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夫と娘と日曜日
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「あ、アラーム鳴ったね。はい。じゃあ、シャワー浴びようか」
硬くて居心地の悪いベッドから起き上がり、客を促した。彼は裸体もそのままに何も言わずうつ伏せで寝転がっている。私は面倒臭いな、と言う呟きを堪え、にこやかに微笑みを浮かべ彼の背中をさすった。
「ほら、早くして。延長料金、取られちゃうよ」
悪戯っ子のようにそう言い、風呂場へ向かう。部屋に併設されたそこは、まるで「それだけ」のために取って付けたように存在している。私は見慣れたその光景に息を吐き出した。
「俺と」
「ん?」
「俺と結婚してよ」
最も聞きたくないフレーズが耳を掠め、ため息を噛み殺す。ベッドへ視線を投げると、彼があぐらをかいていた。中年男性のだらしない裸体に眩暈を覚え、とぼけた様に、なんか言った?と聞き返した。
「だから、俺と結婚してよ。俺ならかりんちゃんを幸せにできるよ」
指紋がついた眼鏡越しに見える瞳が、一世一代の告白をする男の目をしていて全身にサブイボがたった。
この男は、きっと何一つ理解してないだろう。
私は結婚がしたいんじゃない。理想の結婚がしたいのだ。完璧な旦那に、可愛い娘。立派な家に、穏やかな日々。ただ、結婚すれば良い訳ではない。結婚したところで、それらが実現する確率はほぼ無に等しい。それは、自身のことだからわかる。私のような低学歴でまともな職についたことのない女が、理想とする家族像を生み出せるわけがない。
そう。自分のことだから、痛いほどわかるのだ。夢物語だと。
だからこそ、私は夢に縋った。夢に生きて、夢から覚める。その繰り返しをしている。それを、彼は誤った受け取り方をした。
結婚すれば良いじゃないか、俺と。だなんて、よく言えたものだ。何故、歳の離れた女を金で購入する男に、惹かれると思い込んでいるのだろうか。私は、彼に夢を見る時間をプレゼントしているだけだ。心を捧げているわけではない。
こういう店に来る男は、時々そこを理解していない。受付で支払った料金が何だったのかを忘れ、本気で私たちにぶつかり、勝手に好意を持つ。
本当に気味が悪い。彼は先程の話を聞いて、自分が「幸彦」になれると、そう思ったのだろうか。私は思わず鼻で笑ってしまう。
「ねぇ、時間過ぎちゃうよ。早く、シャワー浴びて着替えようよ」
「俺、ちょうど母親が孫の顔見たいって言い出してさ。それに介護も必要になってくるし……」
「もう、その話はいいから……」
彼の会話を遮り、眉を顰めた。
「結婚したいんだろ? 貰い手がないなら俺が────」
「あのぉ」
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