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「こんにちは」
「こっ、こんにちは」
唾液が喉に詰まった。咳払いをしながら額に汗を滲ませる。「大丈夫?」と声をかけられ、俺は何度も力強く頷いた。
彼は緩やかに肩を揺らし笑った。口元に手を当てクツクツと笑う仕草がとても美しくて、ボーと見惚れてしまう。
「君は向かいに住んでる子かな?」
柔らかな髪を掻き上げながらこちらへ近づいた彼に、胸がドキドキと高鳴る。手のひらに汗が滲み、唇を噛み締めた。目を伏せモジモジとしていた俺の前にしゃがみ、視線を合わせた彼が口角を上げる。
薄ピンクの唇が、とても蠱惑的に見えた。
「は、はい」
「初めまして。僕はティエリ。君は?」
手を差し出す彼。俺は手を取り浅く頭を下げ、握手をした。ティエリの手はとても冷たく、そして薄かった。滑らかな肌が吸い付くようで、魅入られる。
「レムシュ……」
「レムシュ。どうぞよろしく」
ぎゅうと力が込められ、頬が染まる。思わずパッと手を離し、目を伏せた。ティエリは穏やかに微笑み、不器用な動きで立ち上がる。不自由な足を引き摺りながら玄関まで向かい、こちらへ振り返った。
「弟が帰宅するまでまだ時間があるから、少し寄っていく?」
おいでと手招きをされる。彼の声音が、深淵へ引き摺り込む魔女の誘いのようにも聞こえたし、森の泉へ誘う女神の声のようにも聞こえた。一瞬固まり、小さく頷く。急ぎ足で彼の元まで歩み寄ると、ティエリは穏やかに笑った。
玄関を潜り抜ける。家の中はものが少なく、広々としていた。右手にリビングがあり、奥の方にキッチンがある。左手には固く閉ざされた扉があった。
真正面にある廊下へ視線を投げる。側面にドアが数箇所あった。一番奥のドアは開きっぱなしになっている。目を凝らすと、ベッドが見えた。部屋から溢れる光が、薄暗い廊下に差し込んでいた。
じゃあそこに腰を掛けて。ティエリにそう言われ、リビングにあった椅子へ腰を下ろす。
「ホットケーキ、作ってあげるね」
フライパンを手に取った彼が微笑む。ありがとうと礼を言い、ぐるりと部屋を見渡した。家自体は年季が入っていて、古臭さを感じる。壁紙は剥がれた部分があったり、穴が空いている箇所がある。
────噂では親子でずっと住んでいて、のちに兄弟だけで生活しているって聞いたけど……。
長年この平屋に住んでいるのだなぁとティエリの背中を見てぼんやり思った。ふと、この家を探索してみたい衝動に駆られる。椅子から立ち上がり、ティエリにバレないようにそろりと足を踏み出した。
まず気になったのは玄関から入って左にあった扉だ。取っ手には鍵が付いていて頑丈に固定されている。中は物入れだろうか。それか、地下室だろうか。色んな想像をし、取っ手へ手を伸ばす。しかし、そこで断念した。無理に開けてしまうのはいけないことである。
好奇心を押し殺し、廊下を歩む。軋む音を立てぬよう、側面にあるドアノブへ手を伸ばした。ギィと音を立て、扉が開く。中にはトイレとバスタブがあった。洗面台には二人分の歯ブラシが置かれている。
────本当に兄弟で住んでいるんだ。
ティエリは「弟が帰宅するまでまだ時間がある」と言っていた。確かに、この家に住まう弟らしき人物は朝早くに車で何処かへ向かい、夕方辺りに帰宅する。
黒い艶がある車に乗り込む、スーツを着た男性が脳裏に浮かぶ。短髪の黒髪とスッとした背筋。高い身長と見合った体格。ティエリの弟とは言い難い姿をした外見をした彼(それはそうだ。だって血が繋がっていないし)は見るからに気難しそうな面持ちをしていた。
「こっ、こんにちは」
唾液が喉に詰まった。咳払いをしながら額に汗を滲ませる。「大丈夫?」と声をかけられ、俺は何度も力強く頷いた。
彼は緩やかに肩を揺らし笑った。口元に手を当てクツクツと笑う仕草がとても美しくて、ボーと見惚れてしまう。
「君は向かいに住んでる子かな?」
柔らかな髪を掻き上げながらこちらへ近づいた彼に、胸がドキドキと高鳴る。手のひらに汗が滲み、唇を噛み締めた。目を伏せモジモジとしていた俺の前にしゃがみ、視線を合わせた彼が口角を上げる。
薄ピンクの唇が、とても蠱惑的に見えた。
「は、はい」
「初めまして。僕はティエリ。君は?」
手を差し出す彼。俺は手を取り浅く頭を下げ、握手をした。ティエリの手はとても冷たく、そして薄かった。滑らかな肌が吸い付くようで、魅入られる。
「レムシュ……」
「レムシュ。どうぞよろしく」
ぎゅうと力が込められ、頬が染まる。思わずパッと手を離し、目を伏せた。ティエリは穏やかに微笑み、不器用な動きで立ち上がる。不自由な足を引き摺りながら玄関まで向かい、こちらへ振り返った。
「弟が帰宅するまでまだ時間があるから、少し寄っていく?」
おいでと手招きをされる。彼の声音が、深淵へ引き摺り込む魔女の誘いのようにも聞こえたし、森の泉へ誘う女神の声のようにも聞こえた。一瞬固まり、小さく頷く。急ぎ足で彼の元まで歩み寄ると、ティエリは穏やかに笑った。
玄関を潜り抜ける。家の中はものが少なく、広々としていた。右手にリビングがあり、奥の方にキッチンがある。左手には固く閉ざされた扉があった。
真正面にある廊下へ視線を投げる。側面にドアが数箇所あった。一番奥のドアは開きっぱなしになっている。目を凝らすと、ベッドが見えた。部屋から溢れる光が、薄暗い廊下に差し込んでいた。
じゃあそこに腰を掛けて。ティエリにそう言われ、リビングにあった椅子へ腰を下ろす。
「ホットケーキ、作ってあげるね」
フライパンを手に取った彼が微笑む。ありがとうと礼を言い、ぐるりと部屋を見渡した。家自体は年季が入っていて、古臭さを感じる。壁紙は剥がれた部分があったり、穴が空いている箇所がある。
────噂では親子でずっと住んでいて、のちに兄弟だけで生活しているって聞いたけど……。
長年この平屋に住んでいるのだなぁとティエリの背中を見てぼんやり思った。ふと、この家を探索してみたい衝動に駆られる。椅子から立ち上がり、ティエリにバレないようにそろりと足を踏み出した。
まず気になったのは玄関から入って左にあった扉だ。取っ手には鍵が付いていて頑丈に固定されている。中は物入れだろうか。それか、地下室だろうか。色んな想像をし、取っ手へ手を伸ばす。しかし、そこで断念した。無理に開けてしまうのはいけないことである。
好奇心を押し殺し、廊下を歩む。軋む音を立てぬよう、側面にあるドアノブへ手を伸ばした。ギィと音を立て、扉が開く。中にはトイレとバスタブがあった。洗面台には二人分の歯ブラシが置かれている。
────本当に兄弟で住んでいるんだ。
ティエリは「弟が帰宅するまでまだ時間がある」と言っていた。確かに、この家に住まう弟らしき人物は朝早くに車で何処かへ向かい、夕方辺りに帰宅する。
黒い艶がある車に乗り込む、スーツを着た男性が脳裏に浮かぶ。短髪の黒髪とスッとした背筋。高い身長と見合った体格。ティエリの弟とは言い難い姿をした外見をした彼(それはそうだ。だって血が繋がっていないし)は見るからに気難しそうな面持ちをしていた。
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