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不細工と美人
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眩暈がした。グラグラと足元から崩れ、壊れていくような、そんな。
俺は霞む視界の中、彼女をやっとの思いで捉えた。
「私、モテるんですよ。まあ、言わなくても分かると思いますが。こういう事いうと、高飛車だとか、高慢ちきとか言われるんですけど。見て分かりません? 美人なんですよ。引く手あまたなんです。かれこれ多数の男性に好意を寄せられて来ました。────正直なことを言って良いですか? 貴方の様な人、たくさん見てきたんですよ。笑いかけられただけで、俺に好意があると思い込む、自意識過剰な人。あの、私。貴方のような人を好きになることなんて、まずあり得ないんです。ムスッとしてたら、愛想がないと言われ、愛想よくしてたら勘違いさせやがってと逆上されるこっちの身にもなってくださいよ」
彼女は今までの鬱憤を吐き出すように呟き、額に手を押し当てた。短く息を吐き出し、踵を返す。
「もうひとつ言い忘れてました」
椎名が顔だけを此方に向けた。
「彼女と別れたと私にアピールしていた時に、彼女の容姿を貶しましたよね。貴方、人のこと言えないですよ」
あのさりげないアピールがバレていたのか。全身の毛穴という毛穴から汗が噴き出す。同時に、自身の容姿を貶されたことに困惑した。だって、めぐみはいつも俺をカッコいいと言ってくれた。誰よりも魅力的で、素敵だと。
不意に、佐藤の俺を舐め回すような視線を思い出す。あぁ、こう彼は言いたかったのか。
────身の程を弁えろ、と。
「彼女さんに、よっぽど気を使われていたんですね。そして、愛されてたんですね。そんな彼女を貶すような人に私が惚れる確率は、一%もありません。こんな顔だけの女のために、数年間も愛した彼女を捨てる貴方に、魅力を感じる訳がありません。これが、私の本音です。では」
彼女は颯爽とその場を後にした。何も言えず、膝から崩れ落ちる。俺を構築する全てが、ガラガラと音を立てて壊れていく。俺は、椎名に言い返したかった。お前みたいな女に、俺が告白するとでも思ったのか、と。強がりをぶつけたかった。けれど、彼女はそれさえも吸収してしまうだろう。何故なら彼女は「こういう男」に慣れているのだ。自身の好意を踏み躙られた男の末路を、彼女は十分に理解している。だからこそ、そこまで見透かされることが恐ろしかった。
俺は、夢を見すぎていた。
瞬間、俺は携帯端末を取り出し、めぐみへ電話をかける。急激に、彼女に会いたくなったのだ。あの表情や仕草を思い出し、涙が溢れ出す。脳内で再生されるめぐみとの思い出は、どれも素晴らしいものばかりだ。何故俺は、彼女を蔑ろにしてしまったのか。何故俺は、彼女を捨ててしまったのか。
携帯端末を耳に押し当て、駐車場へ停めている車へ向かう。呼び出し音が鳴り響き、出る気配がない。まだ、仕事中なのだろうか。それとも、夕食を作っていて、手元に携帯が無いのか。
彼女の手料理を思い出し、胸がぎゅうと痛んだ。俺の為だけに一生懸命、手料理を振る舞っためぐみ。無言で食べる俺に、何も言わずニコニコとしていためぐみ。
何故俺は、何故俺は。
車へ乗り込み、ハンドルを握る。向かうは彼女が住まうマンション。俺を待っているに違いない。きっと、黙って俺を迎え入れてくれる。アクセルを踏み、猛スピードで道路を走った。
漸く見えてきたクリーム色のマンションに、胸が弾む。マンション前に車を停め、もう一度電話をかける。出る様子はないが、三階の彼女の部屋には明かりがついている。やはり、手が離せない状況なのだろう。急いで部屋まで向かう。エレベーターに乗り込み、彼女の反応を脳内で予想した。きっと、俺の姿を見た瞬間、泣き出してしまうだろう。
エレベータを降り、廊下を歩む。三〇五号室まで辿り着き、息を整えた。インターホンを鳴らす指先が震える。
第一声はどうしようか。悪かった? ごめん? 愛してる? 整理がつかないが、俺はとにかくめぐみに会いたかった。
ボタンを押し、チャイム音が鳴る。間を置き、中から足音が聞こえた。ゆっくりと開くドアからひょこりとめぐみが顔を覗かせる。
「めぐみ!」
