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救世主
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「話を聞いているか?」
「え、あ、はい。すみません。すごく、強そうだから羨ましくて」
「僕なんかとは大違いです」。ヘラヘラと笑うと、彼が言葉を続けた。
「アンタは自分を卑下しているが、間違えている。治癒を一気に行うのは、かなりの力がいるんだ。それをきちんとこなしているのは、すごいことだぞ」
「すごい?」
「そう、すごいことだ。アンタは偉い。そんなアンタにまともな手当てもしないまま雑務をさせているのか? とんでもないギルドだな」
すごい。鼓膜を撫でたその言葉に、胸がドキリと跳ねた。そんなこと、言われたことがない。いつも「役立たずだ」とか「足手纏い」と言われてきた。自分でそうだと思っていたし、すごいと言われた今でもあまり現実味がない。
「熱はきっと、肩の傷からくる発熱と……ストレスかもしれないな。アンタ、少し休養をもらったらどうだ。申請すれば、受け入れてもらえるだろう」
「む、無理ですよ、無理です。僕がそんなことしたら、何をされるか分からない。そもそも体調を崩した僕が悪いんです。それに、休養がほしいなんて言ったら、きっとギルドを追い出されます。魔力の弱い僕を置いてくれる、いいギルドなんです……あそこから追い出されたら、僕は、僕は……」
不意に父の顔が浮かんだ。僕をヴァンサに売り飛ばし、少額の金を受け取った彼は振り返ることもなく去ってしまった。「待って、お父さん」。言葉に反応することもなく消えた男の背中が、未だに瞼の裏に張り付いている。
────もう、捨てられたくない。
あんな悲しい思いはもう味わいたくなかった。どんな扱いを受けてもいいから、誰かに受け入れられて必要とされたかった。
「心配してくれて、ありがとうございます」
真っ直ぐに心配をされ、胸がふわふわとする。彼の言い分を聞き入れるつもりはなかったが、それでもその気遣いが僕にとっては嬉しかった。
「……アンタなら、そんなギルドを追い出されても引く手数多だ」
「あはは、そんな。お世辞はいいですよ」
「いや、世辞でもなんでもない。アンタは自分の力を過小評価してる。もっと自信を持て」
自信を持て。彼の言葉が胸に刺さる。真剣な眼差しに射られ、どこか居心地が悪くて口を噤んだ。
「……な、なんだか、嬉しい言葉をくれますね。エッジレイさんは」
「そうか? 俺は思ったことを言っている。アンタはよくやっているし、評価されるべきだ」
「あはは」
キッパリと彼に告げられ、頬が染まった。面と向かって誰かに褒められたのは何年ぶりだろうか。今まで何をしても「役立たずだ」と蔑まれてきた。だから、自分がそうだと思い込んでいた。
────本当は、違うのかな。
自分でもよくわかっていない。だって僕にとって世界はあの狭い屋敷だけだった。ヴァンサに捨てられないように、必死に繕って生きてきた。
それが僕の人生である。
不意に、視界に靡く服の袖が見えた。そこでようやく彼が洗濯物を干してくれたことを思い出し、頭を下げる。
「あの、洗濯物、ありがとうございます。あれをやらないと、すごく怒られるので助かりました」
「気にするな。干すぐらい、大したことない」
「それにこんな晴れた日に、大量に洗濯物を干すのは気持ちいいしな」。ふふと微笑んだ彼が可愛く見えて、つられて僕も笑った。
「え、あ、はい。すみません。すごく、強そうだから羨ましくて」
「僕なんかとは大違いです」。ヘラヘラと笑うと、彼が言葉を続けた。
「アンタは自分を卑下しているが、間違えている。治癒を一気に行うのは、かなりの力がいるんだ。それをきちんとこなしているのは、すごいことだぞ」
「すごい?」
「そう、すごいことだ。アンタは偉い。そんなアンタにまともな手当てもしないまま雑務をさせているのか? とんでもないギルドだな」
すごい。鼓膜を撫でたその言葉に、胸がドキリと跳ねた。そんなこと、言われたことがない。いつも「役立たずだ」とか「足手纏い」と言われてきた。自分でそうだと思っていたし、すごいと言われた今でもあまり現実味がない。
「熱はきっと、肩の傷からくる発熱と……ストレスかもしれないな。アンタ、少し休養をもらったらどうだ。申請すれば、受け入れてもらえるだろう」
「む、無理ですよ、無理です。僕がそんなことしたら、何をされるか分からない。そもそも体調を崩した僕が悪いんです。それに、休養がほしいなんて言ったら、きっとギルドを追い出されます。魔力の弱い僕を置いてくれる、いいギルドなんです……あそこから追い出されたら、僕は、僕は……」
不意に父の顔が浮かんだ。僕をヴァンサに売り飛ばし、少額の金を受け取った彼は振り返ることもなく去ってしまった。「待って、お父さん」。言葉に反応することもなく消えた男の背中が、未だに瞼の裏に張り付いている。
────もう、捨てられたくない。
あんな悲しい思いはもう味わいたくなかった。どんな扱いを受けてもいいから、誰かに受け入れられて必要とされたかった。
「心配してくれて、ありがとうございます」
真っ直ぐに心配をされ、胸がふわふわとする。彼の言い分を聞き入れるつもりはなかったが、それでもその気遣いが僕にとっては嬉しかった。
「……アンタなら、そんなギルドを追い出されても引く手数多だ」
「あはは、そんな。お世辞はいいですよ」
「いや、世辞でもなんでもない。アンタは自分の力を過小評価してる。もっと自信を持て」
自信を持て。彼の言葉が胸に刺さる。真剣な眼差しに射られ、どこか居心地が悪くて口を噤んだ。
「……な、なんだか、嬉しい言葉をくれますね。エッジレイさんは」
「そうか? 俺は思ったことを言っている。アンタはよくやっているし、評価されるべきだ」
「あはは」
キッパリと彼に告げられ、頬が染まった。面と向かって誰かに褒められたのは何年ぶりだろうか。今まで何をしても「役立たずだ」と蔑まれてきた。だから、自分がそうだと思い込んでいた。
────本当は、違うのかな。
自分でもよくわかっていない。だって僕にとって世界はあの狭い屋敷だけだった。ヴァンサに捨てられないように、必死に繕って生きてきた。
それが僕の人生である。
不意に、視界に靡く服の袖が見えた。そこでようやく彼が洗濯物を干してくれたことを思い出し、頭を下げる。
「あの、洗濯物、ありがとうございます。あれをやらないと、すごく怒られるので助かりました」
「気にするな。干すぐらい、大したことない」
「それにこんな晴れた日に、大量に洗濯物を干すのは気持ちいいしな」。ふふと微笑んだ彼が可愛く見えて、つられて僕も笑った。
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