みんなのたいちょう

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 高台に登り、集落の周りを観察する。ゾンビを見つけ次第、構えているライフルで撃ち落とすのが俺の今日の仕事だ。スコープを覗き込んでいると、遠くから外に視察へ向かっていた車が帰還する様子が見える。ガタガタと激しく動くその黒いボディを眺めながら、視線を外す。

「……隊長、いまだに解放されてないのか」

 隣にいたアントンが息を漏らした。俺は臨戦態勢を解き、座り直す。息を吐き出しながらあぐらをかいた。

「さっき俺が見た時は、まだしてた……」

 そうか。アントンが短く答える。二人の間に沈黙が流れた。ふと、手元にあるライフルへ視線が落ちる。銃を触ったことがない俺に一から手解きしてくれたのがルタだ。君は初めてなのに上手だね。そう朗らかな笑みを浮かべ、優しく丁寧に教えてくれた彼が脳裏をかける。
 同時に男たちに陵辱された姿も過ぎり、かぶりを振った。

「い、いつまであんな馬鹿げたことが続くんだ?」

 俺の言葉に、彼は唇を舐めて黙り込んだ。その額には汗が滲み、何処か居心地が悪そうにしている。

「……俺も」

 風が強く吹く。冷たさに身震いした。

「俺も……彼を抱きたいって言ったら軽蔑するか?」
「は、はぁ?」

 俺は思わず素っ頓狂な声を漏らす。その反応に、すまないとアントンが頭を下げた。

「だってさ、隊長は……すごく愛らしいし、男だとしても惹かれる部分があるだろ? それにこんな生活なんだぜ? 生身の人間を抱きたくなるよ」

 それが男だとしても……そう言い、彼は俯いた。俺は、アントンを強くは責められなかった。何故なら俺は、ルタの姿を見て勃起してしまったからだ。
 なにも言わずに黙り込んだ俺を見て、アントンが変なこと言ったな。と、肩を縮こませる。

「……早く、こんなことが終わればいいのにな」

 アントンのその呟きは、風に掻き消された。



 次の日も次の日も、その悪夢が終わることはなかった。俺は、隊長が男たちの魔の手から解放されている場面を、あの日以降見たことがない。
 ある時は敷地内に設置されたプレハブ小屋の壁に体を預け、大空の下、大人数に代わるがわる犯されていたし、ある日は特定の人物の小屋で、まるで友達の家に集まる子供のように群れた男たちに犯されていた。
 彼に休みなどなかった。溌剌とした音は死に、啜り泣く喘ぎ声しか漏らさなくなった。あの美しい笑顔は消え、苦痛と絶望を孕ませた表情しか浮かべなくなった。綺麗に整えていた身なりもボロボロで、まるで使い古された雑巾のようだった。
 目に見えて、隊長は人以下の扱いを受けていた。けれど、誰も何も言わなかった。助けてと叫ぶ声に耳を貸さず、むしろ加虐の輪の中に入るものが多数だ。一人が複数に陵辱されていたら、他人と同じく暴力を加えたいと願うのが人間の心理なのかもしれない。

「あ゛、ぅ、あっ」
「隊長、ほら、気絶しちゃダメでしょう」

 パン、という音が聞こえ、俺は顔を上げた。ちょうど、監視の仕事を終え高台から降りた頃。茹だるような鋭い日差しが刺す昼間、ルタは武器を保管している倉庫の影で犯されていた。汚れた壁に両手を突っ張らせ、震える足を奮い立たせている隊長は、今にも意識を飛ばしてしまいそうなほどぼんやりとした目をしている。
 周りには数名の男たちがいて、その様子を見物していた。ルタの背後にいる男はこの集落でも一、二位を争うほどの巨漢だ。大きな手のひらで、おもちゃで遊ぶように軽々と隊長の腰を掴み、ガツガツと動かしている。突かれるたびに、ルタが悲鳴を上げた。
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