上 下
37 / 107
第一章

どうしよう、ツッコミどころが多すぎる

しおりを挟む
 家畜の世話は、冬の間も交代でしていた。
 とは言え、やはり外の暖かさや陽射しなどは冬と違う。春になったのだとしみじみ思いながら、私は闇魔法で作った人形を操りつつフォークを使って家畜小屋の清掃をしていた。

(そう言えば、前にこうして掃除をしてたら、暴風雨アルスが……あ)
(カナさん?)
(いや、何かこういうの、フラグになるかなって)
(フラグ?)

 現世の私イザベルの問いかけに、前世の私加奈は答えた。当然、前世の考え方なので、現世の私イザベルは意味が解らず、不思議そうに首を傾げる。

(まあ、でも暴風雨アルスは……アポなしはあるけど、怒鳴り込んでくることはないし。そんな暴風雨アルスを経由することになってるから、他の二人がいきなり来ることはないし……ありがたいことに、ケイン経由で断ってから王太子も来てないし)

 なんて考えながら、私は古い敷料(布団やトイレ代わりに敷いている藁など)を掃除し、新しいものを補充した。そんなわたしに、不意に背後から声がかけられる。

「イザ……お姉さまっ」

 修道院にいる幼女は、自分だけだ。それなのに聞こえた幼い女の子の声と内容に驚き、闇の魔法人形に抱えられたまま振り返ると去年、一度会っただけの異母妹がいた。波打つ髪は光の加減でピンクに見える、ストロベリーブロンド。大きな瞳は、澄んだ青――確か、名前は。

「……エマ?」
「っ!?」

 ローラから聞いた名前(現世父から聞いたかもしれないが、前世の記憶が甦ったショックと、現世の私イザベルを庇うのでいっぱいいっぱいだったので覚えていない)を口にする。
 それに、ハッと息を呑んだかと思うと――エマは祈るように両手を組み、いきなりその場にしゃがみ込んだ。まだ家畜小屋に入っていないが、外は外である。エマが着ているドレスの裾が気になり、私は慌てて魔法人形に降ろして貰って駆け寄った。
 そんな私の耳に届いたのは、すごく早口なエマの呟きだった。

「やだ、イザベル様に名前、呼んで貰っちゃった……いや、エマなんだけど。でも、ゲームでもわたしがエマだったから、ありだし。てか、シスター姿の幼女、可愛すぎか! 何か、ゆるキャラみたいなのに抱っこされてるし……しかも編み込みとか、レアスチルゲットだぜ! って落ち着け、わたし。今日は、フラグを折りに来たんだからっ」
「…………」

 どうしよう、ツッコミどころが多すぎる。
 けれど、これだけは言わなければならない。そう心の中で結論付けて、私は口を開いた。

「ドレスが汚れたら大変だから、あちらで話しましょうか?」 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

村娘になった悪役令嬢

枝豆@敦騎
恋愛
父が連れてきた妹を名乗る少女に出会った時、公爵令嬢スザンナは自分の前世と妹がヒロインの乙女ゲームの存在を思い出す。 ゲームの知識を得たスザンナは自分が将来妹の殺害を企てる事や自分が父の実子でない事を知り、身分を捨て母の故郷で平民として暮らすことにした。 村娘になった少女が行き倒れを拾ったり、ヒロインに連れ戻されそうになったり、悪役として利用されそうになったりしながら最後には幸せになるお話です。 ※他サイトにも掲載しています。(他サイトに投稿したものと異なっている部分があります) アルファポリスのみ後日談投稿しております。

目が覚めたら夫と子供がいました

青井陸
恋愛
とある公爵家の若い公爵夫人、シャルロットが毒の入ったのお茶を飲んで倒れた。 1週間寝たきりのシャルロットが目を覚ましたとき、幼い可愛い男の子がいた。 「…お母様?よかった…誰か!お母様が!!!!」 「…あなた誰?」 16歳で政略結婚によって公爵家に嫁いだ、元伯爵令嬢のシャルロット。 シャルロットは一目惚れであったが、夫のハロルドは結婚前からシャルロットには冷たい。 そんな関係の二人が、シャルロットが毒によって記憶をなくしたことにより少しずつ変わっていく。 なろう様でも同時掲載しています。

