上 下
7 / 24

家族への第一歩

しおりを挟む
 久美自身もだが、両親もあまり家族と縁がなかった。親の親、つまりは祖父母も亡く、またどちらも兄弟姉妹がいなかったので、ふたりが事故で亡くなった時、自分は一人ぼっちになった。
 幸い、保険金のおかげで高校には通い続けられたが――両親と同じ世代はともかく、それより上、祖父母世代や逆に小さな子供はまるで接したことが無いので、緊張したし可能な限り距離を置いてしまっていた。おそらくだが、エレーヌも久美と同じような気持ちがあり、仕事を理由にして逃げていたのではと思われる。

(早くに母親を亡くしているからか父親は黙認していたし、新しい侍医の先生は助手が出来て喜んでいたけど……仮にも貴族の妻になったのなら、このままじゃいけないよね)

 そう心の中で結論付けて、エレーヌは顔を上げて話の先を続けた。

「ですが、こうしてアーロン様の妻となったからには……伯爵夫人や皆さまに教わって、アーロン様の衣装を仕立てて差し上げたいのです。今まで、本当に申し訳ございませんでした。どうか、お力を貸して頂けませんでしょうか?」

 再び頭を下げたエレーヌの上で、見えないが目配せをしている気配がする。
 そして、しばしの沈黙の後――伯爵夫人が話し出したのに、そしてその内容にエレーヌは驚いて顔を上げた。

「それなら良いわ! アーロンの為でもあり、自分の為ですもの。ただ貴族の妻になったからって、義務感だけで動いては駄目。やりたい気持ちがないと、続けられなくなるものよ?」
「伯爵夫人……」
「あと、自分から型にはまるのも駄目よ? ただでさえ、周りからは『貴族だから』『妻だから』と色々押し付けられてしまうから……あなたを息子の嫁にと思ったのは、あなたのお父さまへの恩もあるけれど万が一、怪我をしてもあなたなら怖がらず、息子に寄り添ってくれると思ったからだもの。のめり込むのは良くないけれど、やりたい範囲でどちらも頑張りなさい? あ、せっかく家族になったのだから、私のことは『お義母さま』と呼んでちょうだいね」

 エレーヌの視線の先で、伯爵夫人が――義母が、楽しげに笑いながら言う。気づけばそんな義母と同様に、他の侍女たちも微笑ましげにエレーヌのことを見ていた。

(受け入れられた……? そして、家族……私に……)

 咄嗟にシルリーを見ると、笑って頷いてくれた。
 そうしてくれたことで、ジワジワと実感が湧いてきた。前世でも現世でも、一人きりだと思っていた自分に、まさか異世界でこうして『家族』が出来るなんて。

「かしこまりました、お義母さま……皆さまも、これからよろしくお願いします」

 そう答えて、エレーヌは感謝の気持ちを込めて三度、頭を下げるのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

懐妊を告げずに家を出ます。最愛のあなた、どうかお幸せに。

梅雨の人
恋愛
最愛の夫、ブラッド。 あなたと共に、人生が終わるその時まで互いに慈しみ、愛情に溢れる時を過ごしていけると信じていた。 その時までは。 どうか、幸せになってね。 愛しい人。 さようなら。

勘違い令嬢の心の声

にのまえ
恋愛
僕の婚約者 シンシアの心の声が聞こえた。 シア、それは君の勘違いだ。

「お前を妻だと思ったことはない」と言ってくる旦那様と離婚した私は、幼馴染の侯爵から溺愛されています。

木山楽斗
恋愛
第二王女のエリームは、かつて王家と敵対していたオルバディオン公爵家に嫁がされた。 因縁を解消するための結婚であったが、現当主であるジグールは彼女のことを冷遇した。長きに渡る因縁は、簡単に解消できるものではなかったのである。 そんな暮らしは、エリームにとって息苦しいものだった。それを重く見た彼女の兄アルベルドと幼馴染カルディアスは、二人の結婚を解消させることを決意する。 彼らの働きかけによって、エリームは苦しい生活から解放されるのだった。 晴れて自由の身になったエリームに、一人の男性が婚約を申し込んできた。 それは、彼女の幼馴染であるカルディアスである。彼は以前からエリームに好意を寄せていたようなのだ。 幼い頃から彼の人となりを知っているエリームは、喜んでその婚約を受け入れた。二人は、晴れて夫婦となったのである。 二度目の結婚を果たしたエリームは、以前とは異なる生活を送っていた。 カルディアスは以前の夫とは違い、彼女のことを愛して尊重してくれたのである。 こうして、エリームは幸せな生活を送るのだった。

