上 下
62 / 107
第一章

可能性が理不尽すぎて

しおりを挟む
 いきなり目の前でへたり込んだ私を、クロエ様は慌てて抱き上げて来客用のソファに座らせてくれた。申し訳なかったが、女性でも抱っこの出来る幼女で助かった。
 そして、どうしていきなり父親が出てきたのかをクロエ様は話してくれた。
 この国では年の始めに、前の年に活躍した人々が貴族・平民問わず王宮に招待されると言う。前世では、春と秋に芸能人やスポーツ選手が招待される園遊会があったが、あんな感じなのだろうか?
 そして生活魔法に加え、修道院や教会で寄り添いを始めた功績が認められ、私にも招待状が来たらしい――ただし修道院にではなく、生家であるセルダ侯爵家に。

「昼間に開かれるし、平民も招待される場合があるから、清潔感があって下品な装いでなければ……とは言われているけどね。侯爵家令嬢なら、家で支度を整えるのが筋だと思って送られたようなの」
「……ああ」

 薄々は気づかれているようだが、私は確かに表立って「父親に育児放棄され、使用人達にも放置されてました」とは言っていない。そうなると、礼服の用意などは血縁関係のある父親のところに話がいってしまうだろう。

「修道服では、駄目なんでしょうか?」
「駄目ではないけど、そうなると父親は何をやっているのかという話になるわね」
「……話は解りましたが、それなら家に戻るのではなく、支度だけでは駄目なんでしょうか?」

 正室の死後まもなく、子連れの恋人を後添えとした辺り、恥知らずだと思っていたが――百歩譲って人目を気にしたとしても、せっかくいなくなった邪魔者を何故、わざわざ連れ戻そうとするんだろうか?

「王宮に呼ばれるくらい、あなたが有能だから……今更だけど、後継ぎにと考えたかもしれないわね」
「…………」

 そうだった。父親には私も含めて娘二人で、しかもエマは王太子妃になる予定なのでいずれは家を出る。
 実際の乙女ゲームでイザベルの未来は書かれていないらしいが、ポジションとしては悪役令嬢とは言え、やったことはヒロインへの苦言と、淑女レベルを上げる為の対決までなので断罪や追放はされない。だから、彼女達には弟がいないので侯爵家を継ぐか婿を迎えたのかとエマと話したことはあった。

(それもあって、子供のうちにフェードアウトしたのは良かったって話してたけど……これが、ゲームの強制力? せっかく居場所が出来たのに、結局は家に戻らなくちゃいけないの?)
(……カナさん)

 瞬間、私を呼ぶ現世の私イザベルの声がして――途端に、ポロポロと涙が零れた。

(どうして? 私は、何も変わっていないのに……どうして今更、勝手に)
(イザベル……)

 現世の私イザベルの悲しみが溢れて、涙が止まらない。
 そんな私を気遣って、クロエ様は再び私を抱き上げて部屋まで運んでくれた。
 そして部屋にいたアントワーヌ様が私を受け取り、寝台に降ろしてくれて――私が泣き止み、話せるようになるまで待ってくれた。

「……イザベル? 話してくれるかな?」
「はい」

 私も成人しているが、この世界については知らないことが多い。だから、一人では強制力を跳ねのける手段が思いつかない。
 しかし、アントワーヌ様ならあるいは……そう思い、しゃがんで目線を合わせてくれたアントワーヌ様に、私は頷いてクロエ様から聞いた話を打ち明けた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

村娘になった悪役令嬢

枝豆@敦騎
恋愛
父が連れてきた妹を名乗る少女に出会った時、公爵令嬢スザンナは自分の前世と妹がヒロインの乙女ゲームの存在を思い出す。 ゲームの知識を得たスザンナは自分が将来妹の殺害を企てる事や自分が父の実子でない事を知り、身分を捨て母の故郷で平民として暮らすことにした。 村娘になった少女が行き倒れを拾ったり、ヒロインに連れ戻されそうになったり、悪役として利用されそうになったりしながら最後には幸せになるお話です。 ※他サイトにも掲載しています。(他サイトに投稿したものと異なっている部分があります) アルファポリスのみ後日談投稿しております。

目が覚めたら夫と子供がいました

青井陸
恋愛
とある公爵家の若い公爵夫人、シャルロットが毒の入ったのお茶を飲んで倒れた。 1週間寝たきりのシャルロットが目を覚ましたとき、幼い可愛い男の子がいた。 「…お母様?よかった…誰か!お母様が!!!!」 「…あなた誰?」 16歳で政略結婚によって公爵家に嫁いだ、元伯爵令嬢のシャルロット。 シャルロットは一目惚れであったが、夫のハロルドは結婚前からシャルロットには冷たい。 そんな関係の二人が、シャルロットが毒によって記憶をなくしたことにより少しずつ変わっていく。 なろう様でも同時掲載しています。

もう二度とあなたの妃にはならない

葉菜子
恋愛
 8歳の時に出会った婚約者である第一王子に一目惚れしたミーア。それからミーアの中心は常に彼だった。  しかし、王子は学園で男爵令嬢を好きになり、相思相愛に。  男爵令嬢を正妃に置けないため、ミーアを正妃にし、男爵令嬢を側妃とした。  ミーアの元を王子が訪れることもなく、妃として仕事をこなすミーアの横で、王子と側妃は愛を育み、妊娠した。その側妃が襲われ、犯人はミーアだと疑われてしまい、自害する。  ふと目が覚めるとなんとミーアは8歳に戻っていた。  なぜか分からないけど、せっかくのチャンス。次は幸せになってやると意気込むミーアは気づく。 あれ……、彼女と立場が入れ替わってる!?  公爵令嬢が男爵令嬢になり、人生をやり直します。  ざまぁは無いとは言い切れないですが、無いと思って頂ければと思います。

私の婚約者は6人目の攻略対象者でした

みかん桜(蜜柑桜)
恋愛
王立学園の入学式。主人公のクラウディアは婚約者と共に講堂に向かっていた。 すると「きゃあ!」と、私達の行く手を阻むように、髪色がピンクの女生徒が転けた。『バターン』って効果音が聞こえてきそうな見事な転け方で。 そういえば前世、異世界を舞台にした物語のヒロインはピンク色が定番だった。 確か…入学式の日に学園で迷って攻略対象者に助けられたり、攻略対象者とぶつかって転けてしまったところを手を貸してもらったり…っていうのが定番の出会いイベントよね。 って……えっ!? ここってもしかして乙女ゲームの世界なの!?  ヒロイン登場に驚きつつも、婚約者と共に無意識に攻略対象者のフラグを折っていたクラウディア。 そんなクラウディアが幸せになる話。 ※本編完結済※番外編更新中

誰からも愛されない悪役令嬢に転生したので、自由気ままに生きていきたいと思います。

木山楽斗
恋愛
乙女ゲームの悪役令嬢であるエルファリナに転生した私は、彼女のその境遇に対して深い悲しみを覚えていた。 彼女は、家族からも婚約者からも愛されていない。それどころか、その存在を疎まれているのだ。 こんな環境なら歪んでも仕方ない。そう思う程に、彼女の境遇は悲惨だったのである。 だが、彼女のように歪んでしまえば、ゲームと同じように罪を暴かれて牢屋に行くだけだ。 そのため、私は心を強く持つしかなかった。悲惨な結末を迎えないためにも、どんなに不当な扱いをされても、耐え抜くしかなかったのである。 そんな私に、解放される日がやって来た。 それは、ゲームの始まりである魔法学園入学の日だ。 全寮制の学園には、歪な家族は存在しない。 私は、自由を得たのである。 その自由を謳歌しながら、私は思っていた。 悲惨な境遇から必ず抜け出し、自由気ままに生きるのだと。

【完結】【35万pt感謝】転生したらお飾りにもならない王妃のようなので自由にやらせていただきます

宇水涼麻
恋愛
王妃レイジーナは出産を期に入れ替わった。現世の知識と前世の記憶を持ったレイジーナは王子を産む道具である現状の脱却に奮闘する。 さらには息子に殺される運命から逃れられるのか。 中世ヨーロッパ風異世界転生。

記憶を失くした代わりに攻略対象の婚約者だったことを思い出しました

冬野月子
恋愛
ある日目覚めると記憶をなくしていた伯爵令嬢のアレクシア。 家族の事も思い出せず、けれどアレクシアではない別の人物らしき記憶がうっすらと残っている。 過保護な弟と仲が悪かったはずの婚約者に大事にされながら、やがて戻った学園である少女と出会い、ここが前世で遊んでいた「乙女ゲーム」の世界だと思い出し、自分は攻略対象の婚約者でありながらゲームにはほとんど出てこないモブだと知る。 関係のないはずのゲームとの関わり、そして自身への疑問。 記憶と共に隠された真実とは——— ※小説家になろうでも投稿しています。

もう死んでしまった私へ

ツカノ
恋愛
私には前世の記憶がある。 幼い頃に母と死別すれば最愛の妻が短命になった原因だとして父から厭われ、婚約者には初対面から冷遇された挙げ句に彼の最愛の聖女を虐げたと断罪されて塵のように捨てられてしまった彼女の悲しい記憶。それなのに、今世の世界で聖女も元婚約者も存在が煙のように消えているのは、何故なのでしょうか? 今世で幸せに暮らしているのに、聖女のそっくりさんや謎の婚約者候補が現れて大変です!! ゆるゆる設定です。

処理中です...