みんなのたいちょう

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 数年前、世界に謎のゾンビウイルスが蔓延した。人々は戸惑い、恐れ、逃げ惑った。秩序は崩壊し、国は形を成さなくなった。
 それでも尚、人間は生存を諦めなかった。生き残ったもの達で手を繋ぎ、助け合いながら道を歩んだ。
 そして、出来上がったのがこの集落である。非感染者達が集まり、作り出した新たな場所。
 老若男女、生まれた場所、性格、宗教、思想────そんなものは一切関係なく、ただ支え合い互いを守り合うためだけに作られた、新たな世界。
 そこは中心部であるAエリアと、それを守るために囲っているBエリアがある。女子供がAエリアに住み、男はBエリアに住むことがルールである。
 Bエリアに住まう男たちは、基本的に外部からの攻撃からAエリアを守る役割を担っている。責任は重大で、一人一人の肩に、その重みがのしかかっている。
 けれど、俺たちはその重みに耐えられる。
 そう。隊長である、ルタがいる限り────。



「隊長。今日、確保してきた物資をまとめた表になります。確認してください」
「ありがとう、ご苦労様。助かったよ。ゆっくり休んでくれ」

 ルタが穏やかに微笑み、ワッツからメモ帳を受け取る。ポンと肩を叩き、彼を労った。ワッツは厳つい表情をほんの少し緩めて、どうも、と浅く頭を下げる。そのまま、自分の小屋へ帰っていく。厚いワッツの背中を確認し、ルタはメモ帳へ視線を落とした。
 ルタ────確かフルネームはルタ・アルセンという名だった気がする────は、この集落の隊長だ。年齢は二十歳へ足を踏み込む一歩手前であるが、雰囲気は青年というより少年に近い。色白に映える淡い金髪と、吸い込まれるようなスカイブルーの瞳。美しい顔をしており、何処か儚い印象を与える。
 平均的な身長だが線は細く、言っちゃ悪いがこの集落をまとめる隊長だとはとても思えない男である。
 しかし、彼はそんな見た目と相反して、誰にも負けない「殺戮」の才能があった。武器を持たせればここに居る誰よりも自由に使いこなし、誰よりも綺麗に殺すことができる。
 特に射撃を得意としており、遠距離からでも確実に相手を仕留める天才である。ここにいる連中はみんな、彼から武器の使い方や敵の倒し方を学んだ。例に漏れず、俺もその一人である。
 ルタは幼少期から父親の教えで、武器の扱い方を習っていたらしい。
 父さんは、この世界に降り注いだ悪夢を予想していたのかもね。彼は酔うたびに悲しそうにそう語る。(ちなみに彼の両親はすでにゾンビに襲われ他界しているらしい)
 が、いくら武器を自由に使いこなそうが、老若男女が揃うこの集落で隊長を務めるのは困難だ。けれど、彼にはもう一つの強みがある。
 それは人をまとめる力だ。
 彼は誰からも好かれる温厚な性格であり、どれだけ彼に反発するものがいても次の日にはころりと手中に収めてしまうのだ。
 ルタが兼ね備えている強い正義感と清らかな心に触れると、皆が彼を好きになってしまう。例に漏れず────俺も彼が好きだ。彼のためなら命を捧げる覚悟はある。(しかし、彼はきっとそれを望まないだろう。そういう謙虚なところも魅力なのだ)
 そんなある日、事件が起こった。
 この集落を────いや、ルタを大きく狂わせるような、そんな事件が。
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