何もできない王妃と言うのなら、出て行くことにします

天宮有
恋愛
国王ドスラは、王妃の私エルノアの魔法により国が守られていると信じていなかった。 側妃の発言を聞き「何もできない王妃」と言い出すようになり、私は城の人達から蔑まれてしまう。 それなら国から出て行くことにして――その後ドスラは、後悔するようになっていた。

公爵様、契約通り、跡継ぎを身籠りました!-もう契約は満了ですわよ・・・ね?ちょっと待って、どうして契約が終わらないんでしょうかぁぁ?!-

猫まんじゅう
恋愛
 そう、没落寸前の実家を助けて頂く代わりに、跡継ぎを産む事を条件にした契約結婚だったのです。  無事跡継ぎを妊娠したフィリス。夫であるバルモント公爵との契約達成は出産までの約9か月となった。  筈だったのです······が? ◆◇◆  「この結婚は契約結婚だ。貴女の実家の財の工面はする。代わりに、貴女には私の跡継ぎを産んでもらおう」  拝啓、公爵様。財政に悩んでいた私の家を助ける代わりに、跡継ぎを産むという一時的な契約結婚でございましたよね・・・?ええ、跡継ぎは産みました。なぜ、まだ契約が完了しないんでしょうか?  「ちょ、ちょ、ちょっと待ってくださいませええ!この契約!あと・・・、一体あと、何人子供を産めば契約が満了になるのですッ!!?」  溺愛と、悪阻(ツワリ)ルートは二人がお互いに想いを通じ合わせても終わらない? ◆◇◆ 安心保障のR15設定。 描写の直接的な表現はありませんが、”匂わせ”も気になる吐き悪阻体質の方はご注意ください。 ゆるゆる設定のコメディ要素あり。 つわりに付随する嘔吐表現などが多く含まれます。 ※妊娠に関する内容を含みます。 【2023/07/15/9:00〜07/17/15:00, HOTランキング1位ありがとうございます!】 こちらは小説家になろうでも完結掲載しております(詳細はあとがきにて、)

五歳の時から、側にいた

田尾風香
恋愛
五歳。グレースは初めて国王の長男のグリフィンと出会った。 それからというもの、お互いにいがみ合いながらもグレースはグリフィンの側にいた。十六歳に婚約し、十九歳で結婚した。 グリフィンは、初めてグレースと会ってからずっとその姿を追い続けた。十九歳で結婚し、三十二歳で亡くして初めて、グリフィンはグレースへの想いに気付く。 前編グレース視点、後編グリフィン視点です。全二話。後編は来週木曜31日に投稿します。

私は既にフラれましたので。

椎茸
恋愛
子爵令嬢ルフェルニア・シラーは、国一番の美貌を持つ幼馴染の公爵令息ユリウス・ミネルウァへの想いを断ち切るため、告白をする。ルフェルニアは、予想どおりフラれると、元来の深く悩まない性格ゆえか、気持ちを切り替えて、仕事と婚活に邁進しようとする。一方、仕事一筋で自身の感情にも恋愛事情にも疎かったユリウスは、ずっと一緒に居てくれたルフェルニアに距離を置かれたことで、感情の蓋が外れてルフェルニアの言動に一喜一憂するように…? ※小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しております。

拝啓、大切なあなたへ

茂栖 もす
恋愛
それはある日のこと、絶望の底にいたトゥラウム宛てに一通の手紙が届いた。 差出人はエリア。突然、別れを告げた恋人だった。 そこには、衝撃的な事実が書かれていて─── 手紙を受け取った瞬間から、トゥラウムとエリアの終わってしまったはずの恋が再び動き始めた。 これは、一通の手紙から始まる物語。【再会】をテーマにした短編で、5話で完結です。 ※以前、別PNで、小説家になろう様に投稿したものですが、今回、アルファポリス様用に加筆修正して投稿しています。

処理中です...