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王子の秘密
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◇
「あっ」
「……ヒューゴ、いいところに。こちらへ来てくれないか」
城の廊下。いつか見たシチュエーションと同じ場面で、王子に呼び止められた。そこには例のメイド────メロもいた。彼女は手に幾つかの小瓶を持っていて、王子も小瓶を一つ持っていた。蓋を開け、匂いを確かめている様子だ。
俺は小さく悲鳴をあげ、後退りする。フォールが訝しげに眉を顰めた。
「どうした? 来てくれ」
「あ、えっと……」
二人の逢瀬を目の当たりにしてしまったことに罪悪感を抱いていると、王子が手招きをした。渋々、彼に従う。
近づくと、ふわりと甘い匂いが漂った。鼻腔を擽るそれにくしゃみをしそうになり、抑え込む。
王子は小瓶を傾け、匂いを嗅げと促した。何故そんなことを? と言いたくなった言葉を飲み込み、鼻を近づける。
「あはは、いい匂いでしょう?」
ふわふわと、まるでたんぽぽの綿毛のような声音を発したのはメロだ。俺はその声につられながら、無理に笑顔を作る。匂いは花のように甘くて癒されるものだったが、俺は好みではないなと眉を顰める。
次はこれを、とメロから小瓶を受け取ったフォールが蓋を開けた。
「それはシトラス系の香りです。男性でも、女性でも楽しめるものかと」
「……なるほど、いい匂いだ。ヒューゴはどう思う?」
「あ、えぇ。とても、いい匂いです……」
柑橘系の匂いが緩やかに漂う。先ほどの香りよりこちらの方が好きかもしれないな、と内心思った。王子も同意見なのか、オイルを少量手に垂らし馴染ませるように動かした。やがて、これにしようかなと頷く。メロは、お目が高いですね、と朗らかに微笑んだ。
「後ほど調合したものを城へ運ばせますね。きっと、喜ばれますよ」
「ありがとう、メロ。色々、世話になった」
「いえいえ。では、失礼します」
彼女は小瓶を抱えたまま、その場を去った。メイド服の袖を翻しながら小走りで消えていく背中を眺め、そこで王子と二人きりだということに気がついた。
フォールをチラリと見る。彼は手についたオイルの匂いを嗅いでいた。
「すまないな、ヒューゴ。呼び止めて」
「あ……いいえ。あの……今のは何だったのですか?」
「あぁ、ちょっとな。知り合いにハンドオイルをプレゼントしたくて、彼女に助言をもらってたんだ」
メロの知り合いがそういう類に精通してるらしい。だから色々話を聞いてたんだ、と彼が呟く。
そういうことか。と、俺は納得した。逢瀬だと思っていたが、どうやら勘違いだったようだ。ちょっとつまらないなと息を吐く。
「……その知り合いとは、意中の人だったりしますか?」
なぜこんなことを聞くのだ、と俺は手のひらに汗を滲ませながら後のまつりを味わう。聞かなくても良いことが口から溢れ、後悔に浸る。
フォールは俺を見つめ、目を弧にしひどく穏やかに微笑んだ。
「あぁ、とても愛している人だ」
穏やかに降り注ぐ木漏れ日のような笑みに、俺は固まった。彼がこんな表情をできるだなんて、と心底驚いた。
と、同時に気になった。彼が好いている相手が、誰なのかを。
「あっ」
「……ヒューゴ、いいところに。こちらへ来てくれないか」
城の廊下。いつか見たシチュエーションと同じ場面で、王子に呼び止められた。そこには例のメイド────メロもいた。彼女は手に幾つかの小瓶を持っていて、王子も小瓶を一つ持っていた。蓋を開け、匂いを確かめている様子だ。
俺は小さく悲鳴をあげ、後退りする。フォールが訝しげに眉を顰めた。
「どうした? 来てくれ」
「あ、えっと……」
二人の逢瀬を目の当たりにしてしまったことに罪悪感を抱いていると、王子が手招きをした。渋々、彼に従う。
近づくと、ふわりと甘い匂いが漂った。鼻腔を擽るそれにくしゃみをしそうになり、抑え込む。
王子は小瓶を傾け、匂いを嗅げと促した。何故そんなことを? と言いたくなった言葉を飲み込み、鼻を近づける。
「あはは、いい匂いでしょう?」
ふわふわと、まるでたんぽぽの綿毛のような声音を発したのはメロだ。俺はその声につられながら、無理に笑顔を作る。匂いは花のように甘くて癒されるものだったが、俺は好みではないなと眉を顰める。
次はこれを、とメロから小瓶を受け取ったフォールが蓋を開けた。
「それはシトラス系の香りです。男性でも、女性でも楽しめるものかと」
「……なるほど、いい匂いだ。ヒューゴはどう思う?」
「あ、えぇ。とても、いい匂いです……」
柑橘系の匂いが緩やかに漂う。先ほどの香りよりこちらの方が好きかもしれないな、と内心思った。王子も同意見なのか、オイルを少量手に垂らし馴染ませるように動かした。やがて、これにしようかなと頷く。メロは、お目が高いですね、と朗らかに微笑んだ。
「後ほど調合したものを城へ運ばせますね。きっと、喜ばれますよ」
「ありがとう、メロ。色々、世話になった」
「いえいえ。では、失礼します」
彼女は小瓶を抱えたまま、その場を去った。メイド服の袖を翻しながら小走りで消えていく背中を眺め、そこで王子と二人きりだということに気がついた。
フォールをチラリと見る。彼は手についたオイルの匂いを嗅いでいた。
「すまないな、ヒューゴ。呼び止めて」
「あ……いいえ。あの……今のは何だったのですか?」
「あぁ、ちょっとな。知り合いにハンドオイルをプレゼントしたくて、彼女に助言をもらってたんだ」
メロの知り合いがそういう類に精通してるらしい。だから色々話を聞いてたんだ、と彼が呟く。
そういうことか。と、俺は納得した。逢瀬だと思っていたが、どうやら勘違いだったようだ。ちょっとつまらないなと息を吐く。
「……その知り合いとは、意中の人だったりしますか?」
なぜこんなことを聞くのだ、と俺は手のひらに汗を滲ませながら後のまつりを味わう。聞かなくても良いことが口から溢れ、後悔に浸る。
フォールは俺を見つめ、目を弧にしひどく穏やかに微笑んだ。
「あぁ、とても愛している人だ」
穏やかに降り注ぐ木漏れ日のような笑みに、俺は固まった。彼がこんな表情をできるだなんて、と心底驚いた。
と、同時に気になった。彼が好いている相手が、誰なのかを。
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