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孤独な屋敷の主人について

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「お待ちしておりました、イズエ王、フォール王子」

 屋敷の扉を開け放ち、私は深々と頭を下げた。隣に立つカルベルも一つ間を置いてお辞儀する。おお、いい匂いがするな。そう言い、私たちへは目もくれないイズエはズカズカと踵を踏み鳴らし屋敷内へ侵入する。泥のついた靴で歩き回るなと怒鳴ってしまいそうになり、その背中を睨んだ。

「……兄さん、ご無沙汰しています」

 フォールが頭を下げて、カルベルの手を握った。白々しい。私はそう思ってしまい、しかし顔を引き締め、兄弟仲睦まじい様子を横目で見る。
 フォールは「王子」としてこの屋敷へ来るのは半年ぶりだ。カルベルは頬を緩ませ、目を細める。久しぶり、フォール。そう問いかける声音はとても穏やかだ。そんな音を耳で感受したフォールは心底嬉しそうな表情を浮かべ、頬を染めている。こんな場面をイズエに見られたら、鈍感な彼でも気がつくだろう。私はゴホンと咳払いをして、彼らを食堂へ導こうとした。
 しかし、それはカルベルによって妨げられる。

「……」
「カルベル様。どうなされました?」
「あ、ううん。ちょっと……」

 フォールの手を握ったまま、固まっている彼は何処か驚いた顔をしている。私とフォールは見つめ合い首を傾げた。

「……フォールの手が、知ってる人に似てて」

 瞬間、フォールが勢いよく手を離した。そうですか。そんな人間がいるなんて驚きです。そう冷静に言葉を並べていたが、その表情は緊張を孕んでいたし、つられて私も心臓がバクバクと脈を打っていた。
 手の感触でバレるなんて、あまりにも間抜けすぎる。私はそんなことがあってはならないと、カルベルの背中を押した。ささ、早くお父様の元へ参りましょう。そう言葉を続けると、カルベルはポカンとしていた表情を緩ませ、ゆっくりと頷いた。
 チラリとフォールへ視線を投げる。彼は顔を強張らせたまま、口を硬く閉じ冷や汗を滲ませていた。

「遅いぞ。さっさと席につけ」

 食堂では既に席へ腰を下ろしているイズエが、食事に手をつけている。その行儀の悪さに眩暈を覚えながら、椅子を引きカルベルを座らせた。同様、フォールの元へ向かい椅子を引く。着席する際に耳元で囁いた。

「大丈夫です、あのお方は鈍感なので」

 その声に、フォールが綻んだように軽く微笑み頷く。内心、カルベルに謝罪をしつつ、私はイズエのグラスへワインを注いだ。

「どうだ? カルベル。ここでの生活は」
「はい、父上。特に問題は────」
「良いよなぁ、こんなところでぬくぬくと生活できて。フォールはこの前、隣国へ遠征に行ったんだぞ? そこで、ルザ王と対面してなぁ……」
「わぁ。すごいね、フォール」

 カルベルが視点の合わない瞳で、イズエとフォールを交互に見た。無理に笑顔を作っているが、顔は引き攣っている。フォールはその光景を見て、苛立っているようだった。

「当たり前だ。俺の息子だぞ? すごいに決まってるだろう。お前と違って」
「父様。おやめください」
「フォール、何を謙遜している。出来のいい息子だと褒めているのに」

 イズエが食事を貪りながら鼻を鳴らす。その下品さにも嫌気がさしているのか、フォールはため息を噛み殺した顔をしていた。
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