思わず叫んだ。あんなに煩わしいと思っていた彼女の顔面さえ、今では愛おしい。
しかし、彼女は俺の予想とは違った反応を見せた。
俺は霞む視界の中、彼女をやっとの思いで捉えた。
「私、モテるんですよ。まあ、言わなくても分かると思いますが。こういう事いうと、高飛車だとか、高慢ちきとか言われるんですけど。見て分かりません? 美人なんですよ。引く手あまたなんです。かれこれ多数の男性に好意を寄せられて来ました。────正直なことを言って良いですか? 貴方の様な人、たくさん見てきたんですよ。笑いかけられただけで、俺に好意があると思い込む、自意識過剰な人。あの、私。貴方のような人を好きになることなんて、まずあり得ないんです。ムスッとしてたら、愛想がないと言われ、愛想よくしてたら勘違いさせやがってと逆上されるこっちの身にもなってくださいよ」
彼女は今までの鬱憤を吐き出すように呟き、額に手を押し当てた。短く息を吐き出し、踵を返す。
「もうひとつ言い忘れてました」
椎名が顔だけを此方に向けた。
「彼女と別れたと私にアピールしていた時に、彼女の容姿を貶しましたよね。貴方、人のこと言えないですよ」
あのさりげないアピールがバレていたのか。全身の毛穴という毛穴から汗が噴き出す。同時に、自身の容姿を貶されたことに困惑した。だって、めぐみはいつも俺をカッコいいと言ってくれた。誰よりも魅力的で、素敵だと。
不意に、佐藤の俺を舐め回すような視線を思い出す。あぁ、こう彼は言いたかったのか。
────身の程を弁えろ、と。
「彼女さんに、よっぽど気を使われていたんですね。そして、愛されてたんですね。そんな彼女を貶すような人に私が惚れる確率は、一%もありません。こんな顔だけの女のために、数年間も愛した彼女を捨てる貴方に、魅力を感じる訳がありません。これが、私の本音です。では」
彼女は颯爽とその場を後にした。何も言えず、膝から崩れ落ちる。俺を構築する全てが、ガラガラと音を立てて壊れていく。俺は、椎名に言い返したかった。お前みたいな女に、俺が告白するとでも思ったのか、と。強がりをぶつけたかった。けれど、彼女はそれさえも吸収してしまうだろう。何故なら彼女は「こういう男」に慣れているのだ。自身の好意を踏み躙られた男の末路を、彼女は十分に理解している。だからこそ、そこまで見透かされることが恐ろしかった。
俺は、夢を見すぎていた。
瞬間、俺は携帯端末を取り出し、めぐみへ電話をかける。急激に、彼女に会いたくなったのだ。あの表情や仕草を思い出し、涙が溢れ出す。脳内で再生されるめぐみとの思い出は、どれも素晴らしいものばかりだ。何故俺は、彼女を蔑ろにしてしまったのか。何故俺は、彼女を捨ててしまったのか。
携帯端末を耳に押し当て、駐車場へ停めている車へ向かう。呼び出し音が鳴り響き、出る気配がない。まだ、仕事中なのだろうか。それとも、夕食を作っていて、手元に携帯が無いのか。
彼女の手料理を思い出し、胸がぎゅうと痛んだ。俺の為だけに一生懸命、手料理を振る舞っためぐみ。無言で食べる俺に、何も言わずニコニコとしていためぐみ。
何故俺は、何故俺は。
車へ乗り込み、ハンドルを握る。向かうは彼女が住まうマンション。俺を待っているに違いない。きっと、黙って俺を迎え入れてくれる。アクセルを踏み、猛スピードで道路を走った。
漸く見えてきたクリーム色のマンションに、胸が弾む。マンション前に車を停め、もう一度電話をかける。出る様子はないが、三階の彼女の部屋には明かりがついている。やはり、手が離せない状況なのだろう。急いで部屋まで向かう。エレベーターに乗り込み、彼女の反応を脳内で予想した。きっと、俺の姿を見た瞬間、泣き出してしまうだろう。
エレベータを降り、廊下を歩む。三〇五号室まで辿り着き、息を整えた。インターホンを鳴らす指先が震える。
第一声はどうしようか。悪かった? ごめん? 愛してる? 整理がつかないが、俺はとにかくめぐみに会いたかった。
ボタンを押し、チャイム音が鳴る。間を置き、中から足音が聞こえた。ゆっくりと開くドアからひょこりとめぐみが顔を覗かせる。
「めぐみ!」
思わず叫んだ。あんなに煩わしいと思っていた彼女の顔面さえ、今では愛おしい。
しかし、彼女は俺の予想とは違った反応を見せた。
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