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第一章

実際に、見て貰うことにしました【3】

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主人公視点/ラウル視点



 闇魔法を使って、小さな体だけだと不可能な剣を持った私に、アントワーヌ様とビアンカ様以外、クロエ様や神兵の皆さんからどよめきが起こる。

「このように、私が闇属性の魔法を使っているのは『重いものを持つ』為です。魔法は攻撃や防御だけではなく、こんな風にもっと色んな使い道があると思います……楽をすると言うより、出来ることを増やすことを目的としています」
「……君が、考えたのか?」
「はい、そうです。他の魔法でも……畑に水を撒いたり、部屋の換気をしたり。炎なら、光の代わりに暗いところを照らしたり、部屋を温かくするのにも使えると思います」
「……炎だぞ? 危険だ」

 そう言うと、ラウルさんは自分の手から燃え上がる炎の球を出した。そんな場合じゃないのだけど、つい心の中の厨二がときめいてしまう。

(ファイヤーボール! 確かに、それをそのまま人や物にぶつけるなら、大火事で大惨事だけど)

 でも、と私は前世の漫画で読んだ言葉を続けた。

「剣のように、魔法も道具だと考えて下さい。私達人間の使い方で攻撃することにも、攻撃を受け止める為にも……そして私の闇魔法のように補助として、杖のようにも使えます。つまり、人の心の在り方次第なんです」
「心の、在り方……」

 そんな私の言葉をくり返すと、それに応えるようにラウルさんの炎の球が小さい、それこそロウソクの灯りくらいの大きさの炎に分かれた。

(ラウルさん、ありがとう! 強面だけど、何て素直で良い人なの!?)

 これなら、希少な光魔法がなくても照明に使える。あと、薪に頼らなくても燃料として魔法の炎が使えるのではないだろうか?
 夢が広がるのに、私がワクワクしていると――不意に、炎を消したラウルさんが私の前で跪いた。そして、慌てて降ろして貰った私の前で金色の頭を下げた。

「……我らに、新たな道を与えてくれたこと、感謝する」
「あ、あの」
「「「感謝する」」」

 次の瞬間、ラウルさんだけじゃなく他の神兵の皆さんも跪き、それぞれ私に頭を下げてきた。
 困ってクロエ様を見ると、何故だか笑顔で返された。

「ああ、気にしないで? すごく喜んでいるだけだから」
「え」
「……貴族や騎士以外、そして光属性以外の魔法は危険視されるのよ。神兵も、全員ではないけれど『魔法を使える場合』他に選択肢がなくて……でも、あなたの考え方だと魔法を使えても『ただの』修道士や修道女にもなれるってことよね?」

 その言葉に、アントワーヌ様達や私は『貴族』だからこそ、その選択肢は除外されていたのだと今更ながらに気づいた。
 そして、自分の常識知らずが良い方向に転がったことに内心、ホッと胸を撫で下ろした。



 怖くない、と彼女は言った。
 そう、初めて会った時も――そして今、この瞬間も。
 その言葉を肯定するように、彼女の琥珀色の瞳はラウルから逸らされることはない。澄んだ眼差しで、真っ直ぐ彼を見つめてくる。

(自分は、神の剣『にしか』なれない人間なのに)

 孤児であり、光属性以外の――炎属性の自分が、神に仕えるには神兵になるしかなかった。それはそれで、信仰の一つの形だと頭では理解していたが。

(そうしないと、自分は危険なんだ)

 そう諦めと共に思っていたことを、無垢な幼女の眼差しが打ち砕いた。使い手次第だと、自分達は武器以外にもなれるのだと教えてくれた。

(神兵は、神とこの修道院を守る存在もの

 そんな己を今更、覆すつもりはないけれど。

(……この清らかな魂も、俺は守ろう)

 小さな体で、己の存在まるごとを受け入れてくれた幼女に、ラウルは躊躇無く跪いた。
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