12 / 24
毒に蝕まれた王女
しおりを挟む
石本体は、ありえないくらいの高温で焼かなければ融けて毒になることはない。だから現代でも、パワーストーンとして求められている。
だが、砕いた粉を吸い込んだりその粉から生まれる口紅、あるいはその色で染められた衣服を身に纏うと駄目なのだ。今回のブランシェのように、鮮やかな色に魅入られて大流行したが反面、何人も死者が出て発売中止になる程だったと言う。エレーヌからすれば恐怖しかない。
(何というか……悪気はないんでしょうけど、一種のテロよね)
話を戻すが、水銀中毒の症状としては先程、指摘した頭痛や吐き気の他に、人格の変化などもある。だから、アーロンと言い合うブランシェの様子を見て、もしや水銀中毒ではないかと思ったのだ。
「エレーヌ。毒とは、どういうことだ?」
「陛下、実は……」
身分的に自分から話せないので、声をかけてくれた国王に感謝をしつつ、ブランシェの行動が、水銀中毒と疑われることと、その原因は口紅やドレスであることを伝えた。いくら他国の王女だとは言え、先程の態度はありえない。しかし水銀中毒だと仮定すればつじつまが合う。もし、このまま中毒が悪化すれば、歩けなくなったり、昏睡状態になったりして、最終的には死んでしまうだろう。
「何と、そのようなことが」
「さようでございます、陛下。美しさを求める女性や役者には人気でしょうが……原料に含まれている水銀が、人の体に溜まってしまうと、やがて害になり、蝕んでしまうのです。とにかく、毒を抜かなければ……」
「……エレーヌよ。そなたなら、ブランシェ王女を救うことは可能か?」
「え、私、死んじゃうの!?」
国王の言葉に反応したのは、エレーヌではなくブランシェだった。
たかが口紅やドレスが死に直結するなんて、この時代の人間にはピンと来ないだろう。
化粧品以外にも、絵画の絵の具にも鉱物が使われているし、現実の歴史でも水銀中毒や鉛中毒が広く知られて、治療法が現れたのは、もっとずっと後の時代なのだから。
(問題は、治療法なのよね……)
久美が生きていた時代には、治療法が存在する。
でも、この戯曲の世界には、当然ながら、そこまで医療が発達していないので、存在しない。そもそも、久美の前世は医療従事者ではない。あるのは、演劇の参考になれば、と色々な時代の絵画や装飾を調べる中で得た知識だけだ。
それでも、試さないままでいることなんて、医者の助手である現世のエレーヌには絶対に出来ないことだった。
「いいえ、私が殿下を死なせたりしません」
だから、エレーヌである久美は力強く宣言した。
義母から教わった作法通り、お辞儀とともに答えたエレーヌは、誰の目から見ても頼もしく、名実ともにベルトラン伯爵家の一員になっていた──。
だが、砕いた粉を吸い込んだりその粉から生まれる口紅、あるいはその色で染められた衣服を身に纏うと駄目なのだ。今回のブランシェのように、鮮やかな色に魅入られて大流行したが反面、何人も死者が出て発売中止になる程だったと言う。エレーヌからすれば恐怖しかない。
(何というか……悪気はないんでしょうけど、一種のテロよね)
話を戻すが、水銀中毒の症状としては先程、指摘した頭痛や吐き気の他に、人格の変化などもある。だから、アーロンと言い合うブランシェの様子を見て、もしや水銀中毒ではないかと思ったのだ。
「エレーヌ。毒とは、どういうことだ?」
「陛下、実は……」
身分的に自分から話せないので、声をかけてくれた国王に感謝をしつつ、ブランシェの行動が、水銀中毒と疑われることと、その原因は口紅やドレスであることを伝えた。いくら他国の王女だとは言え、先程の態度はありえない。しかし水銀中毒だと仮定すればつじつまが合う。もし、このまま中毒が悪化すれば、歩けなくなったり、昏睡状態になったりして、最終的には死んでしまうだろう。
