アルデリク家の兄弟

中頭かなり

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 ホットケーキを食べ終え、様々な話に花を咲かせた俺たちは「じきに弟が帰宅するから」という彼の言葉により会話を中断させた。俺がこの家にいては都合が悪いのだろうか、彼は穏やかな笑みのまま、しかし決して長居はさせないという意思を見せながら俺を見送る。
 「じゃあね、バイバイ」。手を振り俺の姿を見送るティエリに手を振りかえす。道路を渡り、向かいの自宅に到着し、玄関のドアを開ける。振り返ると、まだ彼が俺を見ていた。中へ入る様子までしっかりと確認し、彼も家の中へ身を引っ込める。律儀だなぁ、と感心しつつ急ぎ足でキッチンまで向かう。
 母が「どこへ行っていたの?」と夕食の準備をしながら尋ねてきた。俺は咄嗟に、向かいの家へ行っていたと言いかけ、口を噤む。両親はあの家に住まう家族に対して良い印象を抱いていない。変に口を滑らせたら、行くことを禁じられてしまうかもしれない。
 俺は平静を装い、同級生の名前を出す。
 あぁバリーの家に行ってた。彼の妹のおままごとに無理やり参加させられて疲れた。あんなのに毎日付き合ってるバリーが可哀想だよ────。
 口から溢れる饒舌な嘘に、母は笑い、頷いている。

「夕食できたら、呼ぶから」
「うん、わかった」

 急ぎ足で二階に上がり、部屋へ入る。窓際へ寄り、向かいの隣家を覗き込んだ。
 薄暗くなってきた外の世界に合わせ、カーテンの隙間から微かに光が溢れている。ティエリも今から夕食の準備に取り掛かるのだろうか、と窓の縁に肘をつきながらぼんやり考えた。
 そこで再び、寝室にあったベッドを思い出す。ティエリと弟である男性が寄り添い眠る姿を想像してしまい、一気に血が沸騰した。全身を巡り、火照る。同時に変な想像をしてしまった罪悪感が支配し、項垂れた。

「あ……」

 車がティエリの家の前で速度を落とした。艶やかな黒い車が車庫へ入り、弟である男性が降りる。そのまま、家の中へ消えていく姿を眺めた。
 ────中で、どんな会話をしているのだろう。
 血の繋がらない兄弟が、あの家に二人きり……何故かドキドキと胸が高鳴る。俺は勢いよく立ち上がり、階段を駆け降りた。キッチンへ向かい、母の後ろ姿を確認する。夕食の準備をしている薄い背中を確認し、ゆっくりと玄関のドアを開けた。
 道路を渡り、平屋へ向かう。ティエリの家は、重く黒いカーテンで覆われている。中は確認できない。隙間がないかと首を伸ばしながら、身を屈めた。
 こんな場面を近所の人に見られたら、俺は不審者扱いを受けてしまう。暗くなってきた背景に身をくらませる様に小走りで移動し、家の窓を全て確認した。
 ────やっぱり、開いていないか。
 その時、窓から一筋の光が見えた。眩しいほどのそれは、天使の施しのように見えた。光に群がる蟲の如く、俺は導かれるがまま近づく。部屋の構造から察するに、そこはティエリと弟であるグランドの寝室だ。そういえば、昼間に覗いた時もカーテンが開いていたなと思い出し、しめしめと頬を緩ませる。いたずらが成功するような高揚感に浸った。
 顔を傾け、覗き込む。
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