もう二度とあなたの妃にはならない

葉菜子
恋愛
 8歳の時に出会った婚約者である第一王子に一目惚れしたミーア。それからミーアの中心は常に彼だった。  しかし、王子は学園で男爵令嬢を好きになり、相思相愛に。  男爵令嬢を正妃に置けないため、ミーアを正妃にし、男爵令嬢を側妃とした。  ミーアの元を王子が訪れることもなく、妃として仕事をこなすミーアの横で、王子と側妃は愛を育み、妊娠した。その側妃が襲われ、犯人はミーアだと疑われてしまい、自害する。  ふと目が覚めるとなんとミーアは8歳に戻っていた。  なぜか分からないけど、せっかくのチャンス。次は幸せになってやると意気込むミーアは気づく。 あれ……、彼女と立場が入れ替わってる!?  公爵令嬢が男爵令嬢になり、人生をやり直します。  ざまぁは無いとは言い切れないですが、無いと思って頂ければと思います。

誰からも愛されない悪役令嬢に転生したので、自由気ままに生きていきたいと思います。

木山楽斗
恋愛
乙女ゲームの悪役令嬢であるエルファリナに転生した私は、彼女のその境遇に対して深い悲しみを覚えていた。 彼女は、家族からも婚約者からも愛されていない。それどころか、その存在を疎まれているのだ。 こんな環境なら歪んでも仕方ない。そう思う程に、彼女の境遇は悲惨だったのである。 だが、彼女のように歪んでしまえば、ゲームと同じように罪を暴かれて牢屋に行くだけだ。 そのため、私は心を強く持つしかなかった。悲惨な結末を迎えないためにも、どんなに不当な扱いをされても、耐え抜くしかなかったのである。 そんな私に、解放される日がやって来た。 それは、ゲームの始まりである魔法学園入学の日だ。 全寮制の学園には、歪な家族は存在しない。 私は、自由を得たのである。 その自由を謳歌しながら、私は思っていた。 悲惨な境遇から必ず抜け出し、自由気ままに生きるのだと。

【完結】【35万pt感謝】転生したらお飾りにもならない王妃のようなので自由にやらせていただきます

宇水涼麻
恋愛
王妃レイジーナは出産を期に入れ替わった。現世の知識と前世の記憶を持ったレイジーナは王子を産む道具である現状の脱却に奮闘する。 さらには息子に殺される運命から逃れられるのか。 中世ヨーロッパ風異世界転生。

記憶を失くした代わりに攻略対象の婚約者だったことを思い出しました

冬野月子
恋愛
ある日目覚めると記憶をなくしていた伯爵令嬢のアレクシア。 家族の事も思い出せず、けれどアレクシアではない別の人物らしき記憶がうっすらと残っている。 過保護な弟と仲が悪かったはずの婚約者に大事にされながら、やがて戻った学園である少女と出会い、ここが前世で遊んでいた「乙女ゲーム」の世界だと思い出し、自分は攻略対象の婚約者でありながらゲームにはほとんど出てこないモブだと知る。 関係のないはずのゲームとの関わり、そして自身への疑問。 記憶と共に隠された真実とは——— ※小説家になろうでも投稿しています。

もう死んでしまった私へ

ツカノ
恋愛
私には前世の記憶がある。 幼い頃に母と死別すれば最愛の妻が短命になった原因だとして父から厭われ、婚約者には初対面から冷遇された挙げ句に彼の最愛の聖女を虐げたと断罪されて塵のように捨てられてしまった彼女の悲しい記憶。それなのに、今世の世界で聖女も元婚約者も存在が煙のように消えているのは、何故なのでしょうか? 今世で幸せに暮らしているのに、聖女のそっくりさんや謎の婚約者候補が現れて大変です!! ゆるゆる設定です。

完 あの、なんのことでしょうか。

水鳥楓椛
恋愛
 私、シェリル・ラ・マルゴットはとっても胃が弱わく、前世共々ストレスに対する耐性が壊滅的。  よって、三大公爵家唯一の息女でありながら、王太子の婚約者から外されていた。  それなのに………、 「シェリル・ラ・マルゴット!卑しく僕に噛み付く悪女め!!今この瞬間を以て、貴様との婚約を破棄しゅるっ!!」  王立学園の卒業パーティー、赤の他人、否、仕えるべき未来の主君、王太子アルゴノート・フォン・メッテルリヒは壁際で従者と共にお花になっていた私を舞台の中央に無理矢理連れてた挙句、誤り満載の言葉遣いかつ最後の最後で舌を噛むというなんとも残念な婚約破棄を叩きつけてきた。 「あの………、なんのことでしょうか?」  あまりにも素っ頓狂なことを叫ぶ幼馴染に素直にびっくりしながら、私は斜め後ろに控える従者に声をかける。 「私、彼と婚約していたの?」  私の疑問に、従者は首を横に振った。 (うぅー、胃がいたい)  前世から胃が弱い私は、精神年齢3歳の幼馴染を必死に諭す。 (だって私、王妃にはゼッタイになりたくないもの)

処理中です...