「何と、そのようなことが」
「さようでございます、陛下。美しさを求める女性や役者には人気でしょうが……原料に含まれている水銀が、人の体に溜まってしまうと、やがて害になり、蝕んでしまうのです。とにかく、毒を抜かなければ……」
「……エレーヌよ。そなたなら、ブランシェ王女を救うことは可能か?」
「え、私、死んじゃうの!?」
国王の言葉に反応したのは、エレーヌではなくブランシェだった。
たかが口紅やドレスが死に直結するなんて、この時代の人間にはピンと来ないだろう。
化粧品以外にも、絵画の絵の具にも鉱物が使われているし、現実の歴史でも水銀中毒や鉛中毒が広く知られて、治療法が現れたのは、もっとずっと後の時代なのだから。
(問題は、治療法なのよね……)
久美が生きていた時代には、治療法が存在する。
でも、この戯曲の世界には、当然ながら、そこまで医療が発達していないので、存在しない。そもそも、久美の前世は医療従事者ではない。あるのは、演劇の参考になれば、と色々な時代の絵画や装飾を調べる中で得た知識だけだ。
それでも、試さないままでいることなんて、医者の助手である現世のエレーヌには絶対に出来ないことだった。
「いいえ、私が殿下を死なせたりしません」
だから、エレーヌである久美は力強く宣言した。
義母から教わった作法通り、お辞儀とともに答えたエレーヌは、誰の目から見ても頼もしく、名実ともにベルトラン伯爵家の一員になっていた──。
11
お気に入りに追加
16
あなたにおすすめの小説
夫の不貞現場を目撃してしまいました
秋月乃衣
恋愛
伯爵夫人ミレーユは、夫との間に子供が授からないまま、閨を共にしなくなって一年。
何故か夫から閨を拒否されてしまっているが、理由が分からない。
そんな時に夜会中の庭園で、夫と未亡人のマデリーンが、情事に耽っている場面を目撃してしまう。
なろう様でも掲載しております。
懐妊を告げずに家を出ます。最愛のあなた、どうかお幸せに。
梅雨の人
恋愛
最愛の夫、ブラッド。
あなたと共に、人生が終わるその時まで互いに慈しみ、愛情に溢れる時を過ごしていけると信じていた。
その時までは。
どうか、幸せになってね。
愛しい人。
さようなら。
「お前を妻だと思ったことはない」と言ってくる旦那様と離婚した私は、幼馴染の侯爵から溺愛されています。
木山楽斗
恋愛
第二王女のエリームは、かつて王家と敵対していたオルバディオン公爵家に嫁がされた。
因縁を解消するための結婚であったが、現当主であるジグールは彼女のことを冷遇した。長きに渡る因縁は、簡単に解消できるものではなかったのである。
そんな暮らしは、エリームにとって息苦しいものだった。それを重く見た彼女の兄アルベルドと幼馴染カルディアスは、二人の結婚を解消させることを決意する。
彼らの働きかけによって、エリームは苦しい生活から解放されるのだった。
晴れて自由の身になったエリームに、一人の男性が婚約を申し込んできた。
それは、彼女の幼馴染であるカルディアスである。彼は以前からエリームに好意を寄せていたようなのだ。
幼い頃から彼の人となりを知っているエリームは、喜んでその婚約を受け入れた。二人は、晴れて夫婦となったのである。
二度目の結婚を果たしたエリームは、以前とは異なる生活を送っていた。
カルディアスは以前の夫とは違い、彼女のことを愛して尊重してくれたのである。
こうして、エリームは幸せな生活を送るのだった。
帰らなければ良かった
jun
恋愛
ファルコン騎士団のシシリー・フォードが帰宅すると、婚約者で同じファルコン騎士団の副隊長のブライアン・ハワードが、ベッドで寝ていた…女と裸で。
傷付いたシシリーと傷付けたブライアン…
何故ブライアンは溺愛していたシシリーを裏切ったのか。
