちだね。タイキとアルダーくんに謝ってくれる? レオノくん。治療、した後で良いから」
にっこりと、イリスが笑う気配がする。竜の面は表情筋が硬いのか、はっきりとは解らないが。
「はあ……っ……良いよぉ。今度こそ、約束、するぅ……悪いこと、しちまった、からなぁ……」
「うん。ありがとう。……さあ! レオノくんは降参したよ! 僕の勝ちだね! ナティエちゃん!!」
イリスは両手を広げて、観客と見届け人、それから被告に高らかに宣言する。
「やったー!!!!」
関係者席で泰樹は喜びを爆発させて、アルダーに抱きついた。
「やったな!!」
アルダーも、珍しく興奮している。二人は手を取ってイリスの勝利を喜び合う。
「……え、あ……イリス、様……めちゃくちゃ……強ええ……」
呆然と、シャルがつぶやく。改めて、とんでもない主人を持ってしまったモノだとでも思ったのか。その瞳は、会場のイリスに釘付けになっている。
「……言っただろう? イリスが負けるわけがないと」
アルダーが、当然だとでも言いたげに笑う。
「うん、うん! イリス、スゲえ!! 最高!!」
泰樹たちと同じように観客は興奮している。だがそれはイリスの勝利を喜ぶと言うよりは、消化不良を訴えるモノだった。瀕死の重傷とは言え、レオノは死んではいない。流血が足りない。
この『決闘裁判』は華麗な死合いと言うよりは、一方的な児戯だった。それは観客たちに不満を抱かせる。
「殺せ!」
誰かが、最初にそう叫ぶ。
「殺せ!」
「殺せっ!」
「殺せぇ!!」
たちまち、会場中は大合唱。生贄を求める群衆は、拳を突き上げる。
「そうだ! 殺してしまえ! そんな役立たず!!」
会場の一角で、叫んだのは『苛烈公』。それをイリスは聞き流さなかった。
「うるさい!! みんな黙れ!! レオノくんはもう戦えない。もう十分だ! 僕は殺さない。そんなこと、僕は望まない!」
大音声で、イリスが叫ぶ。それは竜の咆哮にも似て、人びとの耳を打つ。しんと、会場は静まりかえった。
「……ラルカくん! レオノくんは君のために戦った! それをなんだ! 君が、彼を『役立たず』なんて言う資格は無い!!」
「だがそいつは負けた!! 勝たなければ、意味など無い!!」
ラルカの反駁に、イリスはぐらるるる……と低くうなる。
「そんな事言うなら、君が戦えば良いだろ! おりてこい! 僕は相手になるよ!!」
「誰が……お前のような化け物と戦うか!! 半竜人が!!」
「……この上、まだ僕を侮るのか、『苛烈公』。もう、絶対に、許さないっ!!」
無造作に拳を払われた。そのままレオノの身体が吹っ飛ぶ。どうにか、着地。先ほど殴られた腹をかばいながら、レオノはどうにか立ち上がる。痛いとは言っているが、イリスは小揺るぎもしていない。なんてヤツだ。
「はあ……はあ……でたらめだよぉ……アイツぅ……っ」
ぺっと血を吐き出して、レオノはかけだした。渾身の力で飛び上がり、イリスの顔をめがけて右手の爪を振り下ろす。
イリスはとっさに角を突き出した。その先端が、レオノの手のひらに深々と刺さる。
「ぐぎゃああぁぁ!!!!」
レオノの悲鳴が、会場に響き渡った。
イリスが雄牛のように頭を振ると、レオノは吹き飛ばされて地面に転がった。
よろよろと、レオノが立ち上がる。その右手からあふれ出た血が、ぽたりぽたりと落ちる。
服の一部を裂いて、レオノが即席の包帯を作って手のひらに巻いた。『決闘』のルールでは勝敗が決するまで、他者が治療を出来ないことになっている。傷が増えていくほど、そちらが不利になっていく。
レオノが止血する間、イリスは黙って待っていた。それが、余計にレオノのしゃくに障る。
「……ふんっ。余裕かよぉ……っ」
「今のうちに降参すれば? 別に僕は君の命まではいらないよ」
「命乞いなんかぁ! するかよぉおお!!」
レオノは怒りを雄叫びに変える。
巨体に似合わぬ素早さで突進。身をかがめて、イリスの拳を避ける。そのまま伸び上がり、アゴを殴り抜けようとして拳を伸ばす。
「きゃあ!」
しかし、無意識に身をひねってかわしたイリスの太い尻尾が、横薙ぎにレオノの横っ腹を直撃する。
「ぐ……っぁ……っ!」
竜の尻尾の一撃は、いっそ拳よりも強烈で。
地面に叩きつけられたレオノは、脇腹を押さえてうずくまってしまった。
「はあ……はぁ……っそいつは……飾り、じゃ……ねぇのかよぉ……」
「ああ、びっくりした! 尻尾もちゃんと動くんだよ、レオノくん!」
確かに、イリスは腹を立てているのかも知れない。だが、その声にも態度にも、闘志は微塵も感じられない。自分がひどく空回りしているような感覚に陥って、レオノは苦笑を漏らす。
「クソっがぁ……やってられねぇやぁ。こんなのぉ……勝負になる、かよぉ……っ」
レオノは地面に座り込んで、足を投げ出した。勝てるビジョンが浮かばない。勝てるプランが浮かばない。そんな相手が、子供のように「きゃあ」と悲鳴を上げるのだ。もう戦意など、どこかに行ってしまった。
「はあ……はあ……オレはぁ……もう、肋骨が何本が肺に刺さってるぅ……このままだとぉ……死ぬぅ……もう、降参だぁ。オレは『苛烈公』何かのために……死にたくねぇ」
「うん。それなら僕の勝ちだね。タイキとアルダーくんに謝ってくれる? レオノくん。治療、した後で良いから」
にっこりと、イリスが笑う気配がする。竜の面は表情筋が硬いのか、はっきりとは解らないが。
「はあ……っ……良いよぉ。今度こそ、約束、するぅ……悪いこと、しちまった、からなぁ……」
「うん。ありがとう。……さあ! レオノくんは降参したよ! 僕の勝ちだね! ナティエちゃん!!」
イリスは両手を広げて、観客と見届け人、それから被告に高らかに宣言する。
「やったー!!!!」
関係者席で泰樹は喜びを爆発させて、アルダーに抱きついた。
「やったな!!」
アルダーも、珍しく興奮している。二人は手を取ってイリスの勝利を喜び合う。
「……え、あ……イリス、様……めちゃくちゃ……強ええ……」
呆然と、シャルがつぶやく。改めて、とんでもない主人を持ってしまったモノだとでも思ったのか。その瞳は、会場のイリスに釘付けになっている。
「……言っただろう? イリスが負けるわけがないと」
アルダーが、当然だとでも言いたげに笑う。
「うん、うん! イリス、スゲえ!! 最高!!」
泰樹たちと同じように観客は興奮している。だがそれはイリスの勝利を喜ぶと言うよりは、消化不良を訴えるモノだった。瀕死の重傷とは言え、レオノは死んではいない。流血が足りない。
この『決闘裁判』は華麗な死合いと言うよりは、一方的な児戯だった。それは観客たちに不満を抱かせる。
「殺せ!」
誰かが、最初にそう叫ぶ。
「殺せ!」
「殺せっ!」
「殺せぇ!!」
たちまち、会場中は大合唱。生贄を求める群衆は、拳を突き上げる。
「そうだ! 殺してしまえ! そんな役立たず!!」
会場の一角で、叫んだのは『苛烈公』。それをイリスは聞き流さなかった。
「うるさい!! みんな黙れ!! レオノくんはもう戦えない。もう十分だ! 僕は殺さない。そんなこと、僕は望まない!」
大音声で、イリスが叫ぶ。それは竜の咆哮にも似て、人びとの耳を打つ。しんと、会場は静まりかえった。
「……ラルカくん! レオノくんは君のために戦った! それをなんだ! 君が、彼を『役立たず』なんて言う資格は無い!!」
「だがそいつは負けた!! 勝たなければ、意味など無い!!」
ラルカの反駁に、イリスはぐらるるる……と低くうなる。
「そんな事言うなら、君が戦えば良いだろ! おりてこい! 僕は相手になるよ!!」
「誰が……お前のような化け物と戦うか!! 半竜人が!!」
「……この上、まだ僕を侮るのか、『苛烈公』。もう、絶対に、許さないっ!!」
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