幼虫の育て方

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リドリーの話

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「あの調子だと、虫との子供がほしいとか言い出しそうだよな」

 肩を揺らし笑うカイデンを強く否定できない。あいつはそういう節がある。ある意味、その思考が羨ましくてたまらない。
 俺は根本的にこの仕事が向いていない気がする。研究は好きだが、しかし。まさかこんな体を張る羽目になるとは予想していなかったのだ。

「辞めたい」
「あはは、契約書を詳しく読まないお前が悪い」

 この研究所で働く際に交わした契約を思い出し、顔を顰める。文字の羅列の中、記載された文章。この研究から退く場合、如何なる研究にも携わらせない、と。
 つまり、この研究所だけではなく他の場所でも就くことを許さないというものだった。
 こんな傲慢で強引な内容を提示する研究所側にも腹が立つし、契約書を詳しく読まなかった自分にも落ち度がある。
 俺は研究が好きだ。それにこれ以外の道を、俺は知らない。
 だから無理してここで働いているのだ。

「まぁ、お前ら被虐性愛者にとっては天国みたいな職場だろ?」

 カイデンの言葉に唇を曲げる。彼はよく、俺たちを被虐性愛者だと決めつける。スニロたちはそうであるとして、俺は違う……はずだ。
 しかし、そう否定したらカイデンは揚げ足を取るに決まっている。だから俺はあえて口を噤んだ。



 研究室へ向かう足が重い。大きなため息を吐き出しながら、今すぐにでも帰宅したい衝撃に駆られる。家へ帰り、シャワーを浴びてベッドに寝転がりたい。嫌なこと全てを忘れてしまいたい。
 いっそ、そうしてしまおうかと思うが、しかし。鉛のような足を引きずり、研究室へ向かう。
 見えた白色の扉の前に立つ。手首につけている端末を機械に翳すと、ドアが左右に開く。一歩踏み出し、中へ入った。
 途端に、蠢く巨大な幼虫が床を這いながら俺へ接近してきた。小さく悲鳴を上げ、これ以上近づくなと両腕を突っぱねて彼を阻止する。

「近寄るな! 先に検査をするから、そこにいてくれ」

 俺の大きな声に、ベルコはピタリと動きを止めた。が、そんな言葉が通じるはずもなく、制止を無視しこちらへ近づく。体を退かせ、彼から距離を取ろうとした。

「わっ、ちょ、お前っ……!」

 だが、ベルコにはそんな抵抗が通用しない。勢いよく突進し、俺の体を押し倒した彼は硬く勃起した性器とそれから垂れる液体を擦りつけてくる。鋭い悲鳴をあげ、ベルコの巨体から逃れようと踠いた。

「嫌だ! いや、だ! やめろ! ……あっ」

 爪を立てて、床を這う。指先に込めた力のせいで、そこが白く変色していた。足をバタバタと動かし、背中に覆い被さろうとするベルコの体を蹴る。しかし、彼の巨体に俺の反撃は通用しなかった。
 ベルコの口がベルトを引っ張った。ぶちぶちという音が聞こえ、ベルトが噛みちぎられる。おい、ふざけんな。そう怒鳴る声を無視し、スラックスを引き摺り下ろす。

「そ、こまでして、したいのか、お前はっ」

 確かにこいつらの性処理も俺たちの仕事である。しかし、こちらにだって仕事の順序がある。それらを無視し、強制的に人を襲うベルコが恐ろしくてたまらない。
 スラックスを下ろされて、下着まで剥がれる。彼の器用さに腹が立ち無意識に唇を噛み締める。監視カメラを睨み、叫ぶ。
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