*性被害、レイプなどの言葉が出てきます。
気になる方はお避け下さい。
・8/1 長編に変更しました。
・8/16 本編完結しました。
あなたが望んだ、ただそれだけ
cyaru
恋愛
いつものように王城に妃教育に行ったカーメリアは王太子が侯爵令嬢と茶会をしているのを目にする。日に日に大きくなる次の教育が始まらない事に対する焦り。
国王夫妻に呼ばれ両親と共に登城すると婚約の解消を言い渡される。
カーメリアの両親はそれまでの所業が腹に据えかねていた事もあり、領地も売り払い夫人の実家のある隣国へ移住を決めた。
王太子イデオットの悪意なき本音はカーメリアの心を粉々に打ち砕いてしまった。
失意から寝込みがちになったカーメリアに追い打ちをかけるように見舞いに来た王太子イデオットとエンヴィー侯爵令嬢は更に悪意のない本音をカーメリアに浴びせた。
公爵はイデオットの態度に激昂し、処刑を覚悟で2人を叩きだしてしまった。
逃げるように移り住んだリアーノ国で静かに静養をしていたが、そこに1人の男性が現れた。
♡注意事項~この話を読む前に~♡
※胸糞展開ありますが、クールダウンお願いします。
心拍数や血圧の上昇、高血糖、アドレナリンの過剰分泌に責任はおえません。
※外道な作者の妄想で作られたガチなフィクションの上、ご都合主義です。
※架空のお話です。現実世界の話ではありません。イラっとしたら現実に戻ってください。
※リアルで似たようなものが出てくると思いますが気のせいです。
※爵位や言葉使いなど現実世界、他の作者さんの作品とは異なります(似てるモノ、同じものもあります)
※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。
私をもう愛していないなら。
水垣するめ
恋愛
その衝撃的な場面を見たのは、何気ない日の夕方だった。
空は赤く染まって、街の建物を照らしていた。
私は実家の伯爵家からの呼び出しを受けて、その帰路についている時だった。
街中を、私の夫であるアイクが歩いていた。
見知った女性と一緒に。
私の友人である、男爵家ジェーン・バーカーと。
「え?」
思わず私は声をあげた。
なぜ二人が一緒に歩いているのだろう。
二人に接点は無いはずだ。
会ったのだって、私がジェーンをお茶会で家に呼んだ時に、一度顔を合わせただけだ。
それが、何故?
ジェーンと歩くアイクは、どこかいつもよりも楽しげな表情を浮かべてながら、ジェーンと言葉を交わしていた。
結婚してから一年経って、次第に見なくなった顔だ。
私の胸の内に不安が湧いてくる。
(駄目よ。簡単に夫を疑うなんて。きっと二人はいつの間にか友人になっただけ──)
その瞬間。
二人は手を繋いで。
キスをした。
「──」
言葉にならない声が漏れた。
胸の中の不安は確かな形となって、目の前に現れた。
──アイクは浮気していた。
五年目の浮気、七年目の破局。その後のわたし。
あとさん♪
恋愛
大恋愛での結婚後、まるまる七年経った某日。
夫は愛人を連れて帰宅した。(その愛人は妊娠中)
笑顔で愛人をわたしに紹介する夫。
え。この人、こんな人だったの(愕然)
やだやだ、気持ち悪い。離婚一択!
※全15話。完結保証。
※『愚かな夫とそれを見限る妻』というコンセプトで書いた第四弾。
今回の夫婦は子無し。騎士爵(ほぼ平民)。
第一弾『妻の死を人伝てに聞きました。』
第二弾『そういうとこだぞ』
第三弾『妻の死で思い知らされました。』
それぞれ因果関係のない独立したお話です。合わせてお楽しみくださると一興かと。
※この話は小説家になろうにも投稿しています。
※2024.03.28 15話冒頭部分を加筆修正しました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる